NECグループのハードウェア生産を担うNECプラットフォームズは、国内外九つの主要な工場を、あたかも一つの工場のように運用する「グローバル・ワンファクトリー」を推し進める。今年4月にトップに就いた福田公彦社長は「グローバル規模の組み合わせ最適化によって、生産設備やサプライヤー、人員リソースを最も効率のいい配分にする」ことで、生産性や利益率の向上を目指していく。ここ数年、再編や構造改革が続いたNECのハードウェア事業だが、生産現場の知見を集結して、再び競争力を取り戻す。
「ワンファクトリー」を本格始動
――近年、NECのハードウェア事業は、生産拠点の再編や構造改革、人件費を含む固定費の削減が続いています。そうした中での着任となりますが、これからどう舵取りをされますか。
NECグループの大きな方針として、国内外九つの主要な工場をまるで一つの工場であるかのように運用するグローバル・ワンファクトリー化を精力的に進めています。これによって工場間の稼働率の凸凹をなくし、資産を遊ばせることなく、より効率の高い生産活動が行えるようになります。
グローバル・ワンファクトリー化は、前任の保坂(岳深前社長)さんが準備を進めていたことから、私が着任した今年4月の時点で、すでに始動できる状態でした。私の仕事は、それを本格的に発展させ、収益に結びつけていくことです。
――つまり、これまでは工場がそれぞれ別々に仕事をしていたということですか。
2014年に旧NECインフロンティア、旧NECアクセステクニカなどが統合して当社が発足。その後、17年には旧NECネットワークプロダクツやNEC本体の通信機器部門などを再編・統合して、今の新生NECプラットフォームズに至る過程で、工場間の連携は、常に優先事項と位置付けてきました。
ただ、工場間連携とグローバル・ワンファクトリーは少し意味合いが異なります。生産拠点を再編して、それぞれの拠点の得意技を生かして相互に連携させるのが工場間連携だとしたら、グローバル・ワンファクトリーはまるで一つの工場のような運用を実現するものです。
例えば、11年にタイで未曾有の大洪水が発生しました。タイの工場が洪水で機能不全になったら、すぐさま他の工場へ生産を移せるのが理想的ですが、当時の運用体制では、他の生産拠点でおいそれと代行できるような状態にありませんでした。グローバル・ワンファクトリー体制では、どこかの工場に支障が出れば、すぐさま他の工場が肩代わりできることを目指しています。
――メーカーにとっての工場は、一事業所以上の重みがあると聞きますが、うまくいきますか。
言いたいことは分かります。私も83年にNECに入社して以来、長らくハードウェア事業に従事してきましたので、工場運営の難しさは骨身に染みています。実際、工場ごとの業務的な慣習には特徴があって、それらが重なり合って工場独自の文化のようなものが醸成されています。
例を一つ挙げるとすると、ある生産ラインに「割り込み生産」のオーダーが入ったとします。要は事業部門が急ぎの注文を受けて、早く納品しなければならない事態です。ある工場は、すでに生産に入っている製品の納期を前倒しにして割り込みに対応するのに対して、別の工場は納期は一切変えずにやりくりする。割り込み生産に対応するという業務一つを取り上げても、工場ごとに異なる手法で対応するケースが少なからずあります。
グローバル・ワンファクトリーをより完全に実現していくには、こうした工場ごとの差異をできる限りなくしていく必要があります。
どこで生産するかはその都度決める
――工場同士で切磋琢磨して、売れ筋になるだろう新商品をどこが受注するのか競い合うイメージがあったのですが、随分と様変わりしますね。
工場同士での切磋琢磨は大切ですが、その部分は、全社の改善プロジェクトとして、全ての工場で共有していく方向に変えてきています。工場単位でアイデアを出して改善するのか、全社組織の中で行うのかの違いであって、生産技術や業務プロセスを磨き上げていくという活動そのものはこれからも継続していくべきものです。
かつては工場同士がライバル関係にあり、 NECグループの事業部門と一体となって生産していました。しかし、縦割りの競争関係では、どうしてもフル稼働の工場と、ガラガラに空いた工場との差が出やすい。競争力がある工場は、フル稼働であってもさらに発注がきますので、生産キャパシティからあふれた部分については協力会社にお願いせざるを得ず、コスト増につながってしまいました。
今は、事業部門から発注を受けても、当社がどの工場でつくるのかを決めています。リソースの最適配置によって生産性や収益力を高めるためです。近年ですと、IoTとAIを組み合わせた生産革新や、どの部品をどのサプライヤーに発注し、どの工場で組み立てるかなどの「組み合わせ最適化」の計算技術を駆使して、グローバル・ワンファクトリーに役立つような取り組みを加速させています。
――ずばりお聞きしますが、今、売れている商材は何ですか。
足下では、今年10月の複数税率導入に向けてPOSレジがフル生産の状態です。店舗の色に合わせたり、チェーン店のシステム運用に合わせてソフトウェアをカスタマイズしたりと、標準品をベースとしながらも、きめ細かくニーズに応えられる当社の生産体制は、ユーザー企業から高い評価をいただいています。
他にもデンソーと合弁会社を立ち上げて車載用の情報通信機器を開発したり、アサヒビールとNECグループの共同開発で「輸入ワイン中味自動検査機」を開発したりと、ユーザー企業と協業して製品開発を行うケースが増えています。輸入ワイン検査機はこの5月に発表したばかりで、赤外光照明や画像処理技術を駆使し、将来的には時間当たりの検品の生産性を3倍に高めることを目指しています。
ユーザー企業との協業では、NECグループが持つキーコンポーネントやハードウェアの開発・生産技術がないと実現が難しい案件が多く、それだけ当社の強みが生かせる分野だと自負しています。
[次のページ]サービス化はハード需要を増やす