PCはセキュリティとモビリティがカギ
──コア事業であるPCは、コモディティ化が進んでいます。今後どのような製品戦略を立てていますか。
デザインにこだわっていきます。デザインがいい、というのは薄く、軽く、そして無駄を省いたものです。この無駄を省くためにはマザーボードの設計をどうするか、密度をどう上げていくかなどのテクノロジーやノウハウが必要になります。つまり、テクノロジーやノウハウを磨いていくと、デザインのいいものに仕上がるわけです。
機能面では、セキュリティとモビリティをキーワードに開発しています。セキュリティでは独自技術をもつBIOSセキュリティを派生させて、世界で一番、攻撃に対して強いデバイスであることを前面に出して、ものづくりを進めていきます。
モビリティでは、まずなぜモビリティが必要かを考えます。PCを外に持ち歩くのは、働き方が関係してきます。仕事の仕方を考えると、今後ますますコミュニケーションが大事になる。そうしてたどり着いたのが音声コミュニケーションです。音声というとエンターテインメントを意識して、迫力ある音やきれいな高音などのAV機能が注目されますが、ビジネス系では、例えばどんな場所でも相手の声がクリアに聞こえる、もしくはこちらの声が雑音なく届くといった基本的なところが大切になります。音声処理技術ではHPだけではできないので、Bang & Olufsenとコラボレーションしました。
働き方改革は世界中で取り組まれています。社内だけではなくどこでも仕事ができるように、必要な機能、新しいコンセプトを取り入れていきます。
──PC、プリンティングの次に取り組む事業について教えてください。
コア事業はPC、成長事業はプリンティング、将来事業として3Dプリンタ、イマーシブ(没入型)コンピューティングに取り組んでいきます。今、お付き合いのある3Dプリンタを扱っているパートナー様と一緒にやっていくのはもちろん、3Dプリンタに強みのある新規のパートナー様も開拓していきます。また、イマーシブコンピューティングの「Sprout」は、新しいジャンルの製品なので専任のセールスとサポートを置きます。今の段階ではたくさん売る、というよりはお客様に新しいコンピューティングとはこうだ、と見つけていただくフェーズだと考えています。
今年は成長の年になると思います。昨年までは業界全体が耐える年でした。やっとリカバリして勢いがついてきました。この勢いをどう加速するか。今年は業界の伸びが期待できる年になるでしょう。
デジタル印刷機の市場は今後成長する領域です。
日本市場のデジタル化率が4~5%としたら
まだ10倍伸ばす余地があります。 <“KEY PERSON”の愛用品>アイデアノート 常に持ち歩いているのが、ノートと黒と赤のボールペン。思いついたアイデアを黒ペンで書き込み、赤ペンで進捗をチェックする。ペン先は1mmと太めなので、文字が大きく、2~3か月でノート1冊を使い切るという。

眼光紙背 ~取材を終えて~
昨年に発売したWindows 10 Mobile搭載のビジネス向け3 in 1デバイス「HP Elite x3」。スマートフォンであり、PCであり、タブレット端末である。1台三役の意味を込めて「x3」と名付けられたという。この製品が誕生した経緯について岡社長は、「隣接市場のテクノロジーの先をみたとき、こうなるのでは、お客様がこういう方向に進むのでは、という未来を予測して製品を出している」と話す。とはいっても異なるジャンルの製品を出しているのではなく、現在取り組んでいる事業の延長なのだという。現在は「スマートフォン+α」として提案している。従来とはジャンルの異なる製品にみえるが、同じ顧客、市場に向けた、一歩進んだ製品なのだ。(海)
プロフィール
岡 隆史
(おか たかふみ)
1958年、兵庫県出身。81年、筑波大学卒業後、82年東京リコーに入社。86年に富士通、92年にコンパックに入社。98年にコンパックと日本タンデムコンピューターズの合併に伴いコンパックコンピュータへ。製品統括本部パーソナルコンピュータ製品本部長に就任する。2002年に日本ヒューレット・パッカードとコンパックコンピュータとの合併に伴い日本ヒューレット・パッカードへ。パーソナルシステムズ事業統括 マーケティング本部長に就任。その後、執行役員、パーソナルシステムズ事業統括、取締役副社長執行役員、プリンティング・パーソナルシステムズ事業統括、代表取締役副社長執行役員を歴任。15年、日本ヒューレット・パッカードの分社化に伴い、日本HPの代表取締役社長執行役員に就任。現在に至る。
会社紹介
世界約170か国でPCおよびプリンティング事業を展開する米HP Inc.の日本法人。国内では、約4000社の販売パートナーや直販サイトを通じてビジネスを展開する。近年では、セキュリティやコラボレーション機能を強化した製品に力を入れ、顧客の生産性向上や働き方改革をサポートしている。2017年には、3Dプリンティングやイマーシブコンピューティングなど新しい事業を展開する予定。