年明け早々にビッグニュースが飛び込んできた。富士ゼロックスは「ゼロックス」ブランドと決別し、「富士フイルム」ブランドでグローバル市場に打って出る方針を固めた(週刊BCN 1808号、1809号で既報)。来年4月1日には、富士フイルム ビジネスイノベーションに社名を変更し、新たなスタートを切る。この決断に至った理由や、新ブランドの成長戦略を、玉井光一社長に聞いた。
テリトリーの拡大が最大の収穫
――2018年1月に親会社の富士フイルムホールディングス(HD)が、米ゼロックスを買収して富士ゼロックスとの経営統合を図ると発表したことに端を発する一連の動きは、ようやく決着をみました。結果的に、富士フイルムグループは米ゼロックスと提携を解消し、単独でオフィスドキュメント事業をやっていくことになりましたね。
当社の主力である複合機の市場はグローバルで見ても、ほぼフラットで推移しています。このビジネスをもっと大きくしようとすると、シェアをさらに高める必要があるわけです。一方で、現在当社のビジネスエリアは、(米ゼロックスとの技術契約により)日本を含むアジア太平洋地域に限定されています。A3カラー機のシェアは各市場でナンバーワンですが、地域的な広がりは限られている。もっと世界を広く攻めるべきだという結論になりました。
昨年の11月まで米ゼロックスが当社の25%の株を持っていましたが、それを富士フイルムHDが全て買い上げました。そして、当社と米ゼロックスの間で結んでいたテリトリーとブランドライセンスについての契約も、契約満了を迎える来年の3月31日をもって終了する、つまり更新しないことにしました。これが当社にとってどんなメリットがあるかというと、一番大きいのは、ビジネスのテリトリーが拡大することです。
――富士ゼロックス自身がこれまで市場に浸透させてきた「ゼロックス」の名前を使えなくなることにリスクはありませんか。
懸念事項であることは否定しないけれども、「富士フイルム」ブランドで十分に戦っていけると考えています。富士フイルムはワールドワイドで知られていて、日本企業としては認知度もかなり上位です。単独でのグローバル市場にテリトリーを広げるというのは英断だったと思っています。
――ここ数年の富士ゼロックスは、ビジネスの規模というよりは利益を重視してきた印象ですが、規模の追求に振り子が戻ったということでしょうか。
誤解がないようにしたいのですが、最優先は利益を出すことです。ですから近年、利益をきちんと出せるようにする取り組みを進めてきたわけですが、それは成果につながっています。18年度(19年3月期)は過去最高益でしたし、今年度はさらに更新できると思います。富士フイルムHDの中期経営計画で設定された営業利益率10%という目標も、1年前倒しで達成できる見込みです。きちんと利益が出るように会社を仕立て直すことができたので、次は規模の成長にあらためてフォーカスする段階になったとご理解ください。
まずはOEMで新エリアの市場開拓
――米ゼロックスへの製品供給はこれまでどおり続けるということですが、今後競合していく企業に製品供給することになります。
市場でのバッティングはもちろんあるでしょう。ただ、これまでも他の複合機メーカーとは競ってきたわけで、競合相手に米ゼロックスが加わっても現在の市場環境とそう変わらないと思っていますし、勝っていけると自負しています。
――ビジネスの地域的なカバレッジが広がることがゼロックスとの提携解消のメリットというお話がありましたが、欧米を中心とする新しい市場に進出するのはそれほど簡単なことではないのでは。
それはおっしゃるとおりで、販路の整備を考えても大変なことです。いろいろな意味で人とお金が必要で、簡単にできるとは思っていない。ではどうするかというと、まずはOEMから始めます。
――米ゼロックス以外にも商品を供給するということですね。
そんな需要があるのかという疑問をお持ちかもしれませんが、昨年11月の米ゼロックスとの合弁解消以前もふくめ、当社と組みたいという話が国内外のメーカーからきています。なぜ当社と組みたいのか彼らに聞くと、異口同音に「世界の全てのメジャーなメーカーの複合機を評価した結果、一番ロバストネス、つまりは堅牢性が優れていたのが富士ゼロックスだった」と言うんですね。過酷な環境下で試しても、紙がジャムらないし印字のクリアさも変わらない。
――製品力・技術力を武器にOEMビジネスを拡大する自信があるということですね。
次の段階として、自社の独自ブランドでのビジネス拡大にも取り組んでいきます。ありがたいことに、富士フイルムはワールドワイドで大きな拠点が既にありますから、それを使わないのはもったいない。そこに富士ゼロックスの人間を送り込もうと考えています。
――機能するでしょうか。
難しさがあるのは事実ですが、富士フイルムには印刷業界向けのソリューションを提供するグラフィック事業があり、特に欧米の市場では両者は極めて近しいビジネスです。富士フイルムの事業ドメインとまったく乖離しているというわけではないんです。複合機のマーケットも知っている人が多いので、まったくゼロからスタートするということにはなりませんし、リアリティのある計画だと思っています。また、欧米市場では販売会社のM&Aなども検討していくことになるでしょう。
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