国内外でユーザー数を大きく伸ばしているビデオコミュニケーションプラットフォーム「Zoom」を擁する米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZVC)。働き方改革の機運の高まりはもとより、直近では新型コロナウイルスの感染拡大対策でリモートワークの需要が増大する中、コミュニケーションツールベンダーは軒並みユーザー数が急増し、同社の存在感は際立っている。ZVC JAPANのカントリーゼネラルマネージャーを務める佐賀文宣氏は、かつてシスコシステムズでZoomの競合製品である「Webex」のパートナービジネスを担当した経験を持つ。ビデオコミュニケーションツールの今昔を知る同氏が考えるZoomの強みとは――。
新型コロナ危機を
働き方改革の契機に
――昨年2月にZVCに入社し、ビデオコミュニケーションツールのビジネスに戻ってこられました。現在の市場をどうご覧になっていますか。
約8年くらいのブランクがあったんですが、いろいろな意味で市場がほとんど変わっていないことに驚きました。当時のウェブ会議・ビデオ会議関連の市場規模は200億円くらいだったと記憶しているのですが、19年の2月時点でも270~280億円程度にしか成長していませんでした。メインプレイヤーの顔ぶれも変わらずで、欧米では急成長している業界なのに、このままでいいのかという思いがありましたね。
――ZVCは19年に日本法人の活動を本格化させたわけですが、手応えはいかがですか。
19年は前年比で新規の売り上げが約2倍になりましたし、全体の売上高は3倍近くになりました。有料ユーザー数も18年から約1000社増えて3500社以上になっています。口コミで高い評価を拡散していただいたことで採用につながることが多く、安定性や操作性の良いUIにご満足いただけている証しだと考えています。
CIOのようなIT投資の意思決定層が“CIO仲間”に紹介してくれることが多いのもZoomの特徴です。全体の利用状況を確認・分析できるダッシュボード機能がついているのですが、利用率を上げて組織としてのパフォーマンス、生産性をどう向上させるのかなどを検討するのに役立ちますし、ガバナンスの強化にも活用できることが評価されています。オンラインミーティングのための“野良ツール”もたくさんありますが、ここはエンタープライズのニーズに応えた大きな差別化ポイントですね。
――直近では新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に深刻な影響をもたらしていますが、多くの企業がテレワークの導入を迫られ、オンラインコミュニケーションの需要も拡大しています。
確かに、ここ数カ月でトラフィックは非常に伸びています。また、Zoomを近く導入しようと検討されていたユーザーが、判断を早めてこのタイミングで急いで導入されるような動きは目立っています。ただ、先ほど申し上げた19年の数字には、当然20年に入ってからの売り上げは入っていませんし、もともと働き方改革のトレンドや東京五輪・パラリンピックを見据えてテレワークを導入・検討される企業は多かったんです。そうした企業が積極的にZoomを導入する動きは昨年の時点で非常に活発だったと言えます。
――見方によってはニーズを先食いしたとも取れますが、その反動減はありませんか。
新型コロナ問題をきっかけに半ば強制的にテレワークをせざるを得なくなったことで、テレワークでも生産性が落ちないことや、実施が難しくないことを実感されている企業はたくさんあるはずです。また、過去にウェブ会議やビデオ会議を検討したけれどもその実用性に失望したというような方も、Zoomを使ってみてその進化に驚かれることが多い。ツールの進化とテレワークのメリットが表裏一体で改めて評価される状況になっていて、新型コロナ問題が収束した後も、多くの企業が継続的に導入を検討されると考えています。
後発のモバイルネイティブ製品
だからこそZoomは強い
――Zoomが他のウェブ会議システム、ビデオコミュニケーションツールと決定的に違う点は。
従来のウェブ会議・ビデオ会議システムは、一つの部屋に集まって行う会議をリモートでもできるようにしようというコンセプトで開発されていました。ただ、会議というのはいろいろなコミュニケーションの中の一つでしかありません。対面のコミュニケーションの中には1対1の個人的なミーティングもありますし、15分程度で終わる簡単なものもあります。会社の中にはさまざまな形態のコミュニケーションがあって、それらを総じてリモートで可能にすることで、単純に会議を代替するだけでなく、企業のビジネススピードを向上させることを目指すというのが、Zoomのグランドデザインです。
――テクノロジーの観点ではいかがですか。
従来型の主要なウェブ会議・ビデオ会議システムはクライアントサーバー型のシステムが主流の時代に開発され、できるだけサーバー側に重い処理をさせてそれをクライアント側に配信するというアーキテクチャーになっていました。この場合、接続人数を増やすなど大きな負荷をサーバーにかけると簡単に切れてしまいます。
一方でZoomは9年前に開発を開始しましたが、高性能なCPUを積んだスマートフォンやタブレット端末が普及し始め、モバイル、クラウドが一般化してきた時期です。結果として、必ずしも全ての処理をサーバー側でしなくてもよくなりました。Zoomでは、サーバー側はディスパッチを中心に行い、ビデオコーデックなどはモバイル側で行う分散処理のアーキテクチャーを採用しています。バーチャルバックグラウンドやAI顔認識といった処理も端末側で行っているのですが、現代のモバイル端末には、それでもなお余力があります。オンラインミーティングの市場でわれわれは後発ですが、後発だからこそモバイル、クラウドに最適化なアーキテクチャーを実現できたのです。
――オンラインミーティングの機能は大手総合ITベンダーがスイート製品の一機能としても提供しています。ユーザーによってはそれで十分だと考える可能性はありませんか。
そういったスイート製品では、オンラインミーティングの機能はいわゆる“おまけ”のような位置付けです。数年前まではそれでもよかったかもしれませんが、近年の働き方改革の盛り上がりなどでビデオソリューションに対する要求はどんどんシビアになっていて、真剣にリモートワークに取り組みたいユーザーは“おまけ”の機能では満足できなくなってきているんです。
当社のコアサービスはオンラインミーティングで、ここに関しては投資を惜しみません。すでに他社のスイート製品を導入されているユーザーでも、Zoomをそこにインテグレーションする形で採用する例が増えています。
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