「どこでも自動化」の思想に惚れた
――さらにその先のRPA3.0の世界についてはどう考えますか。
3.0は、2.0の世界をクラウド上で展開できる世界になるでしょう。例えば、和菓子屋さんがRPA2.0を導入して、こんな伝票を起票して、こんな処理ができるデジタルワーカーができましたとなったら、それをクラウド上で水平展開し、他の和菓子屋さんも使えるようになるというイメージですね。
さらに言うと、次の4.0の世界では、バックオフィス系の汎用的な業務の自動化だけでなく、業種特化型のある程度高度な判断も要する業務プロセスの自動化なども進んでいくでしょう。これから5年以内に、4.0までのソリューションがすごい勢いで出てくると私は予測しています。
――まさに業種別、業務別にデジタルレイバーの開発というかたちで一種の「人材育成」をしていくというイメージでしょうか。
まさにそういうことですね。オートメーション・エニウェアの思想そのものです。
政府の方針は、高齢者もできる限り長く働くべきということになってきているわけですが、自分の能力を適切に拡張してくれるボットがあれば、助かるじゃないですか。より多くの人が社会で力を発揮するサポートをしていく。オートメーション・エニウェアのそういう考え方がすごく好きですね。
例えば日本のIT業界についても、開発エンジニアが22万人足りないという試算があります。IT投資も実質的に半分は人件費に使っています。単に請求書の処理を自動化するだけでなく、アプリケーション開発、財務会計の業務、人事管理の業務などありとあらゆるところでデジタルレイバーを使っていただける世界がオートメーション・エニウェアが目指すところです。会社名がまさにそうで、これも気に入ったところです。日本語訳すると「どこでも自動化株式会社」ですから(笑)。
――日本のRPA市場の現状についてはどうご覧になっていますか。
日本の市場では大企業を中心に導入が進んでいますが、2.0レベルのRPAツールを小規模に導入してみたものの、なかなか効果が出ず、自分たちの業務に何とか適合させようとさらに年単位の時間をかけて開発をやっているというようなパターンが多い。これでは費用対効果も出づらく、なかなか市場が伸びません。一方でわれわれのビジネスは、RPA3.0のデジタルレイバーを1000ボット、2000ボット規模で使っているお客様がグローバルで出てきている。RPAをうまく使う啓発をしていくことも当社の役割だと思っています。日本でもRPA市場の下地はできていますが、オートメーション・エニウェアがようやく日本市場で本格的に事業展開するようになったことで、従来ツールに課題を感じておられるユーザーさんがどんどん当社に移ってこられている印象です。
さらに、そこで培われたノウハウを中小企業にもクラウドで提供する方針です。私も直近、自分で請求書をつくるという経験をしましたが、本当に大変でした。こうした業務をサポートしてくれるテクノロジーが非常にリーズナブルなコストで提供できることの価値を身をもって知っています。
――AAJは、前職のオラクルなどとはかなり毛色の違うベンダーという印象があります。これまでのキャリアをどう経営に生かされますか。
直近所属していたオラクルはデータベースに強い会社でしたが、ERPやHCMなど基幹系から情報系、デジタルビジネスのためのアプリケーションなど、幅広い“業務”を理解しなければ提案できないソリューションや、そのプラットフォーム、インフラとなる製品を扱っていました。その前は、サーバー、さらにその前はネットワークのビジネスも経験してきました。
RPAの効果をより高めるために重要なのは、デジタルレイバーを部署ごとにアルバイトのように導入するのではなく、正規の労働者と位置付けて、きちんと会社単位で管理・活用していくことです。経営戦略の中に、デジタルレイバーの活用を組み込むということですね。そのためには、企業の情報システム部門がRPAの導入プロジェクトにしっかり責任を負い、既存の情報システムとのセキュアな連携なども実現していかなければなりません。私のこれまでのキャリアはまさにこの既存の情報システム全般をカバーするものですから、こことRPAの新しい文化を融合させていく役割を果たすことができると思っています。
Favorite Goods
飛行機の機内販売カタログで見つけたEMS機器の「SIXPAD」を愛用している。経営者は精神的にも体力的にもタフであることが求められる。ジムに行く時間がない時は重宝しているという。人間の筋肉を「拡張」してくれることにビジネスとしての親近感も覚えているそうだ。
眼光紙背 ~取材を終えて~
デジタル・レイバーの普及で人々を幸せにしたい
RPAに対する幻想も多分に含む市場の熱狂を冷静に見つめ、日本のRPA市場の課題を解決し、少子高齢化社会の労働力不足を補うソリューションの決定打になると確信したからこそ、オートメーション・エニウェアに参画したと言い切る。「RPAというと一種マニアックな響きもあるが、オートメーション・エニウェアの視点は、人間の能力を拡張するデジタル・レイバーをいかに社会に浸透させるかというところにある。その先には、より多くの人が仕事に充実感を持ち、幸せに暮らすことができる社会が開けるはず」という信念がある。
東京五輪が近づけば、RPAの需要はさらに大きく膨れ上がると見る。「ボランティアが集まらないという話題も一時期出たが、ボット・ボランティアのようなものがさまざまな場面で使われるようになるのでは」と予測する。そのためには、「RPAには高くて難しく、効果が出ないことも多いというイメージも出てきつつあるが、その状況を変えなければならない」。杉原氏が自らとオートメーション・エニウェア・ジャパンに課すミッションの一つだ。
プロフィール
杉原博茂
(すぎはら ひろしげ)
1960年生まれ。大阪府出身。1982年4月、フォーバル入社。89年、フォーバルアメリカ出向、取締役ジェネラルマネージャー。93年、インターテル執行役員アジア太平洋地域担当バイスプレジデント兼インターテルジャパン代表取締役社長。2001年からEMCジャパン、09年からはシスコシステムズで要職を歴任。10年3月、日本ヒューレット・パッカード常務執行役員エンタープライズグループエンタープライズインフラストラクチャー事業統括。13年10月に、米オラクル シニア・バイスプレジデントグローバル事業統括に就任。14年4月より日本オラクル代表執行役社長兼CEO、17年6月に取締役会長に就任するも17年11月に退任。18年9月より現職に就くと同時に、米オートメーション・エニウェアのシニア・バイスプレジデントも務める。
会社紹介
RPAソリューションの大手ベンダーである米オートメーション・エニウェアの日本法人。米本社は設立15年目を迎え、グローバルで120社以上のパートナー、90カ国1400社、80万台以上のデジタルレイバー導入実績があるという。18年3月に日本法人を設立し、スリニ・ウナマタラ氏が日本代表を務めてきたが、代表取締役社長は9月に杉原氏が就任するまで空席だった。