時代によってアプローチは変わる
――課題解決型のソリューション営業は、今でこそ当たり前ですが、90年代は箱売り気質がまだ残っていましたね。それで、どうされたのですか。
私は、上司の指示が及ばない勤務を終えたあとの時間を有効に使いました。端的に言えば、お酒の場に誘ったり、ゴルフについていったりして、接点を持つことで顧客担当者と心やすくなるのです。当社の強みは債権管理システムですが、そのうち顧客のまったく違う部門の方から「うちの部門はこれが課題なんですよね」と声をかけられるようになったときは、うれしかった。
あとから知ったのですが、「あの、佐藤という人は債権管理の○○さんが信用している人だ。システムに詳しく、相談したら嫌とはいわないらしい」という噂が、顧客内で広まっていたのですね。このケースでは、債権管理の顧客担当者と懇意になったあと、その噂を聞きつけて例えば審査部門など別の担当者から声がかかり、債権だけにとどまらず、審査関連のシステムのノウハウも得られる好循環をつくりだすことができました。
金融機関は融資のための審査があり、それを推進する仕組みがあり、貸し出した債権の管理がありと、一連の業務フローがあります。金融機関も銀行、リース、クレジット、サービサーといった業態の違いもありますので、それぞれにあったシステムをトータルで提案するには、何をおいても顧客との心の距離を縮めて、経営や業務の課題を気軽に語り合える間柄になることが大切です。
――とても共感できるのですが、共働きが当たり前になった今の時代、さすがに勤務外となる夜や週末の時間を使うことは難しくありませんか。
もちろんそうですよ。私の時代はそうしたという話です。夜がダメならランチの時間を有効に使うとか、それこそ家族ぐるみの交流でもいい。時代によってアプローチの仕方はどんどん変えていくべきなんですよ。本質は顧客と気軽に日々の課題を話せるような間柄になり、その課題を的確に解決できるだけの業務ノウハウと技術力をわれわれベンダーが持つことですから。
顧客だって働き方改革で早く帰宅するようになりましたし、残業抑制や就労人口の減少を背景に、当社の業務自動化ソフトのRPAの販売も好調です。また、返済や支払いを電話で促す業務でロボットが自動的に電話をかける「ロボティックコール」の顧客数は倍増し、好評を得ています。
――最後に経営目標をお願いします。
2021年3月期に連結売上高140億円、営業利益率16%を中期経営計画で目指しています。独自性の高い商材を軸にしたハイブリッドで、アジャイルなビジネススタイルを推進していくことで中計目標の達成を目指していきます。

Favorite Goods
フランスのブランド「ルイ・ヴィトン」で揃えたビジネスバッグと名刺入れ、ペンの3点セット。「もの持ちはいい」といい、ビジネスバックはすでに10年余り愛用している。「お気に入りのブランドを長期間使い続けるのが心地良い」と話す。
眼光紙背 ~取材を終えて~
初対面で商品の話なんてしない
佐藤社長は、顧客の懐に飛び込んでいくタイプの経営者だ。顧客と打ち解けて課題を聞き込んでいくスタイルで、これまで多くの受注を獲得してきた。強みとなる商材を持ちつつも、「初対面の顧客に商品の話はまずしない」。手持ちの商材で課題が十分に解決できないなら、他社の商品と組み合わせたり、自社でつくったり、あらゆる手立てをつくす。
社会人になりたての頃は、常にポケットベルを持ち歩く現場の営業。就寝するときはポケットベルを「振動モード」に切り替えて、机の端ギリギリに置く。着信があるとブルブル震えて机から落ちる仕掛けだ。夜中に目を覚まして、ポケットベルが床に落ちていれば「呼び出し」があったということ。すぐに現場に駆けつけた。
客先での何気ない会話から、顧客担当者の好む話題を克明に覚えておく習慣も貫いてきた。野球やサッカー、演劇、なんでもいい。「次に会ったときのために、その分野の情報を調べておく」。興味がある話題を振ることで間合いがぐっと縮まる。顧客との接点一つ一つを大切にして次につなげるのが佐藤流の営業スタイルであり、経営姿勢である。
プロフィール
佐藤恒徳
(さとう つねのり)
1964年、岐阜県生まれ。87年、名古屋学院大学経済学部卒業。98年、千代田情報機器(現アイティフォー)入社。2008年、執行役員ソリューションシステム事業部副事業部長。11年、取締役執行役員ソリューションシステム事業部長。16年、取締役常務執行役員フィナンシャルシステム事業本部長。17年、代表取締役常務執行役員。18年、代表取締役専務執行役員。19年4月1日、代表取締役社長執行役員に就任。
会社紹介
アイティフォーの2019年3月期の連結売上高は、前年度比6.1%増の125億円、営業利益は6.6%増の16億円。営業利益率は13%。今年度(20年3月期)売上高は5.1%増の132億円、営業利益は16.1%増の19億円を見込む。