セールスフォース・ドットコム(SFDC)の有力パートナーとしてビジネスを拡大してきたウフルは近年、IoT市場の開拓をけん引するベンダーの一社として存在感を高めている。IoT製品やIoTサービスづくりを包括的に支援する開発・運用サービス「enebular(エネブラー)」を擁し、新たな成長を模索する同社にとって、日本市場のIoTビジネスの現状はどうみえているのか。園田崇代表取締役社長CEOに聞いた。
インターネットへの関心がすべての源流
──ウフルというとSFDCの有力パートナーとしてのイメージが強いですが、近年ではIoT領域の話題で社名を聞くことが多くなりました。
まず前提として、SFDCのビジネスは当社にとっていまも非常に重要な事業です。
順を追って説明しますね。簡単にいうと、私自身が本当に関心をもっていてビジネスチャンスを見出しているのは、インターネットそのものなんです。インターネットによって、人が独力では得られないような知見を自由に共有できたり、自分一人では実現できないことが実現できるようになったりするわけで、すごいポテンシャルをもっています。だから、インターネットの変化をどう捉えていくかが経営判断では一番重要だと思っているんです。
──なるほど、SFDCもIoTも、そうした変化を捉えて踏み出した事業ということですか。
テクノロジーの進化も重要ですが、私が一番気にしているのはユーザーの変化です。過去、成功された先輩企業はやはりそこをうまく捉えてビジネスを立ち上げている。SFDCのビジネスを始めた頃に遡ると、個人ではインターネットの活用が広がっているのに企業活動ではまだほとんど生かされていないという状況があって、私はそこに社会的な課題とビジネスチャンスがあると感じていました。そうした変化を捉えてビジネスを実行していたのがSFDCであり、私にとっては彼らがベンチマークになり、ついていくべき会社だと思ったんです。
そして、SFDCがIoT、IoC(Internet of Customer)と言い始めたタイミングで、当社も三菱重工業の再生エネルギー事業で陸上風車のメンテナンスにIoTを活用したモニタリングシステムを導入するという案件に出会いました。SFDCのプラットフォーム上に構築した業務アプリケーションとデバイスをつないだんですね。その時に、インターネットにマシンをユーザーとして取り込むIoTというコンセプトは、これから必ず人間が必要としていく仕組みだと感じました。
インターネットのすごいところの一つは、ユーザー同士がつながる組み合わせが無限にあるということです。人間のインターネットユーザーは地球の全人口を考えても100億人程度が限界ですよね。しかし、ソフトバンクの孫(正義会長兼社長)さんが言っているように、1億個のIoT用チップが世に行きわたったらどうでしょう。組み合わせの規模が爆発的に大きくなりますよね。マクロ経済で考えるとその組み合わせの多さは大きなポテンシャルだと思います。それが、IoT領域に思い切って経営資源を投じようと判断した理由です。
──なるほど、そういう流れがあったんですね。
ですから、SFDCとIoTは別のビジネスではないです。SFDCもIoTのデータとCRMを簡単に連携するためのソリューションやIoTプラットフォームを出していますしね。シナジーがあります。
出雲大社にあやかり大きな“縁”を生む
──ただ、やはり成長のための投資という観点では、独自商材であるenebularに力を入れられているという印象です。
enebularが非常に重要なサービスであることは間違いありません。現在つながっていないものをつなげるところにチャレンジがあるし、ビジネスチャンスもあると思っていて、それはウフルの哲学でもあります。enebularはまさにその哲学を体現したサービスです。2014年11月22日がリリース日です。
──日付まで細かく……。意味があるんですね。
この世の一切の縁を司るといわれている大国主大神をまつる出雲大社で、60年に一度の「平成の大遷宮」が13年に始まりましたが、この日はまさに大国主大神が引っ越しをなさる日だったんです。私はとくに信仰心が篤いというわけではないのですが(笑)、60年に一度の大きな“ご縁”が生まれることをイメージして、サービス開始日にしました。これまではつながっていないデバイスとクラウド、デバイスと人、あるいはデバイスとデバイスをつなげていく基盤となるのがenebularですから、まさに誕生日にふさわしいと思ったんです。次の大遷宮まで、60年以上続くサービスにしたいなという思いもありました。
──enebularの狙いというのはどういうものですか。
インターネットがこれだけすごいものになった理由は、先ほど申し上げたように組み合わせが無限に存在し得るということのほかに、双方向性という特徴があるというのも大きいと思っています。現在のIoTの事例はまだマシンの情報がみられる“可視化”の範囲にとどまっています。しかし、これからはマシン側、デバイス側に“軽いAI”とでもいうべきインテリジェンスを搭載し、クラウド側の情報を使ってアップデートさせていく仕組みが重要になっていくと考えています。当社はそこを戦略領域と捉えて、製品開発したり知的財産を取得しています。デバイスを継続的に賢くすることで、自律的にデバイス同士のやり取りを最適化する分散協調型のシステムができ、レスポンスの向上や通信量の削減、高いセキュリティ性が期待できるようになります。IoTの適用範囲をそれによってどんどん広げていくことができます。
──従来のM2Mとの違いでもありますね。
IoTに触れるハードルを下げて誰でも使えるものにしていきたいという思いもあります。IoTの仕組みに触れられている人って世の中にまだ少ないと思うんですよ。でも、人間のユーザーが増えれば増えるほどおもしろいアイデアが集まるはずなんです。エンジニアやビジネス開発の方々向けの環境を用意するのはもちろん、子どもたちがIoTのサービスを発想できるようなところまでいくと、世の中も次のフェーズに移行できるんじゃないかと思っていて、そこをenebularで手伝っていきたいと思っています。
[次のページ]日本はむしろIoT先進国