──日本法人のスタートから約5年ですが、環境はどのように変わりましたか。
本来、競合他社と同じようなコンセプトで戦っている状態のときに、マーケットが一番拡大するんですよ。それに対してティントリは、One and Onlyの立場です。仮想化専用ストレージはニッチな製品ですし、覚悟はしていましたが、なかなか苦労しました。
ところが、4年半の間にありとあらゆるアプリケーションが仮想化していき、いまや7~8割が仮想化されています。ティントリの仮想化専用という立ち位置は変わっていませんが、その居場所自体が急激に拡大しました。ここまで拡大するとは予想していませんでした。いい意味でわれわれの追い風になっています。さらにフラッシュメモリとHDDのハイブリッドでは対応できないようなアプリケーションも仮想化されるようになりました。2年前にオールフラッシュのストレージを出したのはそういった理由からです。
──仮想化環境がさらに進むとティントリのあり方はどのように変わっていくのでしょうか。
すでに、サーバーやストレージを持ってきて、客先で組み上げるようなオンプレミスの案件は激減しています。その分、クラウドビジネスが伸びているわけです。当社では、クラウド向けの売り上げが国内だけで4割以上になります。セキュアで信頼性が高く、サービスレベルまでわけてサービスを提供するクラウド事業者にとって、われわれのVM単位で管理できるストレージ環境がものをいうわけです。金額だけで商売するようなパブリッククラウドには入れませんが、ティントリが必要なクラウド環境は間違いなくありますし、減ることはないと思っています。
全社売り上げの10%強が日本
──ほかの外資系ベンダーと比べ、グローバルにおける日本の売上比率が高いと聞きました。
先日、会計年度を締めましたが、第1四半期、第2四半期、第4四半期ともグローバルの10%強を日本の売り上げが占めています。第3四半期にはさらに堅調で、本社に日本法人の存在感を示すことができました。これは、ティントリがもつ技術、独自性に注目していただいた富士通とOEM契約を結べたことが非常に大きいです。このおかげで日本市場で大きく数字を伸ばすことができました。
この10%という数字は大きな意味があります。本社の売り上げの10%を生み出しているのが日本のお客様なのですから、日本市場の声は無視できなくなります。つまり、日本のお客様好みの製品が開発しやすくなるわけです。
例えば、本社が開発している技術を、日本のお客様が求めていたことがあります。そこで、開発を動かして実装タイミングを半年早めさせました。本社と開発を動かすことができるなんて、現地法人をやっていて一番の醍醐味ですよ。
本社を動かすためには、10%前後の売上比率を確保できていることが、ものをいうわけです。瞬間風速で10%を取るのではなく、10%を維持し続けることが重要なのです。大変ではありますが、幸いにも日本法人の全スタッフがこの目標を理解してくれているので、クリアできています。本当に優秀な社員に恵まれていますよ。
──今年達成したいことや目標を教えてください。
仮想化を取り巻く環境はこの数年で急激に変わりすぎて、正直3年後を予測するのは難しいですね。なので、まずは直近の目標になりますが……。今年、ティントリジャパンは設立から5年となります。5年というのは節目の時期です。ベンチャーから一歩進み、今年はちゃんと地に足を着かせることを目標としています。
具体的には日本にデポをもちたいと考えています。日本法人を立ち上げたばかりの頃は、パーツの保持などをパートナー様に頼っていました。デポをもつことで、サポート行為をより効率的にコストメリットがあるかたちで提供できます。そのためにどのぐらいの時期に投資をするか。昨年から準備を進めています。
ベンチャーからエスタブリッシュメントへ。今年はベンチャーではないティントジャパンが進化していく初年度になると思っています。
仮想化専用という立ち位置は変わりませんが
その居場所自体が急激に拡大しました。
いい意味でわれわれの追い風になっています。<“KEY PERSON”の愛用品>親友がつくる老眼鏡 眼鏡店を経営する親友がつくる老眼鏡。人より早く老眼になってしまった河野社長のため、定期的に視力を測定し、フレームまですべてお任せでつくってくれるという。「気にかけてくれている、という心遣いが嬉しい」と語る。

眼光紙背 ~取材を終えて~
急激な変化をくり返すIT市場では、河野社長の予想外のことが起きる。クラウド環境が注目され始めた頃、とにかく安さ重視でクオリティは二の次という「安かろう悪かろう」の傾向にあった。そういう時代が続くとティントリの高付加価値製品は受け入れられないのでは、と設立当時は不安を抱いていたという。だが、安かろう悪かろうの時代は短く、やがて「安かろうよかろう」の時代がやってきた。しばらくは向かい風だと思っていたが、思いがけず追い風に変わった。ティントリの特別な製品を、変化が激しく、ハードウェアにこだわらない市場にどうアジャストしていくか。「一番大きな、そしてやりがいのあるチャレンジだ」と河野社長は語る。(海)
プロフィール
河野通明
(こうの みちあき)
1961年、東京都中央区築地生まれ。86年3月、早稲田大学社会科学部を卒業。同年4月に日本DECに入社。90年、サン・マイクロシステムズに、98年、ネットワークアプライアンス(現NetApp)に、2006年、データドメインに入社。09年にデータドメインがEMCに買収され、データドメインジャパンのカントリーマネージャーとEMCジャパンの執行役員兼BRS事業本部長を歴任。12年6月、ティントリの日本法人、ティントリジャパンを設立し、職務執行者社長に就任。
会社紹介
ティントリは、2008年に設立した仮想化専用ストレージベンダー。11年に製品の出荷を開始。アップルやゼネラル・エレクトリック(GE)など米国の大手企業向けを中心に、ビジネスを伸ばしてきた。12年に日本法人、ティントリジャパンを設立し、仮想化環境に特化したストレージ製品を提供。VMwareの仮想マシンをVMDK(仮想マシンディスク)単位で管理運用できる先進的な製品を提供している。