欄外の情報こそ現場の業務には必要
──業種向けの課題解決というところでは、医療向けの提案も最近強化していますね。 医療もプリント云々ではなく、医療情報をどうハンドリングするかにフォーカスしています。もちろん電子カルテは今ずいぶん普及しつつありますが、病院の先生に実際に話を聞くと、「電子カルテで終わったら、とっくの昔に病院の電子化なんてすんでますよ」とおっしゃる。すべてが電子カルテでは済まない。どういうことかというと、患者さんのもっている背景といいますか、例えばその人の生活上のこだわりとか、家族構成とか、つまりカルテに書けない情報があって初めて診断、診察できるというのが、お医者さんからの要望なんです。そういった情報は、欄外や別紙のメモだったりして、電子カルテからは弾かれて抜け落ちてしまう。
──IT屋さんの発想でいくと、きっちりフィールドを設計して、ここにはこれを書くと決めるのが美しい情報システムですが、実際の現場にはそうでない情報がたくさんあるということですね。 われわれはむしろそちらが得意な分野なんですよ。紙をどのように電子的な情報と紐づけるのか。もちろん、医療の知識がないといけませんが、紙を電子化し、情報をつくり変えて、管理・活用していくというのは、われわれが一般オフィス向けにずっとやってきたことです。今は医療というと、中核病院、町のお医者さん、薬局、介護・福祉施設などがそれぞれもっている情報が共有できていなかった。先生が往診に行ったり、患者さんが病院に搬送された時に、今の血圧と飲んでいる薬だけではなく、過去の関連する情報を一元的にみたいわけです。ドキュメンテーションという立場から、地域の医療をどうしていくか、それをわれわれは提案しているということですね。
──製造業から情報サービス業に近づいているようにもみえますが、SIerも進出しているこの領域での強みはやはりドキュメント関連の知見ですか。 今、企業にイヤというほどある紙が、業務の効率性を阻害している部分というのがものすごくある。減らしたいが、お客様はどうやったらいいかわからない。すると、お客様の社内では「紙を使うな」というような指令が出るわけですが、業務遂行そのものを変えないで、精神論で減らせでは一時的な効果だけで終わってしまいます。そこでわれわれは、仕事のやり方を変えるお手伝いをしていく。われわれの強みは、紙をどう扱うべきかを知っているということです。

「ITから弾かれた情報」をどうするのか
それがわれわれの一番得意な分野
<“KEY PERSON”の愛用品>若手に慕われる印 若手技術者の社内研修でメンターを務めた栗原氏。研修期間後も交流が続き、営業本部長就任祝いとして本革のデスクパッドを贈られた。自筆で筆記する機会は減ったが、これを見る度に彼らの手本となる仕事をしようと気が引き締まる。

眼光紙背 ~取材を終えて~
駆け出し時代の担当エリアは東京・中央区。銀座に拠点を構える優良顧客を相手にできるかと思いきや、割り当てられたのは築地・月島など、当時は市場や倉庫ばかりの地域。それでも、終電後にゴム長靴を履いて市場へ向かい、倉庫業者相手に複写機の契約を取り付ける気鋭の営業マンだった。
営業畑を歩んできたが、社長となってからは営業部門をみる時間は全体の2割ほどという。今は技術・製造・海外戦略に仕事の重点をおいているようだ。商品化の条件はあくまで顧客の課題解決に資するかどうかだが、画像の分析や自然言語処理などでAIにも期待を寄せる。取材を終えると「昨日も今日も朝イチから技術の会議だったんだけど……」とポツリ。インタビューが営業の話題に偏りすぎてしまったようで、反省。ドキュメントソリューションにおける技術戦略についてもあらためて話を聞いてみたい。(螺)
プロフィール
栗原 博
栗原 博(くりはら ひろし)
1953年、宮城県生まれ。78年、学習院大学法学部を卒業し富士ゼロックスに入社。営業統括本部販売本部官公庁支社長、執行役員プロダクションサービス事業本部長などを歴任し、2009年に取締役常務執行役員、14年に取締役専務執行役員に就任。15年6月から現職。
会社紹介
1962年、富士写真フイルムと英ランク・ゼロックスの折半出資で設立。2001年に富士フイルムの出資比率が75%となり、同社の連結子会社に。日本、中国を含むアジア太平洋地区でゼロックス製品・サービスを提供するほか、国内外の拠点で複写機、プリンタ、消耗品の製造および研究開発を担う。16年3月期の連結売上高は1兆1834億円、連結社員数は4万5397人。