昨年6月、日本オラクルのトップに、オラクル・ドイツでテクノロジー・セールス・ビジネス・ユニット バイス・プレジデントを務めたフランク・オーバーマイヤー氏が就任した。データベースで圧倒的なトップベンダーとして君臨してきた同社は、近年、クラウドビジネスへのシフトに大きく注力している。ただし、クラウドではほぼ最後発だったことも影響し、ライバル視するAWSやAzureの背中はまだ遠い状況だ。オーバーマイヤー体制で、日本市場におけるビジネスをどう変革していくのか。
ドイツの成功体験で確信した強み
──欧州を中心に、さまざまな大手ベンダーでキャリアを積んでこられて、率直に、米オラクルの強みは何だと考えておられますか。
R&Dの能力です。世界中どこをみても、オラクルほどデータまわりのR&Dにお金も人も注いでいる会社はないと思います。もちろん、競合の米マイクロソフトや米IBMもデータベース(DB)製品をもっていますが、ことR&D投資の規模という意味では、オラクルはレベルが違うと自負しています。
──やはりあくまでもDBがオラクル最大のストロングポイントということでしょうか。
DB製品だけでなく、データをどう活用するのかが重要になってきます。われわれは、データの取得から管理、適用というところまでを重要視し、包括的なソリューションを提供できるのです。
──直近では、オラクル・ドイツでクラウドビジネスの成長に寄与されたとうかがっています。ERPでは最大のライバルであるSAPのお膝元でもありますよね。同社は近年、「HANA」で“データ”の領域にも進出していて、インダストリー4.0のムーブメントもけん引してきた印象です。競合が圧倒的に強い環境で、どんな取り組みを展開されたのでしょうか。
SAPは確かに大手ですが、ITの一分野、すなわちERPの市場で活動する企業と認識しています。オラクルは、もっとずっと幅広い製品、ソリューションを提供しています。アプリケーションでも、ERPだけでなく、HCM、営業支援、マーケティング支援、カスタマサービス支援といった領域で有力なベンダーになっていますし、PaaSでは、DBだけでなく、ブロックチェーン、AIといった先端技術も提供しています。もちろん、IaaSもあります。また、あまり知られていないのですが、Data as a Serviceも提供しています。
ドイツでは、ご紹介したようにいろいろなレイヤでオラクルが能力をもっているということをお客様に知っていただくために、非常にたくさんの実証実験(PoC)を行いました。1年目は250件くらい、2年目は500件くらいになったでしょうか。その結果、より大きなクラウドのソリューション提案を自動車業界、製造業界、金融業界のお客様に受け入れていただけるようになり、オラクル・ドイツのクラウドビジネスは成長したのです。
2015年当時、メルケル首相が百万人もの難民を受け入れると発表した際に必要となった登録システムを受注できたのも思い出深いです。
──クラウドビジネスにおいては、IaaSでも、PaaSでも、SaaSでも、決してオラクルが他のベンダーに先行していたわけではないですよね。それでもオラクルがドイツでクラウドビジネスを成長させられたのはなぜだったのでしょうか。
オラクルは、全方位をカバーする統合化されたクラウドソリューションを提供することができるからだと思います。例えばSAPなら、SaaS分野を中心に製品を提供してきましたが、その下のレイヤでは苦労していますし、AWSはIaaSで強いかもしれませんが、PaaS以上のレイヤでは苦労しています。
また、オラクル・ドイツでは、ヨーロッパのなかでもひときわすぐれたクラウドエキスパートチームを育成しました。これもお客様の目には大きな差異化要因に映ったと思います。日本でもクラウドビジネスの成長のためにはそうした体制づくりが必要だと思っています。
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