アイティフォーの佐藤恒徳社長は、手持ちの商材やさまざまな業種ユーザーの橋渡しをして新しいビジネスの可能性を探る「ハイブリッド」戦略を推進していく。金融や小売業などの業種向けのヒット商材を多数持つアイティフォーは、地銀と組んで地元の小売店のキャッシュレスを推進。金融と流通を橋渡しして、点から面へとビジネスを広げる戦略を他の商材や業種にも応用していく。顧客が抱える課題を丁寧に聞き込んで、まるで「アジャイル開発」のように試行錯誤しながらビジネスフィールドを広めていく。この4月にトップに就任した佐藤社長の目指す「ハイブリッド&アジャイル」戦略を聞いた。
ハイブリッド&アジャイルで攻める
――新体制になって2カ月になります。まずは、佐藤社長の経営姿勢について教えてください。
「ハイブリッド&アジャイル」をキーワードに経営に臨んでいます。商材を組み合わせて顧客の経営課題をスピーディーに解決するハイブリッド型や俊敏性、柔軟性を重視するアジャイル型の経営スタイルを重視しているということです。仮説を立てて、試行錯誤しながら、顧客が属する業種の垣根を越えてビジネスの可能性を見つけ出していく。本来はIT用語ではあるものの、当社は技術系の社員が多いですので、敢えてこのような使い方をして、私の経営方針を社員と共有しています。
当社の営業利益率は13%ほどで、SIerの中では高水準を維持しています。その原動力となっているのが、30年以上手掛けてきた債権管理や、地方百貨店に多く採用していただいている小売業向け基幹業務システム、近年引き合いが急増しているキャッシュレス決済など独自性の高い商材を軸にしたビジネスです。
ハイブリッド型のビジネスでは、例えば金融機関向けの債権管理のノウハウを税などの滞納管理システムに応用して自治体向けに納めたり、返済や支払いを催促するためのコンタクトセンター業務をAIやロボティクス技術を使って効率化、自動化しています。コアとなる商材を業種や業務の垣根を越えて広めていくことで、収益性の高いビジネスモデルを構築してきました。
――佐藤社長自身もハイブリッド型のビジネスを率先垂範してきた、と聞いています。
直近では、地銀主導のキャッシュレス決済サービスを担当していました。訪日外国人旅行客が増える中、いわゆる「○○ペイ」と呼ばれる国内外のQRコード決済やクレジットカード、電子マネーなどに対応した当社の「iRITSpay(アイ・リッツペイ)」のサービスとマルチ決済端末を活用したものです。琉球銀行では、iRITSpayを使って石垣島や宮古島、久米島の商工会議所、観光協会と連携した「キャッシュレスアイランド」の実現を進めています。
債権管理でもともとお金の扱いには長けていますし、小売業向けの基幹業務システム「RITS(リッツ)」で小売業務にも詳しい。だったらこれらのノウハウを組み合わせてキャッシュレス決済に応用しようということで、iRITSpayを立ち上げました。金融業と小売業の業種の橋渡しを行うハイブリッド型のビジネスです。
人が集まるところでお金が動く
――アジャイル型のスタイルはどうですか。
新しい商材をつくり出すとき、硬直的な考え方では俊敏性、柔軟性に欠けてしまいます。デジタルトランスフォーメーション(DX)といわれるように、デジタルで既存のビジネスモデルが大きく変わっている今、とりわけ変化への適応スピードは重要です。
私は、3カ月やってダメだったら一旦忘れて、別のことをやる。そしてまた元のところに戻って提案をやり直す。前と同じ提案ではなく、別のことをやっていたときに得た知見を織り込んでバージョンアップさせるように心掛けています。営業だったらそんなことは誰でもやっていると言われそうですが、じゃあ、会社組織としてちゃんと仕組みになっているかといえば、残念ながらまだ十分ではない。
――これまでのビジネスキャリアについてもう少し教えてください。ハイブリッドとアジャイルのルーツになったようなご経験があったのでしょうか。
私のキャリアのスタートは、流通小売業向けのシステム構築です。あるシステム会社で食品スーパー向けの電子発注システムを担当する営業をしていました。牛乳や豆腐などの日配食品を扱うため、システムの停止は許されません。ポケットベルを常に持ち歩いて、ほぼ24時間体制で対応することもありました。働き方改革が叫ばれる今ではちょっと想像できないでしょうが、当時の営業はみんなそんな感じです。
そうこうしているうちにコンビニが全国津々浦々に広まって、近代的なフランチャイズやボランタリーチェーン店が増えて、そうした小売店に多くの人が集まりました。人が集まるところでは大きなお金が動きますので、金融サービスも必要になる。流通と金融の両方にかかわるような仕事はないだろうかと考えたときに、出会ったのが千代田情報機器(現アイティフォー)です。
――なるほど、それでアイティフォーに転職されたわけですね。
まぁ、そうなのですが、当時は今と雰囲気がだいぶ違いましてね。もう時効だと思いますのでお話しますが、「○○(商品の名前)を売ってこい」と上司が言うので、これには、正直、違和感を覚えました。
企業向けシステム販売は、まず顧客の経営や業務の課題を的確に聞き出し、ITを使った解決策を提案するわけです。いきなり客先に行って「○○買ってください」では、さすがに当時のシステム営業でも難しいものがあります。第一、見ず知らずの人に自社の弱点でもある経営課題をおいそれと話すユーザーがどこにいますか。
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