バックアップやファイル共有など、基幹システム以外のデータを格納する「セカンダリストレージ」製品を専門に提供する米コヒシティ。評価額は10億ドルを超え、ストレージ製品の領域では唯一のユニコーン企業と言われる。バックアップ製品を主力とするベンダーが、なぜ世界の投資家の注目を集めているのか。天才的なストレージ技術者としても知られるモヒット・アロンCEO兼創設者に聞く。
ストレージの世界における
スマートフォンになる
――コヒシティは、端的に言って企業のどのような課題を解決する製品を提供しているのでしょうか。
当社の創業製品であり、現在も提供しているのは、バックアップ環境を簡素化するためのストレージです。レガシーなバックアップシステムは、ストレージに加え、ソフトウェアやそれを実行するためのサーバーなど、3~4社の製品をバラバラに購入し、組み合わせる必要があり、非常に複雑でした。ストレージが満杯になると、より容量の大きな別の製品に買い替える必要があり、データのサイロ化が進む原因にもなっていました。当社の場合、1つの製品を購入するだけでバックアップ環境を構築でき、追加の容量が必要なときも、ノードを追加するだけで拡張できます。
その次の段階を、私はいつもスマートフォンに例えてお話ししています。スマートフォンはまず、電話機としてちゃんと使えることが重要でしたが、進化の過程で音楽プレイヤーやカメラ、GPSナビゲーションなどの機能が追加されていきました。当社の製品はそれと同じで、バックアップ領域として便利に利用できるだけでなく、ファイルストレージや開発環境としてもお使いいただけます。
――バックアップ用のストレージを統合して、データの余計な重複や転送時間を削減するというソリューションは他のベンダーからも提案されています。どこが違うのでしょうか。
確かに、バックアップの性能や効率を向上させることに熱を上げているベンダーは多く存在しますが、先ほどの比喩で言うと、他社の製品は昔の単機能の電話で、バックアップだけに最適化されています。当社の製品はスマートフォンに相当し、もっと多くのことを実現します。
――バックアップ以外の典型的な用途としては、どのようなものがありますか。
ファイル共有、オブジェクトストレージ、開発・テスト環境などとして使うユーザーが多いほか、アナリティクスのプラットフォームとするケースや、クラウドとデータセンターの間でデータをやりとりするためのゲートウェイ的な役割で導入されている例もあります。マーケットプレイスからアプリケーションをダウンロードすれば、ウイルススキャン、ログ分析、データ検索などの機能を追加することもできます。
バックアップで入り込み
大半のデータを管理する
――昨年、ソフトバンク・ビジョン・ファンドからの大型の資金調達がありました。ストレージ事業に関して、ソフトバンクグループの孫正義社長と話をする機会はあったのでしょうか。
もちろん、何度もお会いする機会がありましたよ。
――ソフトバンクの投資先は、社会に大きなインパクトを与える企業が多いです。ストレージの未来に関して、孫社長らとどのようなビジョンを共有したのでしょうか。
企業が保有するデータのうち、プライマリストレージに格納されているのは20%で、残り80%はセカンダリです。私からは「当社の製品が企業に入り込むきっかけはバックアップかもしれないが、そうして導入された製品が、企業データの大部分を管理する役割を担う」という考えを提示しました。このビジョンに共感を得られたことから、当社に出資してもらえたのだと考えています。
――昨年11月、ソフトバンクとの合弁で日本法人を立ち上げました。海外現地法人の設立はこれが初めてということですね。
オフィスは世界各地に設置していますが、現地法人を設立するのは日本が初です。ソフトバンクからは当社の早期ユーザーとして製品にも高い評価をもらっており、営業面での協力や、日本市場で好まれる商慣習などのノウハウ面など、さまざまな支援をいただいています。昨年からディストリビューターを務めていただいているネットワールドをはじめ、ソフトバンク以外の日本のパートナーとも良好な関係を築いています。
――アプリケーションのマーケットプレイスは、すでに日本の開発者にも解放されているのでしょうか。
すでにSDKをリリースしており、サードパーティーが当社のプラットフォーム向けにアプリケーションを開発できる状態になっていますが、今はまだiPhoneが発表されたときと同じような段階です。アプリケーションの数は限定的で、日本の開発者によるアプリケーションは、まだマーケットプレイス上には存在しないようです。ただ、ログ分析のSplunkは日本で人気のあるツールなので、Splunkアプリケーションを利用したソリューションを構築している開発者が存在する可能性はあります。日本においても、開発者を支援するトレーニングなどの機会を増やし、エコシステムを広げていきたいと考えています。
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