ビットコインのコア技術として誕生したブロックチェーンは、FinTech領域のイノベーションという位置づけを超え、インターネット以来の大きな変革を社会にもたらす汎用性のある新技術であるという評価を確かなものにしつつある。ここに商機を見出した国産スタートアップであるbitFlyerは、世界的なビッグプレイヤーを向こうに回し、次世代のエンタープライズIT市場の主役の座を奪いに行く。
取引所で収益を上げブロックチェーンに投資
──まずはbitFlyerの成り立ちから教えてください。大手外資系投資銀行のトレーダーという、外からみると華やかな職種から起業されました。
もともと起業という夢を一回は追いたいと思っていたんです。トレーダーはハードな仕事で、生き残り競争も激しく、40歳を超えても続けるのはなかなか難しい。たいていの人は次のキャリアを考えながら働いています。私のキャリアのスタートはゴールドマン・サックスのエンジニアで、Finance、Technologyの両方を経験しましたから、やはりFinTechで起業したいと思ったんですね。それで、38歳の誕生日に会社を登記しました。
──FinTechにもいまやいろいろありますが、bitFlyerはビットコイン、ブロックチェーンをビジネスの種に選びました。その理由は?
ビットコインについては2010年くらいから知っていたんですが、13年の11月に、元FRB議長のベン・バーナンキさんが仮想通貨を容認する発言をしたら、価格が何十倍にも跳ね上がったんです。それで、これにかけるしかない、世界は絶対に変わると思ったんです。
起業を決意して、まずはエンジニア時代の上司だった小宮山(峰史・取締役CTO)に声をかけました。加納君がやるならついていくよと二つ返事でOKしてくれて、二人でbitFlyerを立ち上げました。彼は私にとって大変尊敬するエンジニアであり、実際、日本でもトップレベルの人材だと思います。そういう人の協力を得られたのは非常に大きかったですね。
──現在のビジネスの柱は、ビットコイン取引所・販売所の運営とブロックチェーン技術の開発・提供が二本柱と考えていいのでしょうか。
大別するとそうです。B2Cの仮想通貨取引所と、B2Bのブロックチェーンという感じですね。
──注力度合いはどちらが上なのでしょうか?
配分は五分五分です。ブロックチェーンについては、経済産業省が「市場規模は67兆円に及ぶ」といっていますが、将来的に非常に大きなビジネスになると私もみています。ただ、すぐに収益にはならないとも思っています。かなり長い期間、基礎研究を続けて、そこから製品にしていく過程が必要です。対して、仮想通貨取引所というのは事業初日から収益が計上できるので、経営という視点ではここでまずはお金を稼がないといけない。順番としては、取引所のビジネスの次に(仮想通貨の)決済サービスが大きくなって、その後にブロックチェーンがくるというイメージです。ポートフォリオを多様化させながら、それぞれの事業が成長していくスケジュールを考慮して、現状の収益や資金調達したお金をR&Dに使っている状況です。
ビットコインの理解なしには語れない
──昨年末には「miyabi」という独自開発のブロックチェーンプロダクトも発表されました。銀行間振込業務へのブロックチェーン適用を模索した三大メガバンクのPoC(昨年11月末に報告書を発表)にも採用されましたが、売り物として世に出すレベルまで仕上がったということですか。
はい、すでに契約をいくつか取れそうな状況です。メガバンクのほうは実証実験ですから、今後どうなるかはわかりません。何かしら続いていくとは思っていますけれども。それとは別に、ある金融系の国内大手企業から本番システムに採用いただくための発注依頼がきています。また、製品発注の段階ではないですが、海外の超巨大金融機関からも引き合いはいただいています。
──miyabiの競合って、何になるんでしょうか。
ハイパーレジャー(Linux Foundationのハイパーレジャープロジェクトが開発・推進するオープンソース技術ベースのブロックチェーン製品群。プロジェクトや製品開発は米IBMが牽引役)でしょうね。
──ハイパーレジャーに対するmiyabiの絶対的な優位性というのは何でしょうか。
簡単にいうと、ハイパーレジャーより圧倒的に速いです。miyabiは、取引件数が増えていくと動かなくなるとか、そういうことはありません。ハイパーレジャー側は、お金があるし、マーケティングは上手いと思います。でも、将来の方向性が定まっていなくて、エンタープライズ向けの製品としてまだ仕上がっていないと感じます。
miyabiは、安全なスマートコントラクト実行機構を実装しつつ、ファイナリティ(取引の確定)やパフォーマンスなど、お客様が困っている課題を解決してきました。ハイパーレジャーはこれから解決しなければならない課題がたくさん出てくると思いますが、われわれはずっと先がみえていたと自負しています。
──エンタープライズIT領域で活用できるブロックチェーン製品の提供という意味では、bitFlyerは先頭集団にいるということでしょうか。
技術的には間違いなく先頭にいます。絶対に世界一だと自信をもっていえます。
──その裏付けとなるものは何でしょう?
自分たちでビットコインプロトコルを一からスクラッチでつくって、取引所も運用し、3年間問題と対峙してきたというのが決定的なポイントです。世の中に仮想通貨の取引所は100社くらいありますが、これをやっているのは数社しかない。だいたいはフリーのソフトウェアをダウンロードして使っているだけなんです。ブロックチェーンはビットコインの理解なしには語れないというのが私の持論ですが、ハイパーレジャーはビットコインなんて何もやっていないわけです。少なくとも、この分野において、技術力でIBMに負ける気はまったくしないです。
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