2016年4月に新たなNECのトップとなった新野社長。ICTを活用した高度な社会インフラを提供する「社会ソリューション事業」への集中という遠藤信博前社長の方針を継承しつつ、さらに「セーフティ」(公共安全)、「グローバルキャリア」(通信事業者向けネットワーク)、「リテール」(流通業向けITサービス)の3分野を注力事業に位置づけている。再成長に向けた道筋と、そのために避けては通れないグローバル展開の戦略を聞いた。
3分野への注力は間違っていない
──社長としての業務を始められて9か月。まずはその感想をお聞かせいただけますか。 副社長として4年間、遠藤(前社長、現会長)と一緒にやっていましたので、みえている範囲では社長というのがどんな仕事かは理解していたつもりですが、実際に社長になってみて一番違うなと思ったのは、副社長の時代にはまわりから「NEC副社長の新野」という、「新野」という部分があってみられていたのが、社長になると、「新野」だろうが「佐藤」だろうが「田中」だろうが誰でもよくて、まわりは「NECの社長」としてしかみてくれなくなるんですね。そこが自分自身にとっては驚きであり、変化だったのかなと。
だから、お客様のところで話をするとか、講演をするとか、何か決定をするとか、自分の行為は、すべてNECという会社自体の問題になってしまう。最初は自分が何かやろうとするとき、本当にこれでいいのだろうかと、とても神経質になっていましたが、やる前からすべての結果を考えるより、自分ができることを最大限、誠心誠意やろうと決めてからは、少し楽になりましたね。
──CSO(最高戦略責任者)として遠藤前社長とともに決定した、社会ソリューション事業に注力するという方針は、今では社内外に浸透したように思います。一方、2016年度上期決算の数字はあまり芳しくありませんでした。 国内通信事業者の投資が減るとか、消防・防災システムの更新がピークアウトするとか、このあたりの売り上げが落ちるというのは、予算策定時にもわかっていたことでした。そのうえで、セーフティ、グローバルキャリア、リテールの三つを世界で伸ばしていこうと目標設定し取り組んできましたが、思うように伸びなかったということになります。しかし、三つの注力分野は社会的なニーズがある領域で、しかもAIやIoTなどまさにわれわれの技術が貢献できる有望な事業ですので、この領域に注力することは間違っていません。後は、実行力・スピードをより上げていかなければいけないと考えています。
海外でもSIerのポジションを取る
──今、AIやIoTというお話がありましたが、高度な技術があっても、それを事業につなげていくのは簡単ではないように思いますが。 例えば、NECの顔認証は世界でダントツの精度・速度を誇る技術です、と申し上げていますが、それがどんなビジネスになるのか、というお話ですね。確かに、顔認証はすでにいろいろなところで採用されているのですが、SIerが別にいて、当社からは顔認証のエンジンだけを販売するといった形態だと、利益率は高くてもビジネスのボリュームが大きくならないのは事実です。これに対して、例えばアルゼンチンのティグレ市に納入したシステムでは、街中の主要な場所に約1000台のカメラを設置して、顔認証やナンバープレート認証などいろいろな技術を使って、犯罪者や盗難車の捜索、危険運転の察知、犯罪発生マップの作成といったことをやっていますが、このような、一つのまとまったシステムの構築・運用は、長期間のビジネスとしてボリュームも出るものになります。今、パブリックセーフティの領域で考えているのは、自分たちでないとできない技術要素を提供しながら、われわれがSIerとしてのポジションをいかに取るかです。
──これからグローバルで事業を伸ばしていこうとされていますが、どのようにしてとりまとめ役となるSIerのポジションを取っていかれるのでしょうか。 国内ではNECのブランド認知が高く、すでに多くのお客様との関係がありますが、海外ではこれができている国・地域とそうでないところがあります。例えばシンガポールでは、もともと当社のSI要員がいて、研究所も設置しています。インターポールが、世界各国の捜査員が訓練を行うサイバーセキュリティ拠点をシンガポールにつくったのですが、われわれが設備を納めさせてもらっており、現地政府ともかなりの良好な関係ができています。ここまでいけば、われわれがプライムのSIerになって大きな仕事ができます。オーストラリアでは、州政府などと長期間のマネージドサービス契約を結んでおり、それを核にしながらAIの技術も盛り込むといった取り組みを行っていますが、こちらは現地ICTサービス企業のM&Aによって入っていった市場になります。やり方はいろいろですが、世界でわれわれがターゲットとする主要市場で、同じような関係づくりをしていきます。
──地域別では、今伸びているのはどこでしょうか。 東南アジア、オーストラリア、そして南米ですね。これからはアフリカでも案件が出てくると思います。いずれの市場でもキャリアネットワークはこれまでも含めもちろんやっていますが、より伸ばしたいのはパブリックセーフティです。
──早くから進出されていた中国市場でのAIやIoTの可能性は。 顔認証などの採用は進んでいますが、エンジンの単品販売が中心のため、ビジネスボリュームはあまり大きくありません。現地ベンダーといいパートナー関係がつくれるか次第ですね。
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