2015年11月、米Hewlett Packard(HP)がPCとプリンタ事業を担った米HP Inc.と企業向け事業の米Hewlett Packard Enterprise(HPE)に分かれた。日本法人も日本HPと日本ヒューレット・パッカード(日本HPE)にわかれ1年以上がたった。IT総合企業の分社化は成功したのだろうか。日本HPの岡隆史社長執行役員に手応えと、今後の経営・販売戦略を聞く。
外部環境の変化に迅速に対応
──日本HPと日本HPEとにわかれて1年以上たちました。改めて分社の経緯、意図を教えてください。
年々、ニッチ・キラーのような競争相手が増え、事業単位で戦わないといけないようになってきました。お金の使い方、戦略変更などはすべて役員会やCEOが判断をしなくてはいけない。しかし、判断を下すには内容を理解しないといけません。そのため事業担当からテーマやテクノロジーについて説明してもらい、理解して判断するというプロセスが必要です。それにはどうしても時間がかかり、こなせる案件が限られてしまいます。会社を割る、ということは判断をする人が2倍に増えるわけで、HPグループで倍の案件をこなせるようになります。
──PC事業とプリンティング事業を一つの会社にまとめたのはなぜでしょうか。
PCもプリンティングもサプライチェーンが似通っており、使う部品、製品サイクル、さらにお客様も完全にオーバーラップしているのです。
PCもプリンタも成長が望めない分野なのでは、という人もいます。確かにただのPC、ただのオフィスプリンタを出していては人口に比例した伸びしか期待できません。ですが、HPとしての付加価値が加わったら新しいビジネスや、新たなお客様を創造できると思っています。
──分社によって日本HPEとの連携はどう変わりましたか。
基本的には大きく変わっていません。特に日本法人は日本HP、日本HPEとも同じオフィスで、会議室や食堂などを共有しています。みんな分社以前と同じ付き合いで、敬語を使うことなく、本音で語り合っています。分社前と変わらずお客様に対してどう提案するか、話し合っていますので、ほかのパートナー様には申し訳ないのですが、日本HPEとは一番緊密な販売パートナーですね。
ほかのパートナー様に対しては、特にパートナー制度を変えていませんので、継続してお付き合いしていただいています。パートナー数の変化もありません。ただパートナー様から、いいことがないと分社した意味がないよね、といわれるので、例えばエンタープライズに特化したパートナープログラムや、製品に特化したプログラムを今後増やしていきます。
──手応えはいかがでしょうか。
製品がよくなった、といわれるようになりました。数字は出せませんが、分社以前よりも開発投資を増やし、製品開発に力を入れています。今までなかったようなジャンルの製品を増やしています。
また、分社したことで、パートナー様に合わせたプログラムや販促を提供できるようになりました。例えば、これまでの勉強会は半日でエンタープライズ、PC、プリンタの情報を詰め込んでいました。分社後は同じ半日でPC、プリンタの情報をお伝えするのですから、よりたくさんの情報を提供できたと思います。パートナー様からすれば、日本HPと日本HPEの両方に出席するため二度手間になってしまうのでは、と危惧しましたが、蓋を開けてみるとエンタープライズとPC、プリンタは担当者が異なっていました。パートナー様からも深い話が聞けてよかった、というお声をいただいています。
成長する商業用印刷に投資
──プリンティング事業ではオフィスプリンタより商業用印刷に力を入れるそうですが、この理由を教えてください。
商業用のなかでも、デジタル印刷機の市場は今後成長する領域と捉え、力を入れています。現在、日本の印刷機市場におけるデジタル化率は4~5%だといわれています。進んでいるといわれるグローバルでも10%ほどです。ですが、今後40%くらいまで成長する市場だといわれています。日本市場で4~5%だとしたら、まだ10倍伸ばす余地があるわけです。
今、印刷の現場では多品種、少量印刷のニーズが高まりつつあります。例えば、その人だけの写真集や、マーケティングツールとして使える商品パッケージなどです。アナログ印刷で大量に刷った物と比べると、単価は4倍ぐらいです。つまり、ボリュームは小さくても利益性が高いのです。
人に合わせたコンテンツを用意するだけではなく、多言語対応も今後拡大していくでしょう。例えば、高級車のマニュアルはその国の言語である必要があります。ですがその国では少数しか売れない、1台しか売れない場合もあるわけです。アナログ印刷ではコストがかかりすぎますから、デジタル印刷機のニーズは高まります。成長分野なので、セールス、サービスを増やしていきます。今は利益を上げる段階ではなく、デジタル印刷機でどういうことができるか知ってもらうフェーズなので、投資をしていきます。
一方、オフィスプリンタ市場は、競合メーカーのすべてが日本企業です。歴史があり、お客様との付き合いも長い。そこに無理に力をかけて入り込もうとするのは投資効率があまりよくありません。
今後伸びる領域として商業用印刷機の市場があり、HPしかない製品、テクノロジーがあります。ですので、まだ十分にカバーできていない、この市場にリソースをかける方が効率がいいわけです。オフィスプリンタはお客様の業種を絞りながら、HPの得意な、製品の特徴が生きる分野にフォーカスしてアプローチしていきます。
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