日本マイクロソフトのクラウドビジネスについてのメッセージがアグレッシブさを増している。約1年前に「2020年にパブリッククラウドでリーディングシェアを獲得する」という目標を掲げたが、今年8月には「2020年には日本のナンバーワンクラウドベンダーになる」と宣言。競合に勝つというニュアンスを前面に打ち出した印象だ。パブリッククラウド市場ではAWS(Amazon Web Services)が絶対王者として君臨してきたが、その背中をついに射程に捉えたということか。平野拓也社長が考える日本マイクロソフトの“現在地”と目標達成に向けた戦略を聞いた。
AWSとの差は間違いなく縮まっている
――2018年度(18年6月期)の決算では、クラウドビジネスの成長が顕著でした。19年度経営方針発表の記者会見では、Azure、Office 365、Dynamics 365のいずれにおいてもグローバルの成長率(会社概要参照)を日本が上回ったというお話もされていましたね。
日本マイクロソフトはもともと、海外のマイクロソフトに比べると箱売り、売り切りビジネスの比率がものすごく高かったので、毎年新しいターゲットに新しいものを売らなければならなかったわけです。一方で、クラウドはサブスクリプション型のビジネスモデルですから、使い倒してくれるお客様が増えるほど売り上げは積みあがっていき、トップラインの成長もマネジメントしやすくなるわけで、この比率が17年度末は47%まで到達し、就任当初の目標だった50%をほぼ達成しました。社員のマインドや売り方、パートナーの取り組みなどが変わらないと達成できない数字です。
これで何が変わったのか。期末にお客様に「何とか買ってください」と頼み込むようなビジネスではなく、お客様がどうテクノロジーを活用して、これからのビジネスモデルをつくっていくのかという本質的な提案がしやすい環境になったんです。ビジネスにポジティブなスピンをかけやすくなった成果が、18年度の業績に反映されたということでしょう。
――AWSやセールスフォース・ドットコム(SFDC)を引き合いに出して、クラウドネイティブな大手ベンダーよりも成長率が高かったことをアピールされていたのも印象的でした。とくにAzureについては、AWSと比較して成長率が高いことを強調されていました。AWSとの差が縮まっているという実感はありますか。
それはもう、疑いようがないですね。
われわれの戦略として、政府が施策を打ち出す前から、「働き方改革」に自社の実践を含めて率先して取り組んできました。ですので、最初は(働き方改革のニーズにフィットする)Office 365に軸足を置き、そこに意図的にリソース配分を振り切るようなかたちでビジネスを展開しました。それが成果を挙げて導入が進んでくると、お客様に有力なクラウドベンダーとして認知していただけるようになり、Azureの話もしやすくなったんです。Office 365で働き方改革の波に乗ることができ、そこからAzureへのシナジーをつくれるようになってきたことが成長の大きな要因です。
――まさにそこが競合に対する差異化ポイントにもなっているということでしょうか。
そうですね……。他社はコンシューマビジネスの延長上でエンタープライズ向けのクラウドソリューションをやっている印象です。素晴らしい技術やサービスがあっても、市場へのアプローチやビジネスの思想がどうしてもコンシューマビジネスから抜けきれないというか。そこがマイクロソフトとの最も大きな違いですかね。AWSも素晴らしいソリューションですけど、マインドシェアで成長しているところがありますので、お客様にある程度時間をいただいて会話できると、われわれを採用するメリットは理解していただけるという自負があります。
全てのクラウドベンダーが成長すべき
――クラウドのさらなる成長ということでは、ミッションクリティカルシステムのAzureへの移行は重要なビジネスでしょうが、このあたりは他社も大きなビジネスチャンスとして捉えています。
ええ、100%そうでしょう(笑)。
――Azureの導入が近年とくに増えているといわれる金融分野にしてもそうですが、エンタープライズ向けサービスとして求められる要素は、どの有力ベンダーもしっかり整えている印象です。クラウドサービスの内容そのもので決定的な差異化要因をつくり出すことができるのでしょうか。
それは難しいでしょうね。われわれも技術については相当の自負をもっていますが、他社も同じように自負をもってやっていて、素晴らしいものを世に出している。ただ一ついえるのは、クラウドの市場自体は限りなく広がり続けていて、決まった枠のなかで戦うようなビジネスとは様相が違うということです。少し視点を広くしてみると、全てのクラウドベンダーが成長する必要はあると思います。とくに日本の変革のためには。
――どういうことでしょうか。
ITに関する積み上げ式の思想や、他社の失敗を待って、それを参考に3年間かけてシステムのプロトタイプをつくって新しいビジネスにようやく踏み出すようなやり方を打破するには、クラウドがもっともっと広く使われる必要があって、そのためにマイクロソフトも頑張らないといけないし、他社も頑張って、市場を根本から変えなきゃいけないと思うんです。その中で、マイクロソフトは他社よりも速く走るということです。
――他社より速く走るための策が要りますね。
お客様に安心して使っていただけることが何よりも重要です。例えば、先ほど少し申し上げましたが、当社はエンタープライズ・クレディビリティ(信頼性)に非常に強くコミットメントしています。お客様のデータは使いませんし、サポートもチャットのようなかたちだけでなく、顔が見える、地に足がついたものを提供しています。そこに100%責任をもつのがスタート地点です。
その上に、増え続けていくデータを、AIなどを活用してビジネスの成長につなげていくことができる、拡張性と信頼性を備えたインフラやプラットフォームがあり、さらにその上のレイヤにパートナーのエコシステムがあって多様なソリューションが充実していることがマイクロソフトの大きな強みです。
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