エンタープライズIT市場におけるグーグルといえば、メガクラウドの一角に数えられてはいるものの、ビジネスが拡大しつつある基幹業務アプリケーションのクラウドシフトの流れなどとは距離があるという印象だった。しかし今年7月に米サンフランシスコで開催したプライベートイベント「Google Cloud Next '18」では、基幹系も含めてエンタープライズITのニーズに幅広く応えていく姿勢を鮮明にしている。先行するAWSやマイクロソフトに比べると情報発信も控えめな同社だが、日本市場ではどのような成長を目指すのか。グーグル・クラウド・ジャパンの阿部伸一・日本代表に話を聞いた。
導入支援体制の整備が数年で大きく進んだ
――まずは日本の法人向けIT市場におけるビジネスの現状を教えてください。グーグルのビジネスはなかなか外から分かりづらいというイメージがあります。
私自身はグーグルで8年目を迎えました。当時のグーグルの法人向けビジネスといえば、現在の「G Suite(旧Google Apps)」、検索アプライアンス、それからGoogle Maps APIの提供といったところが中心でしたから、周囲の環境もわれわれ自身もどんどん変わってきたといえます。この変化は終わりがないものだと思います。
一方で、グーグルには世界中の情報を集めて、世界中の人がそれを活用できるようにするという理念があります。その理念のもとに、いろいろなサービスを提供していくなか、既存の技術に満足できなくて独自に開発した技術で、われわれ自身がいいと思ったものは、広く一般企業でも使っていただけるようにするというビジョンを持ってずっと活動してきました。それは変わっていなくて、具体的な技術、製品、サービスがクラウドのチームでも充実してきたということだと捉えています。
――「Google Cloud Platform(GCP)」などはまさにスケーラビリティやセキュリティ、リアルタイムでのデータ活用などの点でグーグル自身のニーズに基づいて開発された技術がシェアされている製品・サービスなのでしょうが、これもなかなかビジネスとしては実態が見えづらいというか……。調査会社のレポートなどでは、「Google Cloud Platform(GCP)」もIaaS、PaaSの領域でそれなりにシェアを獲得されている印象です。
グーグルのプロダクトを業務に生かしていただくという意味で、この数年で大きな進化があったと思います。エンタープライズITの市場では、多種多様な業界、業種のお客様にサービスを届けていかなければならないわけですが、私が入社した当時はお客様の要望に寄り添えていない部分も多かったと言わざるを得ません。契約のあり方もそうだし、コンサルティングなどを含めたプロフェッショナルサービスのようなものがなかった。それが、ここ数年で大きく変わってきています。グーグルが長い間コンシューマー向けビジネスで追求してきた「顧客に寄り添う製品・サービスを提供する」ことが、エンタープライズ向けビジネスでもできるようになってきたと思います。
――グーグルのやり方に合わせられなければ、グーグルの製品・サービスを使うのは難しいと思っているユーザーも多そうです。
確かにかつては、「グーグルは自分たちのクラウドサービスに全てを移行してほしいと考えている」と認識されているユーザーは多かったです。しかし、ハイブリッドクラウドで優れた技術を使っていただくという選択肢も排除しないのが、いまのグーグルのエンタープライズビジネスです。
――例えば最近では、どんな例がありますか。
われわれはこれまで培ってきたコンテナ管理の技術を、オープンソースで「Kubernetes」というかたちで世に出しています。これをグーグル自身がマネージドサービスとして提供するだけでなく、オンプレミスやグーグル以外のクラウド上でもデプロイできるように、「GKE(Google Kubernetes Engine)On-Prem」のアルファ版を提供すると発表しました。皆さんがデジタルトランスフォーメーションを進めていくときに、よりスムーズに新世代のアーキテクチャに移行するためにグーグルの技術を使いやすくしていく、そんな環境を具体性をもって提供できるようになってきたといえるのではないでしょうか。
データ活用基盤として成長するGCP
――GCPはまさに実際の顧客のニーズにグーグル側が寄り添った進化を図ったことで顧客基盤が拡大しているということですが、従来の主力だったG Suiteはどうでしょうか。
同じことはGCPだけでなくG Suiteにもいえますね。リアルタイムでコミュニケーション、コラボレーションしていくための基盤を提供するという根幹のコンセプトは変わっていませんし、基本機能もどんどんブラッシュアップしています。一方で、AI、マシンラーニングを使って、どうお客様の生産性を向上していくかという観点で、お客様が意識されることなく便利になる機能もかなり細かいところまで追加しています。8月8日に発売した「Jamboard」(G Suiteを構成するサービスの一つとして位置づけられているデジタルホワイトボード、週刊BCN 1740号3面に詳細)のように、目に見えるかたちでコラボレーションを実現する製品も出てきています。
――エンタープライズ向けビジネスの規模はどのような推移になっているのでしょうか。
それはもう、グラフにするなら対数目盛を使ったほうがいいくらい伸びていますよ。G Suiteはこれまでも企業の規模、業種を問わずあまねく採用していただいていますが、最近は大手のお客様からの引き合いが一層増えている状況です。そういうお客様に的を絞ってマーケティングをしているということもありますが。
――GCPはいかがですか。
GCPは、エンタープライズシステムの領域に徐々に活用が広がってきていますが、いわゆるデジタルビジネスのほうの活用の規模がどんどん大きくなってきているイメージですね。これまではDWHの「BigQuery」や「Cloud Speech API」などをポイントソリューション的に使うお客様が多かったですが、それで面白いものができれば、IoT、ビッグデータなどデータを活用するシステムの基盤もGCPにしていこうという傾向があります。
いずれにしても、グーグルのお客様は、デジタルトランスフォーメーションのためのパートナーとしてグーグルを位置づけてくれていることが多いです。ファミリーマートのように、G Suiteを活用して働き方改革を実践するとともに、データ分析基盤としてGCPを導入して店舗運営の効率化、サービス最適化を図るなど、グーグルの製品を網羅的に使ってビジネスそのものを変革していこうというお客様が出てきています。
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