パートナー制度を再編
──親会社であるインフォコムが、5月にクラウド型サービス「GRANDIT for Cloud」を発表しました。インフォベックとしてクラウドに対する今後の見通しは?
山口 すでにパートナーであるNECネクサソリューションズさんが09年からサービスを立ち上げています。コンソーシアムメンバーの何社かは、10年度の早い段階で提供を開始するでしょう。コンソーシアム陣営で一本化する話もありましたが、業種によってニーズが変わってきます。そこで、メンバーにいろんな分野でサービスを立ち上げてもらい、フィードバックしてもらいながら戦略をブラッシュアップしていきます。10年度の前半にこれを加速していくつもりです。
──パートナーはこれまで、ライセンス販売やカスタマイズ、導入・保守でビジネスを成り立たせてきました。しかし、クラウドサービス型ではビジネスの様相が大きく変わりますね。
山口 従来型のライセンス提供やカスタマイズ、導入作業、保守といったビジネス形態ではなく、完全なサービス型提供型モデルとなります。つまり、パートナー各社は、「GRANDIT for Cloud」に加えてそれぞれが得意とする業種や連携製品などと融合したクラウドサービスを提供していくことになります。例えばインフォコムが提供する「GRANDIT for Cloud」では、標準版のほか、継続契約アドオンテンプレートやプロジェクト原価管理 工事進行基準対応テンプレートを用意しています。
──クラウドサービスの提供形態はさまざまなものが考えられます。
山口 ソフトバンクのスマートフォン戦略のように、クラウドサービスでは、ハードウェア指向ではなくサービス指向で考えています。現時点では、PaaSベンダーとの協業を推進して、プライベートクラウド環境での提供を検討したいと思っています。
──そうすると、パートナーシップは近いうちに再編していくというお考えなのでしょうか。
山口 サービス提供を主体としたパートナー制度では、さまざまな販路が想定されます。そのため、従来とは異なる形態のモデルになる可能性があります。10年度は、クラウドサービスの拡販に向けて、「クラウド元年」と位置づけ、先進的なプライムパートナー企業との協業を進めていきます。前段で説明した通り、今後はSI企業だけではなく、サービス事業者によるサービス提供も必要と考えていて、そのためのパートナー制度を本年度に整備する予定です。
──クラウド提供でターゲットとする企業の規模について教えてください。
山口 従来のライセンス販売では年商50億円から1000億円くらいの中堅企業をコアターゲットとしています。プライベートクラウドの場合は、年商50億円以下の企業も対象となると考えています。
──どのような製品ロードマップを描いていますか。
山口 「GRANDIT」の標準機能としては、IFRS対応を基軸に据えて、近々、製品ロードマップの公表を予定しています。
──10年度は何社へ導入する目標を掲げていますか。クラウド提供で、中長期的には何社まで伸びそうですか。
山口 ここにきて、見込み客の案件数が回復してきています。今回の不景気の影響で、かえってクラウドの需要が高まるのではないかともみていて、クラウド領域に限れば3年間で100社への導入を見込んでいます。12年度末までには、IFRSがどうなるか明らかになっていて、クラウドもかなり一般化しているのではないでしょうか。
──新興国に進出する国内企業が増えています。海外展開は考えておられますか。
山口 国内の製造業は中国をはじめアジアに進出しています。ニーズは増えていると感じていて、当社でも市場調査を進めています。10年度は、パートナーシップも若干変わってくるでしょう。
眼光紙背 ~取材を終えて~
山口社長は、03年の「次世代ERPコンソーシアム」設立に参画して以来、「GRANDIT」事業の成長戦略に関わってきた。「かなり短期間で成長したと思っている。現在は、この“幼年期”の経験を踏まえて、飛躍していく時期」と意気込みを語る。
自身の社長就任については、「若返りを図った」と話す。前任の小林晃社長(現取締役)からバトンを受け取り、さらに攻めの姿勢を鮮明にした。2008年に週刊BCNのインタビューに応じた小林元社長の発言内容から、現在の山口社長に受け継がれた要素はあまたある。「クラウド元年」宣言や複雑化する会計制度に対する施策の実施などに収れんされるのだ。
クラウド時代を迎えるにあたって、新たなパートナー制度を立ち上げる。対象ユーザーは年商50億円以下の企業や地方企業だ。同社にとっての新しい試みだが、掲げる目標は堅実。着実に数字を積み上げていく。(宮)
プロフィール
山口 俊昌
(やまぐち としあき)1960年、東京生まれ、49歳。日本総研、インフォコム等を経てインフォベックへ。2003年、「次世代ERPコンソーシアム」設立に参画。同年、インフォベック取締役。2010年4月、社長に就任
会社紹介
インフォコムの子会社であるインフォベックは2003年10月、商社系ITベンダー主体の「次世代ERPコンソーシアム」を発足。完全Webプラットフォームを実装したERP(統合基幹業務システム)「GRANDIT(グランディット)」事業を推進する母体としてスタートした。2010年5月には、インフォコムが「GRANDIT for Cloud」を発表し、クラウドビジネスの幕を開けた。