シスコシステムズの社長に就任して以降、100人以下の中小企業をターゲットにした日本発の新ブランド「Cisco Start」を立ち上げるなど、日本に根ざした事業展開を図っている鈴木みゆき社長。この10月には日本独自のマスコットキャラクター「Cisco 5(シスコファイブ)」を立ち上げた。大きな改革を実行している鈴木社長に、2017年の手ごたえと18年の事業戦略を聞いた。
成熟した市場で成長率30%を達成
──10月開催の18年度の事業戦略説明会で、日本法人がグローバルで最も成長率の高いトップカントリーに表彰されたというお話がありましたね。
わが社の会計年度は8月から翌年の7月までで、2万人弱の社員が集まる18年度グローバルキックオフミーティングを17年8月に開催しました。そこで「トップカントリー」として表彰されました。日本市場は成熟したマーケットだとみられていて、成長率が2ケタになることはありえないと思われていましたけれど、蓋を開けてみるとまだまだ未開拓のマーケットがあり、伸ばすことができました。
──具体的にどの市場を開拓したのでしょうか。
中堅・中小企業向けの市場です。シスコは高品質で、価格の高い製品ばかりを大手企業に提供しているイメージが強いと思います。ですが、日本の経済を支え、基盤となっているのは中堅・中小企業です。国内の約400万社のうち、中堅・中小企業は約395万社です。これほど規模の大きい市場ですが、この市場ではあまりシスコは浸透していませんでした。そのため、まずは中堅・中小企業向けの製品を開発しました。それが15年9月にリリースした「Cisco Start」です。これは日本独自の製品になります。
製品開発にあたっては、日本語対応に取り組みました。数年前には英語版しか販売しない、ということもありましたが、中堅・中小企業に販売するにあたり、ツールを含めてすべて日本語で使えるようにしました。また、サポート体制もすべて日本語で対応できる組織につくり上げました。
大手のお客様と、中堅・中小企業のお客様のニーズは異なります。ITに関する能力のレベルもかなり違いますので、対応の仕方などを試行錯誤しながらナレッジを蓄積してきました。
──販売パートナーに対して、どのような支援を行ったのですか。
今までシスコの製品を扱ったことがないパートナーがほとんどですから、製品について、技術面やサポート面にかなり力を入れて手厚くする努力をしました。Cisco Startの発売前から、地方を回って製品などを紹介するロードショーを展開しました。東京に来られず、またこちらからもうかがえない場合はウェビナーを活用したり、ウェブサイトをもっと使いやすくして情報を発信しました。こうした取り組みにより、販売パートナーの数は、私が入社した2年ほど前は1000社弱でしたが、今は6000社に近づきました。
──ともに製品をつくっていくパートナーとの連携はいかがでしょうか。
パートナーシップは非常に重要です。こちらも強化しました。その事例として、NTT東日本にはクラウド管理型ソリューション「Cisco Meraki」を「ギガらくWi-Fi」に、さらに4月からは「まるらくオフィス」にもセキュリティサービスなどを採用していただいています。
こうして製品を揃え、販売チャネルを拡大することで、中堅・中小企業向けのビジネス領域を前年比で30%以上成長させることができました。
独自のキャラクターが誕生
──販売パートナー、ソリューションパートナー以外にどのようなことに取り組まれましたか。
マーケティングも強化しています。中堅・中小企業向けのビジネスではブランド認知度の向上が必要ですから、これまではやらなかったテレビや新聞広告などを最近はかなり増やしました。10月に発表したマスコットキャラクター「Cisco 5」もその一環です。このマスコットは日本独自のキャラクターです。本社ではなんでマスコットが必要なの? と不思議がっていましたが、やはりマスコットがいるのといないのでは全然お客様や販売パートナーが受ける印象が違います。
──マスコットにはどのようなメッセージを込めたのでしょうか。
マスコットはマーケティング部と私、そして若い社員たちとブレストミーティングをして決めました。キャラクターは一つではなく、シスコのもつ幅広い製品、機能をアピールするため、ソリューションごとに五つのキャラクターをつくったのです。実は本社にもアメコミ風のキャラクターがいますが、やはり日本人の感性に合ったものを出したいと思いました。本社にはその点も非常に理解していただき、日本独自のブランドづくりにも協力していただいています。
──マスコットや製品など、日本で生まれたものは海外で展開する予定はありますか。
マスコットはありませんが、製品は海外展開を進めています。日本市場向けに開発したCisco Startですが、日本市場での成功、普及をみて、ほかの国でも同じようなプロダクト、製品を展開したいという要望がありました。NTT東日本と築き上げた「ギガらく」のようなビジネスモデルも、海外でほかのサービスプロバイダ様や通信業界の方と組んでできないかと他国の法人で検討しています。
日本市場は規模が大きく、経済としては世界で3番目です。成長の可能性を見据えたうえで、本社から日本独自の戦略を立てていいという承諾をもらっていますし、サポートまでしてもらっています。私たちはこれからも日本のお客様が一番使いやすいものを、日本語化した製品というだけではなく、日本の規制も考慮した製品づくりに力を注いでいきます。
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