外国人は1割強で、今後も増やす
──データホテルの強みというか、原型みたいなものはオン・ザ・エッヂ時代から、すでに形づくられていたのですか。 嶋田 データホテルは、顧客から預かったシステムを運用するマネージドサービスを強みとして伸びてきました。マネージドといっても、極端な話、オンラインゲーム会社と金融機関では、求められる運用の仕方や情報セキュリティのレベル感がまったく違います。業種・業態ごとに分けたフレームワークを用意しておいて、新しく得たノウハウは、自社のフレームワークに吸収していく。こうすることで効率よく運用できますし、海外など遠隔地のDCを活用するときも、このフレームワークを当てはめることで、短時間でシステムを立ち上げることができる。当時の同僚や先輩たちとともに考案した手法です。
直近では、クラウド時代のニーズに対応するため、パブリッククラウドサービス上での設計・構築から保守運用まで請け負う「ECO(Easy Cloud Operation)」シリーズのサービスメニューの拡充に力を入れています。ECOシリーズは、Amazon Web Services(AWS)やIBM SoftLayer、Microsoft Azure、IIJ GIOなどのパブリッククラウドに対応しており、「オーストラリアで急にITインフラが必要になった」といったときでも、迅速に必要なスペックのITインフラをパブリッククラウド上に構築できます。
──今回の2社1部門の経営統合によって、どのあたりがいちばん統合効果を発揮できそうですか。 嶋田 まず、SAVAWAYのネット通販というコンテンツと、データホテル時代から培ってきたITインフラは非常に相性がいい。もう一つは、NHN PlayArtの技術部門は、外国人比率が高いですね。韓国本社直系ということもあり、まずは韓国人、次に中国人の技術者が多い。統合によって統合前の約170人体制から、一気に350人ほどに増えます。統合後の外国人比率は1割強で、新会社になってからも外国人を積極的に増やしていく方針です。
先のECOシリーズは、グローバルのクラウドサービス上で展開するサービスですので、国内だけに閉じたサービスでは通用しませんし、サービスの特徴も生かせません。NHN PlayArtの技術部門を除けば、当社とSAVAWAYもいずれも国内中心で伸びてきた会社で、ドメスティック色が濃い。このたび、外資系で、しかもグローバルマインドが強い部門と統合する機会に恵まれましたので、2015年以降の新体制では、会社全体でグローバルマインドを高めていこうと考えています。
海外進出ニーズに積極的に応える
──具体的に、どのようにグローバル対応を進めていくお考えですか。 嶋田 まだ具体的に計画が決まっているわけではないのですが、まずは海外拠点を拡充していきたい。国内市場の伸び悩みを考えると、日本の企業は、今後、ますます海外指向が強まっていくとみられるので、海外展開するうえで必要となるITインフラは、すべて当社に任せてほしいと思っています。そのためには、当社自身のグローバルマインドをしっかり社内に根づかせて、国内外の垣根なしに迅速にサービスを提供していきたい。
幸い、当社には「国内もまだ十分じゃないのに、海外なんてうまくいきっこない」などとケチをつける重役もいない若い会社です。それに、株主の韓国NHNグループの海外展開は、日本と同レベルの会社よりも意欲的ですし、考え方も進んでいます。こうした企業文化を貪欲に取り込んで、グローバルマインドを高め、ユーザーの海外進出ニーズに積極的に応えていく方針です。
──海外で勝つポイントはどのあたりにありそうですか。 嶋田 目の前にいる大手プレーヤーを考えるのも重要ですが、私としてはポスト・アマゾン、ポスト・グーグル、つまり今のメジャープレーヤーが築いてきた市場の次に来るのは何なのかを常に考えることがポイントだと思います。また、次世代市場のタネは、世界の果てにあるのではなく、実は自社ユーザーの要望や、社内の日常的な業務のなかにヒントが潜んでいたりするものなのです。最初は小さなタネでも、見過ごさずに大きく育てていくことが経営者に求められており、そういう意味では、私のバックグラウンドが技術者であり、技術のタネを見分けられる素養がある。この点はほんとうによかったと思っています。
──冒頭にITインフラの運用は「楽そうにみえた」とありましたが、海外展開は「楽そう」ですか。 嶋田 いえ、ですから、それは間違っていました。新しいサービスや事業を立ち上げるときは、いつだって大変ですよ。ブラック企業だとそしられたりしかねませんので、自慢するわけでは決してありませんが、私自身、デスマーチに近い苦しみをこれまで何度も味わいました。ただ、これはいわゆる「産みの苦しみ」というやつで、うまくいったときはうれしい。私の場合は、新しいサービスなりが完成し、自分が思い描いてきたストーリーがつながったというか、次のステージがみえてきたときのほうがもっとうれしいですね。性格なのかもしれませんが、完成してしまうと熱が冷めてしまう性格なのかも……。これからも常に“次のステージ”を見据えて、前へ進んでいくつもりです。

‘新しいサービスなりが完成して、自分が思い描いてきたストーリーがつながったというか、次のステージがみえてきたときのほうがもっとうれしい。’<“KEY PERSON”の愛用品>自転車熱を高めるギア 自転車好きの嶋田健作社長は、今夏、イタリア製のロードバイク「PINARELLO(ピナレロ)」を新調。以来、愛車としている。11月には栃木県「ツインリンクもてぎ」でのエンデューロ大会に参加するなど、自転車熱は一向に冷めない。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「日本のITの様相をみると、保守運用などの“作業”部分を自社でやりたがり、肝心の“考える”部分をアウトソーシングしがち」と、テコラスの嶋田健作社長は苦言を呈する。実際、ITインフラまわりを自社で手がけるSIerやユーザー企業は依然として多い。
ITのインフラは、企業の競争力を支える重要な部分ではあるが、ITインフラがその企業の競争力の源泉になっているかといえば、必ずしもそうではない。SIerならシステム構築や業務アプリケーションのノウハウが強みであり、製造業なら製品が競争力の中核になろう。まさにここが“考える”部分に相当する。 こうした企業が、地の利が期待できない海外へ進出する場合はなおさらで、進出先が増えるたびに、現地でITインフラを一から構築し直していては、いつまでたっても肝心な本業に手がつかない。
だからこそ、嶋田社長は国内外のDCやクラウド事業者と連携を強め、「世界中のどこでもITインフラを提供できる体制強化」に大きなビジネスチャンスを見出している。(寶)
プロフィール
嶋田 健作
嶋田 健作(しまだ けんさく)
1976年、北海道北広島市生まれ。2000年、室蘭工業大学卒業。半導体設計の会社を経て、01年、オン・ザ・エッヂ(当時)に入社。12年、データホテル代表取締役社長。14年11月、データホテルから社名変更したテコラスの代表取締役社長に就任、現在に至る。
会社紹介
テコラス(旧データホテル)はNHN PlayArtの子会社でデータセンター(DC)を活用したビジネスを手がけている。親会社のNHN PlayArtは、韓国NHN Entertainmentの100%子会社。NHN Entertainmentは2013年8月に韓国大手ネット企業のNAVERのゲーム事業部門を分割するかたちで設立された。