コンビニは日本にしかない店舗型IoT
──注力3事業のうち、公共や通信事業者向けはもともとNECが強い領域ですが、リテールというのは少しイメージしにくい分野です。なぜここに注目したのですか。 NECでは数十年前にセブン‐イレブンさんとのおつきあいを開始して以来、コンビニエンスストアの店舗を24時間365日止めないシステムをつくってきました。日本ではコンビニが、生活における「社会インフラ」になっていると思います。今ではPOSだけでなく、監視カメラから空調、調理器具に至るまで、店舗のあらゆる機器を監視・運用し、24時間の営業を支えるソリューションをご提供しており、しかもこれまでずっといろいろなデータを蓄積してきましたので、何をどうしたら売り上げが上がるか、といった予測もできるようになってきている。店舗機器の保守も、故障前に予知して交換できる。これはまさに、店舗におけるIoTですよね。
一方、海外の当社のリテール向け事業は、ほとんどの場合、POSのハードウェアとその保守にとどまっています。そこに、24時間止めない店舗運営に関して積み重ねた膨大なノウハウを入れていく。おそらく、リテール向けにここまでやっているのは日本だけ、さらに国内でも当社だけなので、いいものをもっとグローバルに広げていくということです。コンビニ以外にも例えば、ドラッグストアやガソリンスタンドなどで、同じようなニーズが期待できます。今は北米や東南アジアなどで実証実験を行い、ニーズをより具体的に見極めているところです。
──2020年までにどういう会社になっていたいか、ビジョンをお聞かせください。 社会価値創造型企業への変革を目指すからには、何かの領域で「NECはなくてはならない会社だ」と言われるようにならなければならないと考えています。今までNECは半導体、パソコン、携帯電話といった製品で世界的なブランドを築いてきたわけですが、今はそのあたりがみんな切り離されたりなくなったりした。そして、NECは何の会社なのか、というところを、これからは社会ソリューション事業だと、2013年4月に変えたわけです。
NECの注力分野には
社会的なニーズがある
「なくてはならない」に、今一番近いのはセーフティ・セキュリティの領域です。例えば日本のサイバーセキュリティだけをみても、すごく大変な脅威にすでにさらされていて、守っていかなければいけない。われわれはその中核になっていきたい。セーフティ・セキュリティではNECが世界の3本の指に入る。あるいは同様に、ネットワーク仮想化領域ではトップ3に入る。そういうブランドをつくっていきたいと思います。20年には五輪・パラリンピックが東京で開かれるわけですから、われわれが実現するセキュリティとネットワークを全世界の人たちにみてもらい、それをグローバルに提供していきたいと考えています。
<“KEY PERSON”の愛用品> 愛着のわく道具 スマートフォンに加え、NEC製iモード携帯電話のNTTドコモ「N-01G」を常に持ち歩く。業務の通話にはこちらを使用している。バッテリが長持ちで話しやすく、手になじむ道具だ。これからも末永く愛用していく。
眼光紙背 ~取材を終えて~
グローバルのIT市場を俯瞰的な視点で眺めながら、NECの勝負どころを説明する新野社長の語り口は、IoTやAIの未来を前のめりに話す遠藤前社長のそれとは対照的。これまで記者会見などで何度かプレゼンテーションを聞いたことがあったが、クールな人物という印象だった。しかし、単独インタビューとしては「週刊BCN」初登場となる今回の取材では、表情を崩しながら社長就任時のプレッシャーも率直に話してくれるなど、これまで隠れていた本来の温厚な人柄が表れた。
大学生時代はアメリカンフットボール部に所属。激しいぶつかり合いだけでなく、局面ごとの作戦が勝敗を大きく左右する頭脳スポーツだ。新野社長は戦略立案の要となるCSOを4年務めたが、組織のフォーメーションと戦略の実行には学生時代の経験が生きているのかもしれない。(螺)
プロフィール
新野 隆
1954年生まれ。77年、京都大学工学部を卒業しNECに入社。金融向けの営業畑を歩み、2006年に金融ソリューション事業本部長に就任。11年6月に取締役 執行役員常務、同7月に同職 兼 CSO、12年4月に代表取締役 執行役員副社長 兼 CSO 兼 CIOに就任。16年4月より現職。NECがCEO職を置くのは新野氏の代が初で、グローバルに向けて実質的トップを明確化するのがねらい。
会社紹介
1899年創立の電機メーカーで、正式社名は日本電気(にっぽんでんき)。パブリック、エンタープライズ、テレコムキャリア、システムプラットフォームの4領域で事業を行っており、通信とITの両分野に強みをもつ。2016年3月期の連結売上高は2兆8212億円。従業員は9万8726人(16年3月末時点)。連結子会社は217社(同)。