強みと強みを組み合わせる
──御社は組み込みソフト開発にも強みをもっておられ、今年5月にはクルマ向けOS(ベーシックソフト)のAUTOSARを開発しているSCSK陣営に参加しています。
SCSK陣営で期待されている主な役割は、時間管理ができる通信制御。自動車を制御する車内ネットワークは、電子的に制御する部分が増えれば増えるほど、通信量も増えるのですが、重要な制御部分で通信遅延が起きてしまうと、とても危険なのです。当社は科学技術計算などで使うハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)を手がけてきた経緯から、パフォーマンスが求められるネットワーク制御にノウハウがあります。当社単体のソフト開発事業のうち、実は組み込みソフト開発が3割近くを占めており、組み込みソフト市場で重要な位置を占めるクルマは前々から注目していました。人が乗るクルマではありませんが、自動倉庫や港湾作業で使われる「自動運搬機」の制御ソフトの開発でも、当社は多くの実績があるんですよ。
もう一つ、欧州発祥のUI(ユーザーインターフェース)開発フレームワーク「Qt(キュート)」を、当社は早くから活用しており、車載システム領域では例えばカーナビのUIにも応用が利きます。早ければ年内にも「Qt」の車載システム向けパッケージの提供が始まり、車載領域における「Qt」活用に弾みがつく見通しです。「Qt」の活用では国内随一の実績とノウハウがある当社としては、AUTOSARと一緒に車載領域での「Qt」活用ビジネスに弾みをつけたい。
──海外ビジネスの施策はどうですか。 国内で取引のある日系企業の海外支援は、比較的よく手がけているのですが、地場市場に食い込もうとすると、今のままでは難しいものがあります。日本のSIerって、QCD(品質、コスト、納期)のレベルは国際的にみても高い水準にあるのですが、じゃあ、QCDだけで勝てるのかといえば、海外市場はそこまで甘くはありません。
QCDにプラスして、何か“キラリと光る”優位性が必要です。当社もまだ道半ばですが、手は打っています。例えば今年4月には、シンガポールの金融向けモバイルアプリケーション開発の先進企業であるTagit(タジット)社と資本業務提携しました。当社がもつ金融分野の専門知識やノウハウと、タジット社の地場の金融顧客向けの実績を組み合わせることでビジネスを広げられると手応えを感じています。
──QCDは大切ですが、それだけでは厳しいというのは示唆に富んでますね。 来年11月に、当社は創業50周年を迎えます。社歴が長いだけあって、多くの顧客に支えてもらっているところもあると思うのです。歴代の社長がそうであったように、私も「この先50年」とはいわないまでも、少なくとも「この先20年」耐えられる「技術」や「知財」「ビジネスモデル」を全社員が力を合わせてつくりだせるよう経営の舵取りをします。

SIerのこれからの成長にとって重要な「技術」はどうあるべきかにこだわっていきたい
<“KEY PERSON”の愛用品>父親からのプレゼント 35年ほど前、大学に合格したご褒美にと、父親に買ってもらったセイコーの腕時計。当時流行っていたアナログ時計にデジタル表示の小窓がついたタイプだ。定期的にオーバーホールに出しながら大切に使っている。

眼光紙背 ~取材を終えて~
SRAは、ソフト開発を柱として成長してきたが、同時に「ソフト開発だけでは生き残れない」と危機感を持ち続けてきた。歴代の経営陣が「ソフト開発+α」を模索したのと同様、石曾根社長は「自分の代でも次の成長につながる“何か”をみつけ出す」と意気込む。
これまでにも、SIerにとって有用な「技術」や「知財」を、SRA独自に定義しつくりだすことで、業界水準を大きく上回る営業利益率を達成してきた。石曾根社長が、いま注目するのは、顧客のデジタル・トランスフォーメーションの支援。売り上げや利益を生みだす顧客の事業部門との協業の深化が、次の成長へのヒントになると考える。
情報システム部門から仕事をもらうのも大切ではあるものの、次の成長を考えると、顧客の事業部門と二人三脚で新しいビジネスをつくりだすことも不可欠。「技術や営業スタッフ全員で取り組んでいきたい」と話す。(寶)
プロフィール
石曾根 信
石曾根 信(いしそね まこと)
1963年、東京都生まれ。85年、東京大学工学部卒業。同年、SRA入社。06年、ニュービジネス創造事業部長。07年、執行役員。10年、取締役。16年6月23日、代表取締役社長就任。持ち株会社のSRAホールディングス取締役
会社紹介
SRAホールディングスグループの2016年3月期の連結売上高は前年度比7.2%増の391億円、営業利益は同22.6%増の37億円。うちSRA単体の売上高は185億円、営業利益22億円だった。中期経営計画では18年3月期にグループ売上高400億円、営業利益50億円を目指す。