野村総合研究所(NRI)は、この3年、海外ビジネスの拡大に力を注いできた。10年単位の長期スパンで見て、国内市場が縮小するリスクを考慮してのことだ。しかし、国内市場に見切りをつけたわけでは決してない。「デジタル資本主義」なる概念を提唱し、顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を促進。たとえ国内の就労人口が減少し、労働時間が抑制されたとしても「成長の可能性を見いだせる」(此本臣吾代表取締役社長)と捉える。NRIは海外ビジネスと国内DXの二つの柱でビジネスを伸ばす考えだ。
海外売上高2000億円を念頭に
――オーストラリアを軸とする海外売上高比率が直近で10%を超えてきました。此本社長が強力に推し進めてきた海外ビジネスですが、2019年はどのような方針で臨みますか。
私がトップに就任した16年以来、海外ビジネスの規模拡大を明確に打ち出してきました。利益重視のNRIは、もともと売り上げ規模をあまりコミットする傾向にはなかったのですが、海外事業だけは22年度(23年3月期)に売り上げ目標1000億円という数字を明確にしています。19年も既存の海外事業を伸ばすのと並行して、M&A(企業の合併・買収)も視野に入れながら、アクセルを踏み込んでいきます。
――海外ビジネスの本格化は、まずまずのスタートといった感じですか。
あくまでも個人的な考えですが、海外売上高比率が20%を超えてくると、NRIの事業や社員の意識から、国内と海外の境目が急速に薄れてくるとみています。新しいサービスを立ち上げるときも、自然とグローバルに対応した設計になり、国内外の社員のコミュニケーションも何の違和感もなく行われるようになる。
今年度のNRI全体の売上高が5100億円の見込みですので、もし売上高が変わらないとしたら海外は1000億円で20%になりますよね。でも、売上高は伸ばしていく計画ですので、1000億円達成ののちは、できる限り早く2000億円までもっていきたいです。
――直近の海外ビジネスの軸となっているオーストラリアでの受注はどうですか。
NRIグループの財務基盤の下支えも追い風となり、オーストラリアのグループ会社ASGは水道給水事業や法務局、航空管制機関、会計検査院など地元政府・公共団体などからの大型案件を相次いで受注できました。オーストラリアのIT市場は日本の4分の1程度ですが、それでも伸び率は4~5%と大きい。デジタル化への投資マインドも強く、アジア太平洋におけるITの成長市場の一つと言えます。このオーストラリアで、ASGを中心にSIer売り上げランキングで上位10位以内に入るとともに、将来的にはトップ5入りを目指していきたいです。
――海外ビジネスの推進は、国内の伸び代に限界を感じていることの裏返しとの印象も受けます。
足下の国内情報サービス市場は堅実に伸びていますし、東京五輪や大阪万博に向けて見通しは明るいと思います。ただ、10年、20年の長期スパンで見たとき、就労者数や労働時間の減少によってGDPが伸び悩む可能性は否定できない。そうなったときに国内事業だけを柱とすることが大きなリスクになってしまいます。長期的に成長するには、海外市場に第2、第3の柱を打ち立てていくことが欠かせません。オーストラリアと並んで、北米での成長も模索していきたい。
DXは「デジタル資本主義」にある
――長期的に見たとき、国内市場は伸び悩むと考えておられるようですが、ITを活用することで明るい展望を見いだすことはできませんか。
これまでの延長線上では難しいでしょう。当社では昨今のDXの流れを「デジタル資本主義」と呼んでいます。対義として現行を「産業資本主義」と位置付け、この二つの何が違うのかをまず考えました。
産業資本主義の成長要因をおおざっぱに言うと、生産性、就労者数、労働時間です。つまり、生産性が高く、就労者数が多く、長時間労働が可能な状態であれば、過去の高度成長期のように成長することが可能だったわけです。
ところが、これからの日本を考えると、就労者数の減少をカバーするため女性の就労を推奨し、定年退職の年齢を上げて、再雇用を積極的に行う。女性の就労を促進するには、男性の長時間労働も抑制して、その分の時間を家事や子育てに充てなければならない。
ただ、こうした施策も限界があります。生産性は向上できたとしても、就労者数と労働時間は緩やかに下がっていくでしょう。そこで、登場するのがデジタル資本主義の考え方です。
――デジタル資本主義とは、どういうものですか。
分かりやすく言えば「GAFA」モデルです。グーグルやアップル、フェイスブック、アマゾンといった企業価値ランキング上位を占める会社は、集めた「データを富に変える」ことで、莫大な利益を手にしています。一つ一つのデータは大したことがなくても、それが世界規模で集まって、適切に分析を加えれば大きな価値になる。それを原資にユーザーにはさまざまな便宜を無償か、他社よりも安く提供することで、強大な競争力を発揮しています。
ユーザーからすれば、これまでになかったような利便性が、無償か、従来よりも割安に使えるため、自らに関するデータやライフログを提供する。産業資本主義で重要な要素だった就労者数や労働時間が、デジタル資本主義においては、実はそれほど重要ではなくなっているのです。極論すれば、一人の天才、一人のアイデアマンによってデータプラットフォームが構築され、莫大な富を生み出す仕組みができてしまう。
[次のページ]データ保護の動きはチャンスだ