システム構築とセキュリティという二つの事業を展開するラックの社長に今年4月、西本逸郎氏が就任した。同社創業間もない頃から30年以上にわたってビジネスを推進し、とくに国内セキュリティ業界では今や言わずと知れた存在であるが、西本社長いわく、「ようやく戦える入口にたどり着いた」ところだという。両事業を中心に、時代の流れを捉えながら、一層の会社の成長を目指す。
ようやくスタートライン
──現在まで30年以上にわたり、ラックのビジネスを推進してこられました。これまでを振り返ってみた感想を教えていただけますか。
よくここまで走ってきたなと感じていますが、かといってゴールにたどり着いたわけでも全然なく、ようやく戦える入り口にたどり着いたと思っています。外して語れないのが創業者の三柴元で、ラックは彼が1986年に創業し、2002年に上場したんですね。創業者としての苦労をかたわらでずっと見てきたのは私にとっても非常に大きかった。
私自身はずっと技術屋できていますから、今回、社長のボールを受け取るかたちになるというのは正直いってあまり考えていませんでした。でも受けた以上はもう徹底的にやるというような心境です。
当社は社名の由来「Little eArth Corporation(LAC)」にあるとおり、コンピュータと通信によって地球が小さくなる、そういう時代の「小さな地球」を支えるという思いをもって、31年前に設立しました。その後すぐにバブルが崩壊し、非常に苦しんだなかで生まれてきたのが新規事業としてのセキュリティ。しかしそれもすぐには芽が出ず、10年かかって黒字化を達成しました。今はまだ、SIとセキュリティが二つの足で立ってよちよち歩きを始めたところ。少しは社会に認められ、これから勝負していくぞというスタートラインにようやく着けたと思っています。
──改めて、社長就任の意気込みをお聞かせください。
創業時のスピリットを引き戻して、当時の理念や夢をようやく実現できるかもしれないところにきているので、それに向けてスピードをもって挑戦していきます。小さな地球を支える、その一つがセキュリティ。もう一つがSIで、うちは大手SIerさんと比べるとそんなに大きくないですが、その代わりに機動力があるし、お客様本位で対応できる。今変革が要求されているSIのあり方や新しいシステムのあり方、こういった部分に対しても提案していける。強力な武器としてのセキュリティも育ってきました。今の状況に満足しないで、破壊をするということ。このあたりが重要だろうということで、私が社長になったんだろうと思っています。
セキュリティなしの怖さを知るべき
──創業から30年以上が経ち、今では300億円を超える売り上げを誇りますし、セキュリティベンダーとしての知名度も大いにあります。それでも、あくまでまだスタートラインなのでしょうか。
スタートラインですね。セキュリティはまだまだホワイトスペースで、全然浸透していない。なぜ浸透しないかというと、ITがまだ日本では事業基盤として育っていないから。企業がこれから成長していくためには、ITに体重をかなりかける必要がありますし、ITを徹底的に使いこなしていく必要がまだまだあります。今、IoTやディープラーニングなどが期待されているわけですが、そうしたところにもセキュリティは必須です。セキュリティなくして事業をやるということの怖さについて、まだまだ日本はよちよち歩き。逆にいうと、ITを使っていないというのは、セキュリティが怖いのでそこまで依存できないというのが本音かもしれません。ただ、やっぱりそうもいえない時代になっているので、セキュリティを固めた上でITを使いこなし、事業を推進確保する必要がある。これができないとやったはいいけど収益は全部、競合他社にとられてしまいます。
──2020年には東京五輪があります。セキュリティへのニーズも高まっていくと思います。
そうですね。ただ、多くの企業では本当の脅威をまだ認識していない。本当の脅威は情報をとられてうんぬんではなく、会社が潰れるかどうかというようなギリギリの所で必要になってくるんです。個人情報をとられて会社が潰れるケースもありますが、事業基盤を喪失してしまうということなんですね。
要するに、ある日いきなりコンピュータシステムがすべて使えなくなり、仕事も進まなくなる状況を体験してしまうというのが、いつ起こっても不思議ではないということです。これはあらゆる業界に関係してきます。電力がなくなると何もできないのと同じように、ITがないとできない、セキュリティがないとできないというところに到達しているということを認識しないといけない。そこをわれわれは支えるということです。
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