2014年にソニーから独立して3年。VAIOは3期連続最終黒字、2期連続の営業黒字を達成した。構造改革の第1フェーズを終え、第2フェーズに向けて、新たな指導者として招き入れたのが、JVCケンウッド出身の吉田秀俊氏だ。第2フェーズの目標として、高収益の筋肉質な体質に育てていくため、新たにソリューション事業を開始するとともに、PC事業の中国再進出を掲げた。吉田社長が進めるVAIOの新たな戦略とは――。
受け継がれるものづくりの精神
──吉田社長がこれまで積み重ねてきた経験は、VAIOでどう生きていきますか。
ものづくりの精神、海外経験が大きく生きてくると思います。最初に入ったビクターでは、ビデオ事業部の海外営業を担当していました。製造、販売、在庫の台数管理などの下積みを経験し、営業ながら商品企画にも加わったことがあります。エレクトロニクスの業界に長年いたことも生きてくるでしょう。製品の大きな変革やアナログからデジタルへの変革も目の当たりにしてきた経験は貴重なものです。
海外経験でいうと、これまでの半分ぐらいは海外事業を担当してきました。海外のお客様のトップとよくお会いしたものです。VAIOは北米や欧州など、海外でも展開しています。また部品も海外から調達しますので、この経験を生かせば、海外のパートナー、お客様と関係がつくりやすくなるでしょう。
──これまで、吉田社長とVAIOの接点はありましたか。
ビクターでビデオデッキを担当したことがあり、その時はソニーさんとVHS、ベータの規格競争をしていましたね(笑)。また、私にとってPCはとても馴じみの深い製品です。自作PCが趣味で、それなりの台数を組み立ててきました。PC事業に携わることにまったく違和感がありません。
──VAIO社に入社したきっかけを教えてください。
VAIOの第1フェーズが終わり、第2フェーズは成長戦略を取っていくと決めた大田義実前社長から、メーカー経験があり、海外を知っている人に世代交代したいとお話がありました。実は大田さんとは以前からの知り合いなんですよ。
第3のソリューション事業
──8月の経営説明会で、VRソリューション事業を始めるというお話をうかがったとき、非常に驚きました。ソリューション事業を展開する狙いを教えてください。
PC事業、EMS事業が軌道に乗り、大田前社長は第3の事業を興す計画を立てていました。そのため、社員にアイデアを集めていました。その状態で私が引き継ぎました。一つひとつ、社員から集めたアイデアをみると、意外とVAIOはソリューションが得意だとわかったのです。例えば、EMS事業では、アイデアはあるが形にできない、何とか解決してほしい、というお客様がやってきます。お客様とじっくり話し合い、最後までものをつくり上げる。お客様の課題を解決する、という意味ではPC事業もEMS事業もソリューションだったわけです。また、EMS事業で課題を解決し、ものをつくる技術力は、長年安曇野の工場で培ったノウハウが生きています。
──数あるソリューションのなかで、VRを選んだ理由はなんでしょうか。
お客様からVRに関する相談をすでに受けていたことがきっかけです。VRの市場が今後大きくなることは間違いありません。映像が2Dから3Dへ変わったように、360度の映像体験に対する需要はものすごく大きい。例えば、不動産業では、建築中のマンションを図面ではなくVRで体験できる試みが始まっています。医療の現場では、病状について説明する際、模型ではなくVRで説明するニーズがあります。ゲームやエンタテインメントの領域は民生なので、うちの領域ではありませんが、VRのソリューションに取り組みたいお客様のアイデアをVAIOが形にしていきます。
──これまでの事業とは異なる業界になりますが、どのように新規顧客を獲得しますか?
PC事業のお客様は情報システム部門が中心でした。VRソリューションはカスタマサティスファクションが中心になります。そのため、新たに顧客開拓を行わなければなりません。そこで、VRのベンチャー企業ABALと業務提携をしました。ABALのお客様に提案していきます。
また、VAIOという看板は認知度、信頼度が高いので、お客様からお声がかかることも多いです。まずは実績を一つひとつ積み上げていきたいと考えています。今はまだ準備室ですが、来年には事業部として本格的に取り組みます。
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