大型受注で国内での業績を伸ばすインフォシス。インド本社の幹部、グループ会社が総出で日本のユーザー企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の提案に力を入れた成果が出始めている。2018年3月期の国内での売り上げは、前年度比約35%増の見込み。大西俊介氏が日本代表に就任して、初めての通期決算は好調に推移した。だが、数字は出せたものの、DXの進捗度から言えば「ぎりぎり及第点いくかどうか」と厳しい自己採点をする。既存ビジネスの成長に加えて、国内SIerのM&A(合併と買収)も視野に入れつつ、国内SIビジネスの“トップグループ入り”を目標に据える。
グループ一丸で国内DX案件を獲得する
──インフォシスの日本代表に就いて1年3か月が過ぎました。まずは、初年度にあたる2018年3月期の業績はいかがだったのでしょうか。
国内での具体的な数字は控えさせてもらいますが、昨年度(18年3月期)の売り上げの伸び率でいえば、前年度比およそ35%増の見通しです。ここ数年のインフォシスの世界での売上高の伸びが6~7%で推移していますので、国内は世界平均に比べて大きく伸ばせた。自画自賛ではありますが、私が担当する国内の業績的にはほぼ満点。非常によい手応えを感じています。
ただ、私がインフォシスにきた最大の理由が、デジタル時代に勝ち残れるようユーザー企業にDXしてもらうことですので、このDXの達成度という観点でみれば、ぎりぎり及第点いくかどうか。まだこれからです。
──国内ビジネスの成長エンジンとなったのは、どういったビジネスでしょうか。
ある製造業の大口案件が獲れたことが大きいですね。私が入社する前から、インド本社の副社長のラーリ・クマール副COOが、頻繁に日本に足を運び、顧客訪問を続けていました。私はそのことを知っていましたから、「自分が入社すれば、いくつかの案件は確実に獲れる」と思っていましたし、実際、その後に大型案件を獲得できたのは、今、お話ししたとおりです。
インフォシスが世界で擁する従業員数は20万人余りですが、国内ではおよそ300人に過ぎません。日本のユーザーに信頼してもらうには、まずインド本社が経営方針として、日本市場に深くコミットすることが不可欠なのですね。この点において、インド本社の経営層は日本市場を重視しており、副COO以下、グループ会社が一丸となって日本のユーザーのDX支援に取り組んでいます。
自分で言うのも何ですが、私は外資系企業の特性や企業の業務システムの構築についてもよく知っていますので、今のインフォシスなら国内ビジネスを大きく伸ばせると実感しています。実際、18年3月期は利益水準を落とさずに、売り上げを大きく伸ばすことができました。
──確かに、いくらインド本社トップが陣頭指揮を執っても、日本とインドでは商慣習もずいぶん違いますから、橋渡しする人材が必要になりますね。
日本では欧米市場へ進出しているグローバル企業であればあるほど、インドのリソースを必要とする傾向が強い。もともと潜在市場は大きいものがあったとみるべきでしょう。そこへ適切なフォーメーションで臨んだことで、受注増につながったと考えています。
SAPの実績をS/4HANAに生かす
──具体的に、どのような案件が多いのでしょうか。インドのリソースでなければならない点は、どのあたりでしょうか。
わかりやすいのは、SAPの最新ERP(統合基幹業務システム)の「S/4HANA」と、AI(人工知能)を組み合わせたデジタル対応案件です。
HECと呼ばれるSAPのマネージドプライベートクラウドサービス「HANA Enterprise Cloud」上でS/4HANAを稼働させる案件への引き合いが多く、この春にも本稼働する国内のユーザーがいます。また、当社グループに最先端の技術開発を行うエッジヴァーブという会社があり、ここが中心となってAI活用の提案を行っています。
──確かにSAPの現行製品は25年にもサポートが切れるといわれていますから、向こう数年はSAPユーザーの乗り換え需要が続きそうです。
インフォシスは、世界で1万5000人をこえるSAPの専門家がおり、SAPに強いITベンダーとして常に上位に食い込んでいます。AIについても、インドはもともと数学やアルゴリズムの教育に熱心なことで有名で、人材も豊富。デジタルビジネスに対応した最新のS/4HANAに、ユーザー企業のビジネスに最適化したAIのアルゴリズムを実装すれば、ユーザー企業の競争力は必ず向上します。
欧米のユーザー企業やITベンダーは、早くから当社をはじめとするインドのSIerと良好な関係を築いていますが、日本のユーザー企業やSIerは、言葉の壁もあってインドのSIerとの取引を増やせなかった。
ただ、日本のユーザー企業のなかでも、欧米市場に進出しているケースでは、インドのITリソースは、もはや技術的にも、コスト的にも無視できない存在になっているのですね。欧米市場でしっかり根を下ろしてビジネスを行っている当社は、欧米企業のITパートナーであると同時に、欧米市場へ進出している日本企業のITパートナーでもあるのです。
──ITで日本とインドの距離があったのは、インドのITベンダーが常に欧米市場を向いていたことが、要因にあるように思います。
それもあると思います。日本企業は中国やインドにITをアウトソーシングしたとき、コミュニケーション上のハードルの高さに驚いた人も少なくないでしょうし、インドはインドで言葉の通じやすい欧米に傾注していたのも事実です。でも、いつまでもインドのリソースを活用しないというのは、お互いにデメリットが大きいのではないでしょうか。
[次のページ]国際ビジネス特有の三層構造を打ち砕く