創業者から経営者へ。どんなカリスマ創業者でも、企業を長年続けていくのであればいずれは経営を誰かに託さなければならない。アイ・オー・データ機器(I・Oデータ)は、9月26日に創業者の細野昭雄氏から濱田尚則氏へ、社長交代を行った。創業41年目にして初めて経験する社長の交代。I・Oデータは新たな門出を迎える。
突然の社長交代
──社長交代の話はいつ頃から聞いていたのですか? また、社長に就任するまでに準備として取り組んだことがありましたら教えてください。
今年の4月28日だったと思いますが、細野と役員2名の4人で来期の体制、布陣について話しをしていました。その時、細野から「今度、私は会長になるから、代わりに社長をやってくれ」と切り出されました。その時は、今年の7月から、営業部、新規事業推進部、CS部を事業戦略本部にまとめ、管理部、情報システム部を管理本部が統括する2本部体制に移行することが決まっていました。新しい体制になるので、この体制が安定するまで、あと1年ぐらいは待っていただけると思っていたんですけど、連休明けに「そろそろ腹をくくってくれ」と……。
──社長として、託されたミッションを教えてください。
実は入社してから28年間、ずっと営業とCS担当で、開発・企画をやったことがありません。細野は開発の分野はちゃんとバックアップすると言ってくれましたし、いずれ、企画・開発をわかる人間を人立てるという話をしています。もちろん、開発をまったくみないという話ではなく、経営や経験のあるお客様に向き合った仕事に注力していけ、という意味です。経営は私が、開発はこれから人を育てていくことで、本当の意味で新しいI・Oデータになるのではと思っています。
──直近で取り組んでいることはどんなことですか?
私だけではなく全社員でということになりますが、私たちがつくっている商品を「しゃぶりつくす」ことです。商品をつくっても、何か足りない技術や機能があると、すぐ次の商品をつくってしまい、新しい商品で置き換えようとしてしまいます。そうではなく、つくったものを磨きつくして、しゃぶりつくして、そのうえで新しいものを生まないと、お客様が置いてけぼりになってしまいます。
つくったものをほかの商品とうまく組み合わせる。組み合わせるのは自社のものではなく、他社の商品やソリューションかもしれません。ですが、そうして組み合わせて新しい使い方、価値を発見する。応用開発といっていますが、それが今、全社員で取り組むべきことです。
中心に軸を立てる
──商品をつくって売る「もの売り」から、ソリューションの提供へと軸を変えたんですね。このきっかけを教えてください。
業績が悪化し、赤字になり、12年には売り上げが全盛期の半分になりました。この右肩下がりの期間は10年も続きましたが、この間は自分たちの得意な領域で何とか食い止めようともがいていました。これまでは新しいテクノロジーをどこよりも早くもってきて、それをローコストでつくってお客様に届ける。量を増やせば利益が出る、という考え方でした。売り上げ-コスト=利益だと考え、これを一生懸命やっていました。でも結局、会社としてのパフォーマンスは全然伸びなかったわけです。
──価格競争となれば、どんどん売価が下がっていき、利益が減ってしまうわけですね。
商品を部品として売るのではなく、商品の価値観というか、世界観というか、I・Oデータの価値をお客様に認めていただこうと意識を変えました。I・Oデータならではの価値を生もう、付加価値をつけようと思っても、社員全員が思い描く付加価値がバラバラではお客様に届きません。まずは、自分たちがどうありたいかをきちんと戦略に落とし、そして全社員に腑に落としてもらう。そういった取り組みを始めました。
付加価値といっても突然生まれたりしませんから、まずは自分たちが何をもっているか、価値を生み出すために何が必要かをみつめなおしました。それが「ものを発掘する技術」「磨く技術」「お客様に届ける技術」の三つです。これを定めたのが40期です。41期はそれを踏まえて「基本的な考え方」としました。40期のそうした技術をもったI・Oデータはどういう会社でありたいか、本質を追求しました。42期は「ユーザーに対してズルしない」を目標に定めました。お客様に対して、エンドユーザーに対して、ズルしないというのはどういうあり方なのか、思考/行動に際しての基準を社員全員にわかってもらえるように活動しようという意味です。
これまでは軸になるものがなく、困った時は細野の顔色をみて判断してきました。社長を向いて仕事をしてもらっては困るのです。社長と同じ方向をみて仕事をしてほしいと思っています。
継承可能な軸を真ん中に立てて、全社員が自分たちで考え、動けるような組織にしたいと思っています。どうしても組織という箱は必要で、仕入れする人、つくる人と役割分担はできてしまいますが、何のために仕事をしているのか、というあり方をきちんと腑に落としていれば、自然と部署間の垣根は越えられると思っています。上意下達の、言われたことしかできませんでは、絶対いいアイデアは生まれてきません。みんなが自主的に動き、ピラミッド型の組織ではなく、自律分散型、ネットワーク型の組織にしていきます。これが今取り組んでいる組織戦略です。
──もう一方の軸となるビジネス戦略について教えてください。
注力した商品は大型の液晶ディスプレイ、NASですね。これを単体で販売するのではなく、サービスなど、ほかの商品と融合させたというのが、この一年間の取り組みになります。例えば、大型ディスプレイに小型のクリップPCをつけて、ネットワーク環境に依存しない簡易なサイネージとして提供しました。また、チューナーを組み合わせればテレビ画面を表示することもできます。
映像系の商品として、大型テレビをタッチパネルディスプレイにする外付け型タッチ化ユニット「てれたっち」があります。こちらは主に電子黒板として学校に提案しています。学校のICTとして、電子黒板の導入が求められていますが、予算の関係で導入できずにいる学校も少なくありません。すでにあるテレビ、つまり資産を有効活用できるとして提案しています。すでに何校か実験的に導入してもらっています。
今年はランサムウェアの被害にあわれたお客様が多かったので、NASとバックアップソフトを組み合わせて提案しました。ストレージが感染し、お客様の大事なデータが取り出せなくなっても一日前のデータを取り戻すことができます。全国のSIer様と一緒に、NASとSIer様の保守サービスと合わせてソリューションとして販売してもらっています。
──販売店施策として取り組んでいることを教えてください。
私たちが考えていること、大事にしていることを知ってもらい、一緒にビジネスをしたいと思ってもらえるように、全国を巡業するI-Oソリューションフェアを実施しています。
私たちの商品とパートナー様の商品、サービスを組み合わせ、価値を生み出すことで、景気にあまり左右されない体質の会社になれると思っています。もしかしたら、あと10年したら私たちが売っている商品がまったく変わるかもしれませんね。
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