新たな市場を創造する
──プリンター市場は成熟化が進み、新たな特需の掘り起しが課題となっています。どのように取り組まれますか。
プリンターの新たな市場を創造できないかと考え、すでに取り組んでいます。まず、市場が拡大しない要因として、プリンターを置くオフィスが増えていないことが挙げられます。単純に考えれば、オフィスの数が増えれば必要になるプリンターの台数が増え、販売台数が伸びるはずです。
この考えをもとに、取り組み始めているのが駅構内に個人専用のオフィス空間を提供する実証実験です。このプロジェクトは東京メトロと6月から進めており、駅のなかに電話ボックス二つ分くらいの広さのオフィスをつくりました。デスク、椅子、電源コンセント、無料Wi-Fiなどを備えています。15分単位と短い時間から利用できますので、電車の待ち時間や待ち合わせまでの空き時間に、情報の漏えいを心配せずに電話をしたり、メールを送ったりできます。効率的なワークスタイルを実現するために、直行直帰型の働き方や、自社オフィスに出勤しないスタイルが増加していますが、カフェやファストフード店などでは情報漏えいの懸念があります。しっかりと守られた、シールドされた空間が必要なのではないかと考えています。まだ、実験段階ですが、小さなオフィスをつくることで、新たな市場を創造できるのではと考えています。
──最後に、社長としてのミッションと数値目標を教えてください。
古森会長から直接いわれたわけではありませんが、これまでの事業展開を速めることができた実績を評価してもらっての人選だと思っています。成長戦略、構造改革を短い時間軸のなかで達成させることが求められていると考えています。
数値目標ですが、私がこれまで手がけた事業では1.5倍以上の成果を上げてきました。これまでの経験を生かし、富士ゼロックスでも同様に在任期間中に1.5倍の成長を遂げたいと考えています。
米ゼロックスと富士ゼロックスのパートナーシップは
非常に重要で、それを維持し、深めていくことが
両社にとってベストな選択肢だと考えています。
<“KEY PERSON”の愛用品>カバーで色分けした黒赤のノート
2冊のノートの使い分けは25年以上続く習慣だ。横幅の狭いノートを愛用しているため、サイズに合うカバーが見つからず、オーダーメイドした。色は黒と赤。黒は議事録などのメモを、赤は設計図や内部構造を書き込む。技術者の玉井社長が描く設計図は精密で美しい。(海)
眼光紙背 ~取材を終えて~
社長就任から約1か月の時期にインタビューをした。前社長からの引き継ぎが終わり、新体制の方針が決まる頃かと予想していたが、玉井社長は就任とともに技術部門のスタッフを営業に同行させる方針を決め、実行に移していた。このスタートダッシュの速さには驚かされた。
17年に副社長に就任した時から、ハードウェアメーカーとして重要な開発と営業の二つの部門に注目していたという。そもそもR&Dの担当だったので、副社長就任から1年で「R&Dのほとんどは手のひらに載っている」ほど熟知した。営業体制についても営業部の役員とミーティングを重ね、時には顧客を訪問し、その手触り感を把握したという。こういう土台ができた上での今回の社長就任だ。スピード改革を実行するリーダーとしては実に頼もしい。(海)
プロフィール
玉井光一
(たまい こういち)
1952年、大分県生まれ。東京大学博士(工学)の学位取得。72年、東芝に入社。2003年、富士写真フイルムに入社。11年に富士フイルムホールディングス取締役執行役員、17年に富士ゼロックス代表取締役副社長を経て、18年6月、富士ゼロックス代表取締役社長に就任する。
会社紹介
1962年、富士写真フイルムと英ランク・ゼロックスの折半出資で設立。2001年に富士フイルムの出資比率が75%となり、同社の連結子会社に。日本、中国を含むアジア太平洋地区で製品・サービスを提供するほか、国内外の拠点で複合機、プリンター、消耗品の研究開発および製造を担う。18年3月期の連結売上高は1兆478億円、連結社員数は4万4596人。