今年3月、“セキュリティ畑の顔役”とも言える久保統義氏が生体認証ソリューションベンダーであるディー・ディー・エス(DDS)の社長に就任した。IDとパスワードによる認証の脆弱性を突かれたセキュリティ事故は後を絶たないが、久保氏はDDSこそ「クラウド時代の認証市場をけん引できるベンダー」だと力を込める。
DDSのブースで“潜入調査”
――少し時間を遡りますが、まずはクオリティソフトからDDSに移られた経緯をうかがいます。
クオリティソフトを急成長させることができたら、(創業者の)浦(聖治社長)さんに戻すという約束で社長を引き受けたんです。売上高は二桁成長、経常利益も20%以上といういい状況になったので、もともとライフワークだと思っていたセキュリティの世界に戻りたいと思っていたんですね。
――確かに、久保さんと言えばセキュリティ業界で間接販売に長く携わってこられたというイメージを持つ人が業界でも多いと思います。
ただ、セキュリティと言っても範囲が広いですから、何をやるのかと考えたときに、今さらアンチウイルスというのは違うかなと考えながら、いろいろと業界をウォッチしていたんです。そのときに、生体認証をベースにした次世代オンライン認証規格「FIDO」のアライアンスに日本で最初に参加したDDSという会社を知ったんですね。みんなが困っているパスワードをなくそうという面白い会社があると。そこで、ベンチャーキャピタルにDDSの創業者で社長を務めていた三吉野(健滋会長)を紹介してもらったんです。それで、三吉野に私ができることをプレゼンテーションする機会をもらって、このビジネスは私にしか成功させられないので、私にやらせてほしいとお願いしたんです。
――久保さんがDDSに惚れ込んで、ご自身を売り込んだということなんですね。
三吉野には、まだ赤字だから給料は安いけどいいかと言われたんですが、儲かったらたくさんいただけますかと答えて(笑)門を叩きました。クオリティソフトの社長をやっていたヤツがいきなりやってきて、三吉野のほうがビックリしたと思いますが。
――DDSの技術や製品についてはどのように評価されていたのでしょうか。
従来の主力である多要素認証基盤の「EVE」シリーズは使っているお客様の評価が高い。実は展示会の会場に一般ユーザーのふりをして行って、製品の説明を受けたことがあるんです(笑)。そこでデモを見せていただいて、品質が素晴らしい製品だなと思いました。
ただ、売り方は営業マン一人一人がエンドユーザーに直接アプローチするやり方でしたので、営業マンの数にビジネスの成長が依存するという状況でした。日本の市場は販売パートナーが非常に重要な位置付けになる中で、そこをうまく活用できていなかったのが課題でした。そこで、入社してすぐに販売パートナー制度を立ち上げました。
間接販売網の整備で大きく成長
――プロダクトの質は高くても、販売戦略に課題があったということですね。
構築を担当する技術者もそれまでは全てDDSが自前で用意していたので、SEの人数もビジネスをスケールする障壁になっていたんです。今は販売パートナーにもDDSの構築ができる技術者を育成していただいています。さらに、販売パートナーにとっては自社の技術者が動いた分が100%粗利になりますから、Win-WInの関係が築けているかなと思っています。
ユーザーにしても、普段付き合いのある販売パートナーが構築したほうが安心できるところはありますよね。
――実際、そうした施策は成果として表れているのでしょうか。
販売パートナー制度を立ち上げた最初の年に全国で70社にパートナーになっていただき、地方のお客様のフォローも強化できました。自治体情報システムの強靭性向上関連のニーズも全国的にカバーできたのは大きかったですね。
現在では、販売パートナーは100社超まで拡大しており、売り上げも順調に拡大しています。今年上期の売上高は前年同期比190%の水準です。
ハードメーカーやISVなどのアライアンスパートナーも34社まで拡大しています。PC向けの指紋認証では、シェアが年々高まっており、6割を超えている状況です。
――市場環境も良好と考えてよさそうですね。
生体認証が大企業で普及し始めたのは大きな要素ですね。自動車業界で無資格検査などが問題になったことを受け、国も有資格者の本人認証をしっかりと行うシステムづくりを指導しています。これも生体認証のニーズが拡大する要因となっています。あとは文教市場でも、先端のITを学びにフル活用するための施策が打ち出され、認証の新しいニーズが出てきています。具体的には、Chromebookの活用などですね。
働き方改革におけるVDI活用と生体認証の組み合わせなども根強いニーズがあり、継続的な成長が期待できます。認証ソリューションの市場は先ほど申し上げた公共系が一段落したので落ちているという人もいますが、民間企業でのニーズはむしろこれからで、市場はどんどん大きくなっています。全国に販売パートナー網をつくることができたのは、そうしたニーズに対応していくことを考えても大きかったですね。
[次のページ]100人で100億円の売上高を目指す