あらゆる業種がビジネスパートナー
──日本でIoTビジネスを今後どう広めていきますか。
Armは、パートナーあってのビジネスモデルです。例えば、一般的にクラウドサービスといえば、プロバイダが一社で全部をやろうとするじゃないですか。でも、Armは全くそうした概念をもっていなくて、常にいろんなパートナーのなかに要素技術として使ってもらえればいいという考え方が基本です。それは世界でも日本でも変わらない。IoTも半導体IPと同じで、パートナーに儲けていただいて、そのなかの少しをいただくという共存共栄型のビジネスモデルなんです。これは今後も変えることはありません。日本は自動車や産業機器、航空宇宙、FA、ロボティクス、メディカルなどが強くて、世界に向けた市場トレンドをつくれますので、これらは組むべき領域だと思っていて、いろんな組み合わせを試しているところです。日本から技術トレンドをつくりだすことが大事です。
いま世界では人口の2倍以上のデバイスが出荷されています。その大半はスマートフォンではないITデバイスで、そこにはセキュリティを向上したい、電力効率を上げたいといったニーズがある。ここでArmが使われていることは事実で、それをよりよいサービスにしていくことが、貢献できるところだと考えています。そういう意味では、これからが正念場ですね。やるべきことがたくさんある激動の時代です。
──Mbedはどのような販路で提供していくのでしょうか。ITベンダーを通じた代理店販売の計画は。
いまはありません。将来はさまざまな可能性を検討しますが、まだ決めていません。ただ、IoTのデータをつくる末端の部分は、99%がArmになってくる。その視点に立てば、ありとあらゆる業種やメーカー、サービスプロバイダ、販売店、物流までもがビジネスパートナーになり得ると思っています。
──ITベンダーに対する期待は。
二つあります。一つはデータ処理に対する電力消費量について、もっと考えませんかということ。簡単にいうと、サーバーをArmベースにするだけで、電力は半分になるんじゃないですか、ということですね。例えば、データセンター(DC)ではものすごい電力がサーバーとエアコンに使われていると思うんです。そこに目を向けると、本当の意味でのグリーン化が実現できます。この領域は新参者ですが、実はスーパーコンピュータでもArmが使われることが増えているんです。
もう一つはセキュリティです。プロセッサでは、すでにパフォーマンス競争は終わり、これからはセキュリティの強度が選択基準になる。その視点で、使うことができるものは何なのか、ということに目を向けていただきたいですね。
IoTも半導体IPと同じで、パートナーに儲けていただいて、
そのなかの少しをいただくという共存共栄型のビジネスモデルなんです。
<“KEY PERSON”の愛用品>子想う親は強し
15年前の誕生日に、娘さんから初めてもらった思い出のプレゼント。今でも、電車に乗るときには必ず使用している。このパスケースをみると、「つらいときや忙しいときでも、頑張ろうという気持ちにさせてくれる」。カメラ愛好家なので、デザインも気に入っている。
眼光紙背 ~取材を終えて~
外資企業でのキャリアが豊富な内海氏だが、よく友人からは、「他国のために働いて面白いのか」と言われたという。「当然ですよね。だって、たくさん売れば売るほど、日本からお金をもらって、他国の肥やしになっている」と振り返る。少なからずジレンマを抱えていた。
その一方で、日本への想いは熱い。「iPhoneだって、エアバスだって、日本製の部品は多いんです。歴史を紐解けば、マイクロプロセッサだって、もともとは日本発だった。でも、どこかで外国に取られてしまった」。悔やしそうな表情だ。
アームのビジネスは、富を寡占しないモデルで、日本の業界をつぶすことはない。そして、同社はいまや日本企業の傘下。大義名分は得た。IoTで日本発の技術トレンドをつくり、世界に広げる。「子どもに誇れる仕事になると思うんです」。確信している。(道)
プロフィール
内海 弦
(うつみ ゆずる)
1961年生まれ、大阪府出身。87年、同志社大学工学部卒業後、インテルジャパン(現インテル)に入社。米インテルの本社勤務などを経て、95年にVLSIテクノロジに転籍。97年、再度インテルに加わり、フィールドアプリケーション本部長代理などを歴任。2008年11月にアーム入社。OEMセールスを経て10年にセールス担当バイスプレジデントに就任。13年7月、代表取締役社長に就任した。
会社紹介
英国を本拠地とするマイクロプロセッサのIP(知的財産)世界大手、アームの日本法人。スマートフォンをはじめとする各種デバイスに同社の設計情報をもとにしたArmプロセッサが搭載されており、これまで累計1000億台が出荷されている。2016年9月に、ソフトバンクグループに総額3兆3000億円で買収され、現在は同社傘下。グローバル全体の従業員数は約5700人で、17年度(18年3月期)売上高は2023億4400万円。近年では、IoT事業の拡大に力を注いでいる。