プロプライエタリの世界には戻らない
──ERP市場は、クラウド化が近年急速に進んでいるという印象です。市場環境が大きく変化しています。
オンプレミスのインフラをクラウドにもっていきましょうというIaaS、PaaSレイヤのクラウド活用は確実に浸透しています。「完全ウェブ型」と謳っているとおり、GRANDITはおそらくクラウドと親和性の高いERPとしては最初期に出た製品の一つだと思いますし、コンソーシアムメンバーもIaaS、PaaS活用については、いろいろな取り組みをしてきています。
ただ、ERPのSaaS化は市場を見渡してみてもまだ進んでいないです。とくにGRANDITが主戦場としている準大手から中堅企業のレンジはその傾向が顕著です。コンソーシアムメンバーでも、2社がかなり早いタイミングからSaaSで提供することをアナウンス、アピールしてきましたが、結果的にはあまり実績が上がっているとはいえない状況です。
──GRANDITに限ったことではないですよね。
ユーザーにとっては、自分たちが培った仕事のやり方、ノウハウは競争力の源泉であり、それを個別のアドオン/カスタマイズでシステムに写し取っていくべきという考えがあるんです。それが柔軟にやれるのは、SaaSよりもIaaS、PaaSのレイヤであるということでしょう。
──すると、SaaSには注力しない?
SaaSもこれまでと同じように継続はしていきますが、より重視していくのは、クラウド上でAIなどの新しい技術との接続性を高めていくことです。お客様の期待に十分に応えるためには、もはや自前の機能拡張だけでは限界がありますし、新しい技術は将来的に何がデファクトになるかもわからない。それでも、将来にわたってGRANDITがお客様に大きな価値を提供し続けるために、API機能のさらなる拡充などは必要でしょうね。
──大企業を顧客としてきたSAPやオラクルなどの大手ベンダーが、ERPのクラウド化に伴ってターゲット層を広げ、GRANDITと競合する市場も攻めようとしています。
確かにそうですね。それでも、コンソーシアムを母体にユーザーの業務にきちんと向き合って製品をつくっていることが、私たちの揺るぎない強みだと思っています。華やかなメッセージではないですが。
私はホストの資産をオープンの世界にどんどん移していった世代なんですよ。プロプライエタリな世界から、1社に縛られないオープンシステムへの移行をずっとやってきた。しかし、最近のクラウドのメインストリームは、プロプライエタリに戻ろうとしていませんか。ITのユーザーとしての長年の経験から、私にはそうみえるんです。でも、それはユーザーが真に望んでいるものじゃない。常に選択肢が必要なんです。適材適所で柔軟にいろいろなものを組み合わせて使えることがベストです。GRANDITは、その価値観を大切にしています。
──社長としての目標をどう設定されていますか。
ERP市場は、せいぜい年間5%くらいしか成長していませんが、当社は10%以上の成長を続けていますし、今年度(17年3月期)は20%に届こうかという勢いです。むこう3年ほどを目安に、海外ベンダー、国産ベンダーを含め競合に打ち勝ち、市場で3強には入りたいと思っています。
ユーザー企業の立場に立って、
導入後に実際に困ったことを標準機能の拡充で解決していく
という思想をもち続けている
<“KEY PERSON”の愛用品>手に馴じむ「甲州印伝」の名刺入れ 鹿革に漆で模様付けをする山梨県の伝統工芸「甲州印伝」の名刺入れを愛用している。「手に馴じみ使いやすい」とのこと。帝人のIT企画室長の職を離れるときに、交流のあった他社の社内システム部門責任者から餞別として贈られたという。

眼光紙背 ~取材を終えて~
ユーザーの立場でエンタープライズITの世界を長年みてきた。だからこそ、GRANDITというERPパッケージが提供する価値には絶対の自信があるのだという。「ユーザー目線を常に忘れずに、既存機能のブラッシュアップを地道に進めつつ、新しい技術をしっかり製品開発に取り込んでいく。私がこのタイミングでGRANDITの社長になったのは、そこをあらためてしっかりやらなければならない時期にきているからなのだと思っている」と力を込める。
ただし、並み居る強豪を倒して市場の3強に入るには、超えなければならないハードルはまだまだたくさんある。認知度のさらなる向上も急務だろう。愛用している甲斐印伝の名刺入れは、伝統のトンボ模様。「トンボは前にしか飛ばない、“不退転”の決意の象徴」でもある。目標達成に向け、ただ前に突き進む。(霹)
プロフィール
石川研一
(いしい けんいち)
1986年3月、東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修了。同年4月、帝人に入社。インフォコムTGシステム部長、GRANDIT事業部長、インフォベック取締役、帝人IT企画室長、インフォコム西日本代表取締役社長などを歴任し、16年4月より現職。
会社紹介
帝人グループのSIerであるインフォコムの子会社。前身のインフォベックは、2003年10月に商社系ITベンダーを中心に結成された「次世代ERPコンソーシアム」の幹事会社として発足。コンソーシアム参加ベンダーのノウハウを集結し、「完全Web-ERP」と銘打ったERP製品「GRANDIT」の製品開発を行うとともに、プロダクト維持管理、保守、導入支援、マーケティングなどを担ってきた。12年10月、GRANDITに社名変更した。