新しいDB市場のオラクルになる
──miyabiの用途としては、シェアリングエコノミー、IoT、公共系システムなどの基盤も想定されているようですが、まずは金融機関が主な顧客になりますよね。ビジネスとしてはどのように立ち上がっていくとみていますか。
小さいユースケースなら、今年中にいくつか出てくると思っています。来年以降には、クラウド上で汎用的に使えるサービスとして展開していきたいと考えています。とはいえ、金融機関の勘定系システムであれば更改のタイミングもありますし、テストも相当な期間しなければならないでしょう。社会インフラに活用するのであれば、安心・安全に関する国民への啓発活動もやらなければなりませんので、市場を大きく拡大していくためには、長期的な視点での活動も必要でしょう。ただ、miyabiはそうしたケースでも十分に使っていただける製品にすでに仕上がったと自負しています。
──bitFlyerは、将来的にどんな企業になりたいんでしょうか。
私たちはオラクルになりたいと思っているんですよ。ブロックチェーン製品をクラウドサービスとして広く提供したいという意味では、セールスフォース・ドットコムになりたいともいえますね。
私たちは、ブロックチェーンを「新しいデータベース」であると明確に定義しています。ブロックチェーンって何なのかという議論はいまだにあちこちでされていますが、私たちはこれでブロックチェーンを綺麗に抽象化できたと思っているし、従来の議論を収束させる結論だと思っています。
──オラクルになりたいというのは、彼らがRDBの王者であるのに対して、新しいデータベースの王者になりたいということですね。ところで、“新しい”というのは、どういうことでしょうか。
データベースとしてのブロックチェーンの新しさは、ビザンチン耐性と変更不可能性、高可用性という三つの特性を備えているということに集約できます。本人確認、音楽ファイルの所有権移転、登記簿の所有権移転とか、もっといえば仮想通貨も含めて、ブロックチェーンであれもできます、これもできますといわれているすべてのユースケースは、これらのデータベースとしての特性に依存しているだけです。技術屋としては、これが完全に腑に落ちる説明ですね。
──先ほど言及されたブロックチェーンの市場規模予測なども踏まえれば、いまのオラクルを超える企業規模になることも可能だと思いますか。
そうなりたいですね。競合がどれほどうまくマーケティングをやっても、顧客によいものを買うというマインドがあって、見る目があれば、絶対に当社の製品を選んでくれると思います。私はB2Bの製品というのはやっぱりよいものが売れる市場だと思っていますから。
少なくとも、ブロックチェーンの技術力で
IBMに負ける気はまったくしないです。 <“KEY PERSON”の愛用品>新社会人時代から愛用する名刺入れ ゴールドマン・サックス証券に入社したときに支給されたという社名ロゴ入りの名刺入れをいまも愛用している。「初めて名刺をもらったときの喜びはいまも忘れていない」とのこと。ビジネスマンとしての初心を思い出させてくれるアイテムだ。

眼光紙背 ~取材を終えて~
加納さんへの今回のインタビューでは、起業するまでのキャリアの詳細や、プライベートブロックチェーンとパブリックブロックチェーンの違いと世の中にそれぞれがどう普及していくかの展望、ブロックチェーンが実現し得る新しい世界、さらには代表理事を務める日本ブロックチェーン協会の活動や標準化に関する議論、日本のブロックチェーン・スタートアップのエコシステムなど、本文に書ききれなかったテーマについても、濃密な話をしてもらった。非常に多岐にわたる内容が、ロジカルに整理された言葉で矢継ぎ早に飛び込んでくるという印象の対話。迫力があった。
bitFlyerが最終的に目指すものについて聞くと、「社会に変革を起こすというのが絶え間なきゴール」だと答える。「ブロックチェーンは10年に一回しか出てこないような技術革新であり、これで本当に世界は変わる」と信じている。グローバル大手ベンダーを超えるという大きな目標の実現に向けて、これからどんな歩みをみせるのか、楽しみだ。(霹)
プロフィール
加納裕三
(かのう ゆうぞう)
1976年生まれ。2001年に東京大学大学院工学系研究科修了後、ゴールドマン・サックス証券に入社。エンジニアとして自社決済システムの開発を行う。その後デリバティブ・転換社債トレーダーとして機関投資家向けマーケットメイク、自己資産運用などを行う。14年1月にbitFlyerを共同設立。日本ブロックチェーン協会(JBA)代表理事。経済産業省BCシステム評価軸検討委員会委員、全国銀行協会「ブロックチェーン技術の活用可能性と課題に関する検討会」メンバー。
会社紹介
仮想通貨販売所・取引所、ビットコイン決済サービス、ビットコイン広告サービスなどを提供する仮想通貨総合プラットフォーム「bitFlyer」の運営、ブロックチェーンを活用した自社製品・新サービスの開発・提供などを行う。2014年1月設立。資本金は約41億円。