粗利率が4割近い高収益体制を築き上げてきた有力SIerのアイティフォー。今年6月に就任した東川清社長は、向こう5年で「売上高を2倍以上に伸ばす」と鼻息が荒い。物販中心からオリジナルのソフト・サービスを立ち上げ、収益力を着実に高めてきた同社だが、こと売り上げについては120億円弱で伸び悩みが目立つ。高収益モデルを維持しながらも、自社商材のクロスセルや販売力を高めるためのM&A、クラウド/SaaS、海外進出など矢継ぎ早に施策を打つことで、トップラインの押し上げに全力をあげる。
安藤章司●取材/文 ミワタダシ●写真
甘い誘いに乗らない信念
──今のアイティフォーに何が足りないとお考えですか。
東川 今年6月に社長に就任しましたが、わたしの代でやるべきことは“売り上げを安定的に伸ばす”ことです。前社長の須賀井(孝夫・現会長)の代で、ハードウェア販売主体のビジネスモデルからソフト・サービスを主軸とするソリューションプロバイダ業への転換が、より確実に進みました。物販からソフト・サービスへと大きく方向性を変えたことは、当社が今後業績を伸ばしていくうえで大きなプラス要因です。この方向性を堅持しつつ、わたしの代では売り上げを安定的に伸ばしていく。
──つまり、これまでは規模を拡大させる力が弱かったと。
東川 ここ数年、年商120億円弱で推移している現状を考えれば、そう指摘されても仕方ありません。ただ、後半から受注環境が悪化した2009年3月期でも、連結粗利率37.5%、営業利益率13.7%を確保できたのは、ソフト・サービスを主体とした収益重視のビジネスモデルあってこそだと自負しています。 複数の主力事業があるなかで、例えば、百貨店向けに強みをもつ当社オリジナルの流通小売り向け基幹業務システムは、受注が決まれば売り上げがドーンと伸びるが、そうでないと落ち込む。ネット通販システムでも、改良やバージョンアップに手間取り、過去に受注を一時止めたことがあるなど、凸凹が目立つ。こうした不安定さをなくすだけで、安定的な成長に向けた前進が可能です。
──アイティフォーといえば、債権管理システムや、先の流通小売向け基幹業務システム、ネット通販など、有力な自社ソフトを多数もっています。こうした商材を販売してくれるパートナーを拡充する選択肢はないのですか?
東川 まったくないというわけではありません。逆に大手コンピュータメーカーや大手SIerからの引き合いが来るほどです。しかし、当社としてはエンドユーザーとの接点を手放すわけにはいきません。周囲を見渡せば、ユーザーとの接点をもたない下請けや人材派遣型のSIerが苦戦しています。直接的に顧客を抱えることは、当社のビジネスモデルのなかで、どうしても譲れない部分なのです。
以前、大手ベンダーに「商流は譲ってもいいが、エンドユーザーとのやりとりは直接当社にやらせてくれ」と提示したけれど、難色を示されてしまいました。先方も当社と同様、エンドユーザーを取られたくないという意識が強い。仮に、当社がエンドユーザーとの直接的なやりとりをある程度諦めれば、売り上げはもっと伸びたかもしれませんね。
──甘い誘いには乗らなかった、と。
東川 そう言えば格好いいのかもしれませんが、実際のところ、オリジナルソフト・サービスの開発では、苦労の連続です。エンドユーザーから多くのことを学ばせてもらいましたし、当社だけでカバーしきれないところは、新たにグループ会社になっていただいた企業にお願いしている部分も少なからずあります。決算上でも、07年3月期までは単体決算でしたが、グループ・関連会社の比重が増えてきたことから08年3月期からは連結ベースの決算に切り替えました。 当社だけでは手に余る部分については、グループ化やM&Aで補ってきましたが、こと販売の部分では、エンドユーザーとの直取り引きにこだわっています。この部分は当社のビジネスモデルの根幹をなす部分ですので、これからも変わりません。
エンドユーザーとの直接取引きは当社のビジネスモデルのなかで、とうしても譲れない部分なのです。
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