カシオ計算機グループの販売子会社、カシオ情報機器は、IT業界にあって、中小・零細企業向けIT機器販売で一目置かれる存在だ。“使える道具”として独自開発した事務処理専用機器「楽一」は発売から15年以上を経た現在でも、ユーザー企業に広く支持されている。IT機器販売やサポートでそんな得意技をもつ同社は今後、SaaS/ASP時代を見据えて全国販売網を生かしたサービス展開を本格化させる。IT利用形態が「所有」から「利用」へと変化するなか、同社ならではの“泥臭い”取り組みでIT普及を目指す。
谷畑良胤(本紙編集長)●取材/文 ミワタダシ●写真
ユーザーの「電算室長」になる
──大企業を対象に販売展開するITベンダーでさえ、新たな市場として中堅・中小企業をターゲットとし始めています。カシオ情報機器は、初めから中小・零細企業を得意領域にしてきました。こうした環境下でどう戦いますか。
前田 当社では「道具(IT)とは、使えてこそ道具」というコンセプトを基本に据えています。昔と違って、ユーザー企業はコンピュータに慣れている。しかし、ハードウェア、ソフトウェアに限らず、本当にこれら道具を「使いこなすことができているのか」という疑問が根底にあります。ITは、「道具」にすぎません。これが当社事業の基本コンセプトであり、「道具」をいかに使ってもらうかを追求していくことで事業を拡大します。
──日本の場合は、特に世界に比べて中小・零細企業のIT化率が低いことが問題視されていますね。
前田 そうですね。中小・零細企業はITを“武器”として本当に使いこなしているのでしょうか? 当社では、昨年度の経済産業省の「情報化促進貢献/情報化促進部門」で受賞した事務処理専用機器「楽一」(販売管理、会計・給与などの基幹業務専用機)を1992年から販売しています。多くの中小・零細企業に喜ばれているIT機器ですが、まだまだ山ほど課題があると感じています。
──「楽一」は、ITの専任担当者がいない中小・零細企業の実態に合致したIT機器として高い評価を得ています。
前田 日本にはそれぞれの商売に独自の「商慣習」が残っています。いかにコンピュータで納品書や伝票類などを処理しても、商習慣までは一つのパッケージでこなせません。手前味噌になりますが、「楽一」は、さまざまに業種展開ができています。使い慣れた伝票や業務フロー自体を変更せずに導入できるというコンセプトは、これからも生きていくでしょう。
──それでも、もっとユーザー企業に喜ばれるためには課題がある、と。
前田 企業規模にかかわりなく、経営者にとってITの導入は必須になっています。もちろん使いこなしてこそ必須であって、メールで連絡を取り合ったり、Excelで表作成をしますが、もっと使い方を広げることができるはずです。
一方で、これからはSaaS/ASPという形でクライアント/サーバー(C/S)の「自社導入型」から、ますますコストの安いほうへ進むことになり、こうした動きに対応していく必要があります。
──SaaS/ASP型の普及は、IT化率を高めることにつながりますか。
前田 SaaS/ASP型のサービスが普及すると、ユーザー企業に対するコンサルティングや運用、相談窓口など、サービスの広がりが考えられます。当社製品のパートナーの集まりである「販売店会」でよく口にするのは、「これからはお客様の電算室の室長になろう」というフレーズです。何を意味しているかというと、ユーザー企業には、SaaS/ASP型や電子商取引(EC)などに移行した場合に、運用や操作などをきちんとやっていけるのだろうか、という不安があるので、その不安を電算室長に成り代わって解消しようということです。
これには二つのキーワードがあります。まずは「売る側」の当社が、「楽一」のハード面もソフト面も、より使いやすい「道具」にするということ。また、これからは、ネットワークを介した利用が増えるため、自分の会社だけでなく、取引先を含めさまざまな会社が絡んできます。そこまでに至ると、ITに関して相当な能力が必要になります。もっと言えば、当社の「ビジネスモデル」はハード・ソフト販売からサービス型へシフトすべきでしょう。
「使えてこそ道具」。このコンセプトのもとに、ユーザーがきちんと使いこなすことを追求してきた。使いやすい「楽一」とて、課題は山ほどある。
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