経営とITの両方の視点から、企業を支援するITコーディネータ。同資格の認定機関であるITコーディネータ協会は、2001年の発足以降、約1万2000人のITコーディネータを輩出(現在の資格保有者は6200人)し、実績を積み上げてきた。しかし、澁谷裕以会長は「実働が400から500人程度。この人数では中小企業から頼れる存在とはいえない」と現状には満足していない。より影響力のある独立士業としてのITコーディネータへ。澁谷会長は「第2の創業計画」を掲げ、改革に取り組んでいく。
ITをもっと経営の力に
──ITコーディネータは、中小企業を中心として、ITを経営の力とすることをサポートしてきました。ただ、制度がスタートしてからは、経営やITを取り巻く環境が大きく変わってきています。6月19日にITコーディネータ協会の会長に就任されましたが、どのような取り組みに注力されていきますか。
その前に企業のIT投資における課題についてお話します。企業のIT投資は、現在でも7割が失敗といわれることがあります。実は日本だけでなく、欧米などでも似た状況にあります。そうなってしまう原因の一つが、経営者とITサイドの対話不足。経営者の要望は最初から具体的に整理されたものではありません。対話を繰り返して具体的な姿を双方で確認しあってからつくり始めないといけないのに、それを十分に行っていない。だから、できあがってから「これは違う」ということになります。必要なのは、対話です。経営者とITベンダーの対話を通じて、本当に望んでいることをかたちにしていくことが求められます。
ITコーディネータが経営者との対話を重視しているのは、そのためです。例えば、経営者との対話において、課題を把握できるまでは、ITの「あ」の字も出しません。ITを振りかざしても、経営者にはまったく響かないのです。
──ITを有効活用する中小企業は増えたように思えますが、現状はまだまだなんですね。
中小企業の経営者は、ITに対して「抵抗」と「誤解」を抱きがちです。抵抗は、ITのことがよくわからないということに起因します。そのため、専門家にすべて任せたいと思いがちです。誤解というのは、スマートフォンのようなものをITだと思い込んでいることを指します。スマートフォンを使いこなすことと、ITを経営の力とするということは、大きく異なります。そのハードルを越える必要があるのです。
ITは建築と比較されがちですが、実は大きく異なります。建築は、人類の歴史とともに歩んできており、例えばレストランをつくる、コンサートホールをつくるというと、ほとんどの人が完成をイメージできます。一方、ITでつくる新しいプロセスは、これまでにはない、生産性の高い、個々のお客様のニーズにきめ細かく応えられるものでないと意味がありません。それだけに、完成をイメージすることが難しい。ITコーディネータの役割は、「ITを経営の力」にすること。経営者に完成のイメージをもっていただけるように取り組んでいます。
実働6000人を目指す
──ITコーディネータの現状については、どのような課題があるとお考えですか。
ITコーディネータは現在、約6200人が登録しています。そのうち、個人事業主として独立しているのは1500人。ところが、ITコーディネータとしてビジネスが成り立っているのは400人から500人程度です。これでは少ない。ITコーディネータがコンサルティングできるのが6から7社で、中小企業の数を381万社とすると、実働500人では0.1%のカバー率にとどまってしまうからです。
──実働は、何人くらいが理想ですか。
6000人を目指したい。実働6000人であれば、カバー率が1%になります。
──これまで、約6200人が登録していることを考慮すると、全員が実働となればいいのでしょうが、実働500人にとどまっているのは、何が原因なのでしょう。
ITコーディネータの資格を仕事に生かせていないのではと考えています。ITコーディネータ協会としても、資格が「こういうことで生きる」といったサポートをしてきませんでした。ITコーディネータだけでなく、どの士業でも、資格をもっているだけでは仕事になりません。やはり、なんらかの支援が必要です。
また、企業内の資格保有者は全体の約7割を占めるのですが、企業内資格としての有用性が明確になっていないうえ、方法論の有効性もアピールできていません。
──どのような対策をお考えですか。
独立士業としての活性化対策が一つ。なりたてのITコーディネータのために、仕事の開拓が本業であることを協会として明確にし、支援していきます。また、ITコーディネータの質を向上させるために、コンサルティング能力の磨き方、資格の与え方などを根本から検討しなおします。例えば、中小企業診断士では、先輩の指導を受けながら、15日間で3社のコンサルティングを実施したうえでないと「診断士」を名乗ることができません。コンサルタントは、そのような実務経験のなかで経営者に鍛えていただくことが重要です。ITコーディネータにおいても、同様の取り組みの実施を検討しています。
企業内資格については、ユーザー企業である中小企業内でITコーディネータを育てたいと考えています。実際に中小企業内ITコーディネータが、成果を上げている事例があります。これを積極的に横展開していきたい。また、企業内資格としては、これまで大手ITベンダーが中心でしたが、中小のITベンダーにも広げていきたいと考えています。大手ITベンダーは大規模なシステム開発が中心で、大きなチームを組んで仕事をしますから、ITコーディネータの方法論を生かす局面が限られているのが実態です。
──それは当初から感じていました。IT活用のすそ野を広げるということで、一時は大手ITベンダーも中堅・中小企業をターゲットとしたことがありましたが、結局は億を超えるような大型案件が中心になっています。
設立当初、経済産業省から大手ITベンダーに強力に声をかけていただいたという経緯があったため、これまでは大手ITベンダーの方が多かったと思います。ただ、実態として中小企業向けのIT導入をサポートするのは中小のITベンダーですから、今後は中小のITベンダーやユーザー企業にまで広げていく必要があると考えています。
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