サービス型ビジネスの比率を15%へ
──ネットワーク機器は、ITインフラの性能や、外部からのセキュリティの脅威に対抗する能力が欠かせないとのことですが、ただ、ライバル他社も同様の施策を打つのではありませんか。 それは違います。ITインフラを効率よく制御し、業務アプリケーションの変化に柔軟に対応する。情報セキュリティもしっかり担保されている。この領域というのは、決してコモディティ(日用品)化されていないノウハウが集約されている部分なのです。
ユーザー視点でみれば、市場の変化に適応するためビジネスを変革する。これに伴って業務アプリケーションも迅速に変えていくわけですが、アプリの変化をうまく吸収し、ITインフラを制御するのは、そう簡単ではありません。当社では、このノウハウを「ソフトウェア・デファインド・アプリケーションサービス」と呼んでいます。あくまでもアプリケーション、もっと言えば顧客の業務やビジネスを起点としたアプローチであり、従来のネットワーク機器やITインフラ起点ではありません。
──ネットワーク機器ベンダーが「ITインフラ起点ではない」と言い切ってしまうところが時代の変化を感じますね。 日本では、まだまだITインフラありきでシステムが語られることが多いのですが、IT先進国の米国ではアプリ起点がもはやあたりまえです。機器ベンダーと呼ばれる当社ですが、「F5 Silverline(シルバーライン)」サービスでは、システムに過度な負荷をかけてダウンさせる「DoS攻撃」への対応や、「ウェブアプリケーション・ファイヤーウォール(WAF)」をクラウド方式で提供しています。
顧客のシステムとインターネット接続との中間に挟み込むかたちでSilverlineサービスを置いて、通信トラフィックを当社のセキュリティ運用センター(SOC)で24時間体制で監視します。クラウド型のサービスは、まだ始めたばかりではありますが、日本法人としても2019年までに、こうしたサービス型ビジネスの売上比率を15%までに高めるとともに、情報セキュリティ関連ビジネスも5倍に増やしていく方針です。
──アプリ起点でITインフラをソフトウェアによって定義し直すとなると、売り方も変わりそうです。 ソフトウェア・デファインド・アプリケーションサービスを実装できるパートナーとなると、単なる機器販売では通用しにくくなる傾向は強まるでしょうね。顧客の業務を熟知し、アプリやシステムを構築できるパートナーとのエコシステムをより強固なものにしていく必要がありそうです。

‘社長が方針を出して、結果責任は社長が負う。こう言ってくれる人を皆が必要としていた。’<“KEY PERSON”の愛用品>ファスナーつきのシステム手帳 小型のシステム手帳がお気に入りのビジネスグッズだ。ファスナーがついているのが特徴で、A4判の資料も四つ折りにしてこの中に入れている。「客先訪問ではほぼこの手帳一冊ですむ」と、機能性と持ち歩き重視で愛用している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
「IBMではシステム構築(SI)と業務アプリケーションを徹底的に学んだ」と古舘正清社長。その後、日本マイクロソフトでITインフラ領域のビジネスを担い、アプリとITインフラの両方を経験した。そうしたなかで、経営について最も深く学んだのはレッドハットで常務を務めていたときだそうだ。
レッドハット時代は年率2割の成長を掲げて邁進し、組織も大きくした。こうした三つのキャリアが評価され、F5ネットワークスジャパンのトップを引き受けることになる。「F5の成長可能性を実感する一方、ロードバランサーという大きなシェアをもつ商品があるので、少し甘えたところもある」と、冷静にみる。
「バッターボックスに立ったら、とにかく思いっきりバットを振る」ことが古舘社長の経営方針だ。「塁に出られなかったら、そのときまた考えればいいじゃないか。見逃し三振だけは絶対するな」と、全社員を鼓舞する。(寶)
プロフィール
古舘 正清
古舘 正清(ふるだて まさきよ)
1959年、福岡県生まれ。84年、慶應義塾大学文学部卒業。同年、日本IBM入社。営業部長、テクノロジー事業部長を経て、05年、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)業務執行役員第一インダストリー統括本部長。11年、レッドハット常務執行役員パートナー・アライアンス営業統括本部長。15年5月、F5ネットワークスジャパン代表取締役社長に就任。
会社紹介
大手ネットワーク機器ベンダーのF5ネットワークスジャパンは、ロードバランサーで世界的に大きなシェアをもっていることで有名。国内でも約35%のトップシェアを誇り、2019年には50%まで高める目標を掲げる。近年ではDOS攻撃対策やWAFといった情報セキュリティ機能をクラウド型のサービスとして提供するビジネスにも力を入れている。直近の世界での売上高は17億3000万ドル(日本円で約2000億円)。