日立製作所は、中期経営計画の最終年度を迎えた。情報・通信システム社としては、売上高2兆1000億円、グローバル売上比率35%などの目標を掲げてきた。ちょうど2年ほど前から、情報・通信システム社のトップとして舵取りしてきた齊藤裕社長は、この間の成果と課題をどう自己評価しているのだろうか。2015年度以降の日立製作所が、何を強みとしてIT市場の荒波を乗り越えていくのかも含め、齊藤社長の視線の先を追った。
ビッグデータやIoTの活用ニーズは非常に大きい
──まずは、大きな節目となる中計最終年度をまもなく迎えますが(取材日は3月24日)、目標達成に向けた手応えをお聞かせください。 齊藤 一言でいうと、厳しい(笑)。売上高は2兆1000億円、営業利益率9.5%、グローバルの売上比率35%、ソフト・サービスの売上比率を65%にするといった目標を掲げ、事業のポートフォリオを変えようとしてきたわけですが、実際の手応えはなかなか……。グローバルの売上比率は達成できそうですけれども。
国内外ともに、市場に厳しさがあります。国外では北米は好調ですが、ヨーロッパ、ロシアの経済が停滞していて、投資がなかなか加速しません。東南アジアも、それほどインフラを含めてITにはお金が回っていません。
国内市場も、アベノミクスで一見活況を呈しているようにみえるかもしれませんが、現実はまだデフレの延長線上にあるし、IT投資の総枠は増えていません。というよりも、クラウドサービスの浸透などにより、ITプラットフォームの領域は投資が減っていると実感しています。だからこそ、ソフト・サービス比率を65%に上げようとしているわけで、これは国内外共通の戦略ですが、出遅れ感は否めません。
──「社会イノベーション」への貢献も大きなビジョンとして掲げておられて、具体的にはビッグデータ、IoTへの注力姿勢を鮮明にされているという印象です。ここはいかがでしょう。 齊藤 あまり投資が活発とはいえませんね。
──IoTはバズワードともいえますが、市場はまだ盛り上がっていないということですか。 齊藤 盛り上がってはいるんです。実際に、いろいろなトライアルの事業は出てきています。しかし、本格的に社会システムを変えるような投資にはつながっていないということです。
ビッグデータなどは、例えばマーケティングに活用しようというくらいなら、今すぐにでもソリューションを提供できるわけです。日立が得意とする社会インフラの分野でも、ビッグデータやIoTの活用ニーズは非常に大きいですが、既存のインフラをリニューアルしていくというプロセスを踏むわけで、ずっと大がかりな準備が必要です。だから、POC(Proof Of Concept、概念実証)のような事業から始めて、ステップ・バイ・ステップで地道に流れをつくっていくしかない。電力システム改革のような話も出てきていますが、そう短期間で加速はしません。IoTの世界でいろいろなサービスをつくり上げて、社会インフラ自体にデータ活用のための仕組みを組み入れていくと同時に、そのなかで新しい価値を生むようなソリューションを構築していかなければなりません。
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