インテルの日本法人は、日本人が社長を務める時代が長かった。吉田和正氏は2003年6月から13年10月までの10年間、後任の江田麻季子氏は13年から18年3月までの5年間、日本のセールス&マーケティングを統括してきた。ところが江田氏の後任が定まらず、欧州・中東・アフリカ地域をカバーするインテルEMEAのインダストリー・セールス事業部長であるスコット・オーバーソン氏が暫定的な社長に就任。その意味でソニー出身の鈴木国正氏の社長就任は、ようやくという印象である。就任披露会では「ソニーでキャリアを終わらせるつもりだった」と鈴木社長は語った。その思いを翻してまでインテルに入社した鈴木社長を引きつけたものは何か。
日本企業の投資意欲は非常に高い
――就任披露会で、インテルに入社を決めた理由として、インテルの魅力、これまでのキャリアとの類似点、社会的な役割の三つを挙げられました。前職との共通点・相違点を教えてください。
技術をベースにした製造業で、これが企業のコアとなっている点ですね。ビジネスドメインを大きくし、構造改革を起こして、大きく会社を変えようとする姿勢も同じです。会社を変える、カルチャーを変えるには、マインドセットの変革も必要になります。そのためには新しい文化を取り入れ、新しい目を持ってビジネスを創っていかなくてはいけません。この姿勢は通ずるものがあります。
違いは、構造改革を起こし、それをエンドユーザーに訴えていくのが前社でした。それに対し、顧客やパートナーと共に構想改革を仕掛けていくのがインテルです。その点がとても面白いと思いました。緊張感はありますが、それ以上に魅力を感じます。
――社長就任から半年が経ちます。これまでの取り組みと手応えを教えてください。
この半年間、とにかくたくさんの人に会いました。顧客やパートナー、日本法人の社員、本社スタッフ……。こうした方々との交流の中で、どうやって構造改革を起こすか、どう企業を変えていくか、そういう話をしました。ずいぶんと勉強させてもらいました。
多くの経営者と話をしましたが、今のビジネスが5年先、10年先も続くと考えている企業は1社もありませんでした。どなたもビジネスや会社を変えていこうという意識が非常に高かったです。
そこでのテーマは、デジタルトランスフォーメーション(DX)やデータの活用でした。新しいビジネスをどのように創り上げていくのか、企業らしさをどう出していくのか、日本の技術をどう生かしていくのか。多くの経営者は、これらについて真剣に考えていると実感しました。
――DXを起こそうという動きは活発になっていますが、グローバルと比べて日本市場はやや遅れていると感じます。日本市場が抱えている課題は、どこにあるのでしょうか。
ICTへの投資額が課題だと考えています。トータルの投資額は決して少なくはありません。むしろ、日本企業の投資意欲は非常に高いです。ですが、ICT投資の割合は必ずしも大きくありません。例えば、米国や中国は、ICT投資にとても意欲的です。新しいものを生み出すためだったり、付加価値を与えて利益を生み出すためだったりにICT投資をしています。
一方、日本企業は、コスト削減や効率化向上のための投資です。コストへの意識が強いのです。DXへの取り組みが遅れがちなのは、こうした考えが根強いからかもしれません。
社長直轄チームでDXを促進
――DXを促進するため、インテルはどのような支援、サポートをしていくのでしょうか。DX促進におけるインテルの役割は何でしょうか。
ICT投資額が少ない、コスト意識が強い、と申し上げましたが、私がこれまでお会いした経営者の中に「ICT投資をするつもりがない」と言う人はいませんでした。投資意欲はあるものの、何に投資したらいいか分からないというのが実態で、投資先を模索している企業がほとんどでした。ただ、それが具体的になっていない企業が多いのです。そこをインテルがサポートできると考えています。
理由の一つはインテルがグローバル企業であること。グローバルでどのような動きがあるのか、具体的にお伝えできます。つまり豊富な知識を持っているので、それを生かしたアプローチができます。
もう一つ。インテルは今、これまでの事業にとらわれることなく、さまざまな新しいものを生み出そうとしています。世界中の有能なメンバーが、AIやIoT、5Gを活用した最先端のソリューションに取り組んでいますので、それらを顧客やパートナーに紹介することができます。
そして最後に挙げたいのが、私個人の“資産”。私には、国内の事業責任者、グローバルの事業責任者、構造改革を実行してきた経験があります。新しい仕掛けを創ろうとしている企業や担当者に対して、この経験を生かしたいと思います。
――具体的にどのような取り組みをしていきますか。
私は18年11月に入社しましたが、12月中に構想を練り、社長直轄の「コーポレート戦略チーム」を発足しました。このチームでは、産業ごとの縦軸と、AIやIoTといった技術の横軸により、ビジネス機会創出に向けた深掘りに取り組んでいきます。本格的な活動は今年に入ってからですが、数十人の社員がコアとなり、ほぼ全社員がプロジェクトに携わります。また、大手IT企業とともに横断的なアプローチを行っています。
今は顧客やパートナーとのヒアリングを通じて戦略を描いているところですが、夏までには幾つかのプロジェクトに落とし込みます。これを毎年繰り返し、DXを促進するソリューションを生み出していきます。
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