日本企業も漸次的な開発をやるべき
──労働集約的なSIをやっているベンダーはまだまだ多いと思いますが、エンバカデロの成長のためには市場の啓発も必要では。
われわれの製品を使って非常に少人数かつ短期間で成果を収めたソフト開発の事例は世界各国でたくさんありますので、それを国内でも広く紹介していくことは非常に重要だと思っています。
WindowsもOSのアップデートが半年に一回ありますし、モバイルデバイスのOSはそれ以上の頻度ですよね。これに合わせてソフトウェア側のメンテナンスを継続して、機能もどんどん拡張していくような開発のやり方が求められるようになっているのは間違いないです。
──日本のデジタル変革は先進国と比較して周回遅れという指摘もよく聞かれますが、アプリケーションのモダナイゼーションもやはり遅れていると感じますか。
単純に遅れているとは言い切れないと思いますよ。どちらかというと白黒つけたがる気持ちが強すぎるというイメージでしょうか。既存のシステムを、古い資産を生かしながら少しずつきれいにしていくのがモダナイズなんですが、日本の企業は完全にリニューアルしてピカピカにするか、塩漬けにするか、両極端な傾向があると思います。ウォーターフォール的というか、大方針を決めてからでないと何もかも進まないというか。しかし先ほど申し上げたように、それではWindowsやモバイルOSのアップデートのスピードに対応できないんですよね。長期戦略を考えながら同時に漸次的な開発をやっていくべきだと思います。そのあたりの考え方の啓発もやっていきたいですね。
──エンバカデロとしては、ポジティブな市場環境になってきたということでしょうか。
昨年からWindows10がいよいよ浸透し始めて、どの企業もWindows10の環境でアプリケーションを動かさなければならない状況になってきています。結果として、古いアプリケーション資産を新しいものにしていくリニューアルプロジェクトも本格的に走り始めています。エンバカデロは、従来の主力製品であるDelphi、C++Builderに加えて、昨年、Senchaを買収してウェブアプリケーション開発のプラットフォームもポートフォリオに組み入れました。これにより、従来のデスクトップアプリケーションのモダナイズはもちろん、ブラウザベースのウェブアプリケーションにしていく。さらにはマルチデバイスで使えるような機能拡張をしたいというようニーズも含めて、すべてに対応できる開発手法を取り揃えることができました。それぞれの製品の特徴をうまく生かしながらシナジーを出し、新しい需要をキャッチアップできる体制を確立したいですね。
アプリケーションのモダナイゼーションに対して現実的な解を出せるのがわれわれのツールの強みです。
既存の資産を捨てずに未来に向けたアップデートを支援できます。
<“KEY PERSON”の愛用品>“二刀流〟は仕事に生きる
スマートフォンは常にiPhoneとAndroid端末の“二刀流”。マルチデバイス向け開発環境を手がけるベンダーのトップとしても、「両方の操作性を知ることは大事」だという。動画鑑賞は大型画面のAndroidを選ぶことが多く、接触充電ができるスタンドも持ち歩く。
眼光紙背 ~取材を終えて~
藤井さんのエンバカデロへの在籍年数は、前身のボーランド時代を含めて約20年。「開発者が創造力を発揮する環境を整える」という目的にすべてが帰結する同社の哲学への深い共感が、発言の端々にうかがえた。
既存アプリケーションのモダナイゼーションニーズを追い風に、2018年はパートナーエコシステムの拡大にも本腰を入れる。「ライセンスの再販パートナーというよりは、DelphiやC++Builderでの開発経験が豊富で、周辺のインフラを含めてユーザーのサポートもしっかりやっていただけるような開発企業をラインアップしていきたい」として、全国各地の地場のSIerなどにもネットワークを広げていきたい考えだ。
Sencha買収を主導した米本社の幹部とは直接コミュニケーションを取り、「もともとDelphiとSenchaはコンセプトが似ていて、Delphiの資産をウェブ化していくという方向性では非常に大きな親和性があり、補完的に使っていくことができる」と確信したという。Senchaという新たな柱を得て、成長を加速させる。(霹)
プロフィール
藤井 等
(ふじい ひとし)
千葉大学文学部行動科学科卒業。石油関連会社でシステム開発を手がけ、データベースシステムやGIS、ナビゲーションシステムなどの開発を経験した後、ボーランドに入社。「Delphi」「C++Builder」「JBuilder」「VisiBroker」などを担当する。2008年、エンバカデロ・テクノロジーズによるボーランドの開発ツール部門買収を受け、同社の日本法人マーケティングディレクターに就任。09年1月からは、日本法人代表を務める。
会社紹介
米国の老舗ソフト開発ツールベンダー。米アイデラの傘下にある。Delphi、C++Builderが主力製品で、2017年にはウェブアプリケーション開発プラットフォームベンダーのSenchaを買収した。日本法人は08年設立。全世界で300万人、国内累計でも10万人ほどのエンジニアをユーザーとして抱える。