クラウドシフトの流れやFinTechのトレンドの影響もあり、新たなフェーズに突入している会計システム市場。TKCはこれまで、会計事務所とのパートナーエコシステムを拡大することで堅実な成長を遂げてきた。2019年12月に社長に就いた飯塚真規氏はITシステムと人的サービスの両軸で、会計事務所、ひいては中小企業全体の生産性の底上げを目指す。
会計事務所の業務領域は
拡大している
――19年の12月20日付で社長に就任されました。就任される際の思いを、まず聞かせてください。
近年、税理士や会計士の間には業務の全てが自動化されてしまうとか、会計ソフトがなくなってしまうといった少々悲観的な風潮があると感じています。また、13年頃にオックスフォード大学の准教授が出した論文ではコンピューターに代替される仕事の一つとして税理士をあげています。
ただ、私はTKCに入社する前は会計事務所に在籍していたのですが、実際に中小企業の経営者のみなさんと仕事をする中で、会計事務所が中小企業に対してできることはもっとたくさんあると確信しています。
――現在のTKCにとって会計事務所はユーザーでありパートナーでもあるという重要な立ち位置にあるわけですが、彼らの付加価値をもっと向上させていくことがミッションになるのでしょうか。
そうですね。当社のユーザー/パートナーの会計事務所がTKC全国会という団体を組織しているのですが、そこでは会計事務所の業務を会計・税務・保証・経営助言の四つに分けていて、中でもデータの正確性というキーワードを軸に保証と経営助言の業務領域を拡大していこうという動きが出てきています。
例えば保証に関連したものでは、ここ最近は粉飾決算の問題が浮上するようになってきています。中小企業の最も重要なステークホルダーである金融機関にとっては貸したお金が焦げ付くわけですから、たまったものではありません。当然、金融機関はしっかりと審査して融資するかどうかを決定するのですが、そこで一番重要なのは、決算書や会計帳簿です。しかし、これまではそれらが紙だったために、厳密に作ったものか、いい加減に作ったものか一目ではわからない。金融機関がその正当性をチェックしないといけなかったわけです。
TKC全国会の会員は、毎月顧問先企業を訪問して月次の決算をサポートし、会計記録の適法性、正確性、適時性を確保するための監査を行っています。さらに、TKCが提供する会計システムは時期をさかのぼって会計記録を不正に改ざんすることができない仕組みになっているので、TKCのシステムを使ってつくった会員の顧問先企業の決算書は、金融機関から見ても非常に信頼性の高いものだという評価を受けているんです。
信頼できる決算データこそが
TKCエコシステムの価値
――決算書の信頼性が、TKC全国会員の顧問先獲得やTKC製品拡販の後押しになるわけですね。
最近ではTKC製品で作成した月次試算表や年度決算書などの財務情報をユーザーの依頼に基づいて金融機関に開示する「TKCモニタリング情報サービス」を無償で提供しています。会計事務所が金融機関に対して顧問先の決算データの正確性を保証するサービス領域ができ始めているのです。従来、企業から提出される決算書が簡単には信用できないために、検証しなければならないことが多く、融資の審査などには大きな労力がかかっていたわけです。こうしたサービスにより、金融機関側も真面目に経営していて優良顧客になり得る企業を捉えやすくなります。
一方で、これらのデータは経営助言という業務領域でも必須になってきます。会計事務所ではコンサルティングサービスもやっているところが多いのですが、数値に基づいたアドバイスをしようにも、そもそもその数値が正確でないとおかしな計画になってしまいます。当社ではそのデータの正確性をITと人的サービスの組み合わせで実現したいと考えています。
――近年は似たような動きとしてオンラインレンディングサービスを提供する会計ソフトベンダーも出てきています。
確かにクラウド会計を中心に、会計ソフトを触媒としてさまざまなデータを金融機関と共有し、AIで解析し、与信がスピーディーにできるようになっていますが、われわれは対応していません。むしろ今はまだ手を出さないという判断です。それは、ひとことで言うと「そのデータは本当に開示していいのか」という視点からです。
例えば一人の経営者がいて、A銀行とB銀行から融資を受けていたとします。これまでA銀行は、その融資先と自行とのやり取りしか把握できませんでしたが、インターネットバンキングなどの情報を基に、B銀行とのやり取りを見られるようになるかもしれません。
――ユーザーが想定していないことですね。
これは本当に怖いことで、経営者のあずかり知らないところで全てのデータを銀行が参照できるようになってしまうかもしれず、誰にどれだけ給与を支払ったといった内容まで把握されてしまう可能性もあります。本当にAIしか見ていないのであれば問題はないのですが、そこには人も介在しています。誰がどんな情報を見ているのかが、あまり明確に語られていない中、そういった許諾の部分がしっかりしていないと危ないだろうと認識しています。
また、そもそもわれわれのサービスを活用した与信の質自体がAIを活用したオンラインレンディングよりも上だと自負しています。一般的なAIレンディングの場合、多くても上限金額は3000万円、3%~8%ほどの金利でしか借りられないというイメージですが、TKCのサービスをご利用いただいている場合、ずっと低い金利で融資しているケースがほとんどです。スピードについても、即日融資を実現した事例も多く、申し分ないはずです。クローズアップされることが少ないのですが、このサービスは会員の皆様の価値向上につながっているのではないでしょうか。
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