HCM(人事・人材管理システム)に強みを持つクラウドERPベンダーとして知られる米ワークデイは3月初旬、2019年1月期の通期業績を発表し、売上高が前期比31.7%増の28億2000万ドル(約3100億円)まで成長したことを明らかにした。ソフトウェア専業ベンダーとしては世界有数のビジネス規模でありながら、高い成長率を維持していることは特筆に値する。一方、日本市場ではグローバル市場(特に米国)での勢いに見合ったプレゼンスを示しているとは言い難い。いかにしてこの状況を打開するか、昨年10月に就任した鍛治屋清二社長の手腕が問われる。
機は熟した。SFDCだって最初は苦戦した
――鍛治屋さんはCAD関連の外資系ソフト会社でのご経験が非常に豊富ですよね。ワークデイは少し毛色が違いますが、どんな可能性を感じて日本法人の社長を引き受けられたのでしょうか。
ワークデイはこれから確実に日本でも成長できるという確信に近い実感があったからです。米国ですごく成功している状況と日本の状況って、ものすごく差があるんですよ。それはワークデイのビジネスという側面でもそうですし、マーケットという意味でも大きな伸びしろがあります。
――いわゆるクラウドHCMということですね。
米国ではクラウドで基幹業務を回していくのは当たり前ですが、日本はまだものすごく少ないですよ。有名企業や大きな国の機関が、いまだにExcelとAccessで人材管理をやっている状況です。
――しかし、市場をつくるといっても簡単なことではないのでは。
私自身のこれまでのキャリアでは、海外で成功しているアプリケーションを持ってきて日本市場に定着させ、イネーブルしていくということをやってきました。そうした事業の勘所を理解しているというのは大きな強みだと自負しています。
ベンチマークにしているのが、セールスフォース・ドットコム(SFDC)です。クラウドCRMのパイオニアで、いまやSaaSのトップベンダーですが、2000年に日本法人を設立して最初は苦労した。でも、07年に当時の日本郵政公社が導入してから風向きが変わりましたよね。顧客のデータをクラウドに置くなんてとんでもないとみんな言っていたのが、いまや誰もそれを疑問には思わなくなったわけです。同様のことがクラウドHCMの市場でも間もなく起きると見ています。
――日本でクラウドHCMの市場が現時点で小さいのは、単純にクラウドに対する考え方が保守的だからなのでしょうか。
いいえ、日本の人事の組織の在り方に原因があることがだんだん分かってきました。
――具体的には何が課題なのでしょうか。
日本の人事部門は、入社して人事部に配属されて、人事部でずっとそのままキャリアを積む人がグループで仕事をするケースが圧倒的に多いですよね。そこで人事・給与の定型の事務処理業務のようなものまでカバーしている。
しかし多くのグローバル企業は、そうした業務をBPOで外に出して組織をスリム化し、残った人が人事制度の改革や戦略的な人材開発・配置など、もっとクリエイティブな仕事に集中できるようにしているわけです。そして、BPOで外出しした仕事にそれまで従事していた人たちは、新しい道を探って、マーケティングをやろうとか、セールスをやろうとか、もしくはもっと高位のマネジメントをやろうとか、そういうことが日本以外では起こっている。
コンサルファームなども日本でいろいろなサービスを展開していますが、まだ人事のBPOは多くないですよね。でも、いずれ日本も一生同じ会社で人事の仕事をやるという文化はなくなっていくと私は思います。そういう環境になれば、日本のマーケットも大きく拡大していくでしょう。
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