「顧客内シェア」を拡大し利益率UP
──「ZeeM 会計」やITサービス管理ツール「SmartStage」など有力製品は揃っていますが、プロダクト単体の拡大を目指すのではなく、別の方向性を描いているのですね。
これまでは、会計ソフト「ZeeM 会計」の導入を希望する企業に対し、安否確認や文書管理などのパッケージに加え、受託ソフトウェア開発をすすめるような営業ができていなかったと思います。各子会社がグループ内の他の子会社製品を提案する機会が少なかったのです。
当社には、取引のあるアクティブな顧客が約1000社あります。プロダクトシェアを高めることよりも、各顧客の「顧客内シェア」をクロスセルで拡大したい。「点から面」への収益構造にするためには、まずは、複数子会社に分散していた資源を一つにまとめる必要がありました。今回の変革でもっとも強いメッセージは、開発リソースや営業人材の集約、製品ブランドの統合、投資の集中などをすることで、もっと違うビジネスを生み出し、社内シナジーを出すことです。
──営業利益率の過去最高は1998年度(99年3月期)で、8.8%でした。今回の中計では、19年度(20年3月期)に売上高150億円、営業利益率を6.7%にすることを目標にしています。この数値的な裏付けをお教えください。
98年当時は、15年4月に譲渡した「筆まめ」が絶好期でもありました。いまとは異なる領域で業績が上がっていましたので比較は難しいですが、これだけのポテンシャルのあった会社ですから、まずはこの最高値に迫ることを目標にしました。利益率の高い複合的なソリューション・サービスを増やせば、長期的に営業利益率を現在の倍以上にできるでしょう。
顧客からみたNo.1ベンダーに
──収益構造を変えるうえで、ソリューション・サービス事業を成長させることは、とても重要ですね。
本当は、新しい伸びしろをどんどん出したいんですが、それをするにも利益を出すべきと考えています。まずは堅実に利益を出せる体質にする。当社のなかで、利益を生み出せるようで、生み出せていないのがソリューション・サービス事業なんです。本当は、当社のコアにならなけらばならない。ですが、長期的な成長ドライバーになり得る事業です。当社には有力製品がありますが、1社に対し1プロダクトという具合に単発で売れている状況です。製品・サービスを融合しソリューション提案を充実させていきたい。
顧客からみたITベンダーNo.1になりたいんです。そこがクレオの一番の強みになる。何かITベンダーに頼みたいとき、クレオがまず思い浮かぶようにしたい。当社は、ちょっと入ったら浸食していく、アメーバみたいな会社です。それを支えているのは、技術力だけでなく、人間力なんです。そのベースがあって、さらに「革新力」のある人材を育てる。当社はこれまで、いろいろなプロダクトを出してきましたが、顧客と一緒につくり上げてきた商材が多いんです。自分でプロダクトアウトして市場に出るというより、市場をもっているベンダーと一緒に、当社がものづくりの面で支援するという組み方を進めていきたい。顧客の一番近いところで、何かを生み出すのは得意なんです。そこから新規事業が創出できると確信しています。
──事業会社になり、4月から「カンパニー制」に移行しました。これも、顧客起点で考えられたことですね。
今回の組織改革では、子会社5社の事業を重複排除し、3つのカンパニー(ソリューション・サービス/ネクストソリューション/西日本)に再編し、「顧客特化型」の体制にしました。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などのクラウド基盤と当社の得意分野を連携してサービスを立ち上げるなど、他社と協業した新しいサービスなどを築いていく。各カンパニーが顧客基盤を共有、クロスセルの実施を容易にし、全体でシナジー効果を発揮したいと考えています。
クレオは「ものづくりの会社」であり、ベースにあるのは開発力です。
開発に対し、堅実で真面目。顧客には「逃げないよね」といわれる。
人間系の部分が強い会社なんです。 <“KEY PERSON”の愛用品>「鎌倉ネクタイ」で身を引き締める 神奈川県鎌倉市を本拠地に全国展開するシャツ専門メーカー、メーカーズシャツ鎌倉の「Maker's Shirt鎌倉」という紺ネクタイ。ウォーキングの途中に立ち寄り購入してからファンになり、ネクタイやワイシャツなど複数色の商品を所持している。

眼光紙背 ~取材を終えて~
筆者と年齢が同じなためか、波長が合い、一つひとつの言葉が心に響いた。包み隠さず、自らの弱点も披露する。偉ぶるタイプでなく、「なんでも話せる兄貴」という印象だ。事実、持株会社で子会社にわかれていたにもかかわらず、柿崎社長の存在は知れ渡っている。人徳のある人なのだろう。
クレオの足下はといえば、持株会社になってから売上高、利益ともに平行線のままだ。成長軌道を描くとすれば、課題が多く改革が必要だ。中堅のシステムインテグレータとして業界内に名は通っているし、技術集団として評価も高い。「筆まめ」(2015年に事業譲渡)の開発会社としての輝きはあった。だが、特徴がみえにくい。
柿崎社長は、大学卒業からクレオ一筋のプロパー。最もクレオを知る人間として、改革の先頭に立つ。次の成長に向けた改革を断行する。その自信はあると言い切っていた。(吾)
プロフィール
柿崎淳一
(かきざき じゅんいち)
1964年12月、神奈川県横浜市生まれ。52歳。87年、専修大学商学部商学科卒業。同年、システムエンジニア(SE)として東海クリエイト(現クレオ)に入社。2001年、ソリューション事業部長。エンドユーザー向け受託開発のプロジェクトマネージャーに長く従事。13年、クレオソリューションの代表取締役社長に就任。その後、グループ会社のクレオマーケティング、クレオネットワークス、クレオサンライズの取締役などを歴任。16年6月にクレオの常務取締役に就任。17年4月から現職。
会社紹介
独立系システムインテグレータの「東海クリエイト」として1974年3月に創業。89年4月には、現社名「クレオ」に変更。年賀状ソフト「筆まめ」の開発会社としても知られる(同事業は15年に売却)。90年9月、ジャスダックに株式上場。11年には持株会社に移行し、クレオマーケティング、クレオソリューション、筆まめの3社を分割。その他事業も既存子会社のクレオネットワークスに吸収した。17年4月には、シナジー効果を出す目的で、各子会社を再び吸収合併しグループ新体制を発足している。