企業経営に深刻な影響を与えているコロナ・ショックの中、アビームコンサルティングは、顧客企業の課題整理に奔走している。景気後退が強く懸念されるが、「最低限、今何をするべきかを絞り込むことが、生き残る上で重要になる」と、鴨居達哉社長は話す。課題を絞り込むことで優先順位が明確になり、解決の糸口を見つけやすくなる。こうした取り組みが、その企業の競争の源泉は何であるかの本質を突き詰めることにつながり、将来の成長に向けた「変革の原点」になる。この4月1日、トップに就任した鴨居社長に詳しく話を聞いた。
「最低限やること」を見つける
――コロナ・ショックで市場環境が激変しています。顧客企業に向けてコンサルティングサービスを提供する際、どのような点が重要になってくるとお考えですか。
市場の変化に素早く適応していくことが企業経営にとって重要であることはご承知の通りです。今回のコロナ・ショックは、その「変化」が極端な形で表れたものだと捉えています。それにどうやって対処すべきかと言えば、最低限、今何をするべきかを絞り込むことです。
これまで経験したことがないような振れ幅の大きさですので、従来の延長線上で考えることはもはや難しいと言わざるを得ません。まずはコロナ・ショックを生き残ること。そして、コロナ後の成長につなげていくことに焦点を絞って、優先順位をゼロベースで組み替えていくことが必要となります。当社は、コンサルティング会社として、こうした視点に立って顧客企業の経営を支援していきます。
――2008年のリーマン・ショックのときもそうでしたが、危機的状況になるとコンサルティング需要が増えると言われています。御社のビジネスという観点で見れば、むしろ追い風になっているのでは。
コロナ・ショックでは、世界中で多くの方が罹患され、亡くなっている厳しい状況です。罹患された方々にはお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方々には心からご冥福をお祈り申し上げます。当社としては、この危機を乗り越えるために、顧客と知恵を出し合うことに全力を注ぎます。ビジネスを考えるのはその次の段階です。
単純な比較はできませんが、リーマン・ショックのときを思い起こすと、担当していたプロジェクトが次々と凍結、延期になりました。それと同時に「最低限、これをやらなければ会社がもたない」という、顧客が最も優先して解決すべきクリティカルな課題を洗い出し、解決を支援する仕事に変化したタイミングでもありました。リーマン・ショックの前と後とでは、市場環境が大きく変わっていますので、どのみち従来の事業計画なり、課題解決の優先順位は抜本的に見直さざるを得ませんから、一度、リセットされたような感じになったのを覚えています。
換言すれば、リーマン・ショックを新しい「変革の原点」と位置づけて経営コンサルティングに取り組んだと言えると思います。今回のコロナ・ショックにおいても、コロナ後を見据えた「変革の原点」を見いだしていくことが重要なポイントになるのではないでしょうか。
本質は何なのかを自分の言葉で
――コロナ・ショックを「変革の原点」と位置付けたコンサルティングの方法論とは、どのようなものになるのでしょうか。
顧客企業の置かれている状況によってまったく異なりますので、一言で「これだ」とは言いづらい。コンサルタントは未来を予言できるわけではありませんので、顧客といっしょになって一つ一つ課題を洗い出していくしかありません。
ただ、そうですね……。かなり昔の話になりますが、2000年代初頭、ネットビジネスが隆盛し、今のスマートフォンにつながるモバイルインターネットの先駆けとなるサービスが出始めた頃のことです。市場環境は従来のアナログベースのものから、デジタルやモバイルに対応したものに激変するタイミングでした。当時、私のチームが担当したプロジェクトでは分厚いバインダー2冊分ほどの提案書をつくりました。
無事、受注にこぎ着けたまではよかったのですが、その顧客から「じゃあ今週中にこれを5ページに収まるようにまとめてくれ」と言われたのです。つまり、その顧客の経営者は、詳細な提案書はよいが、これとは別に提案の本質は何なのかを自分の言葉で語って見せよということだったのです。
――なるほど、課題を収集してまとめ上げることは大切としつつも、課題の塊から本質を削り出すことを求められたと。
課題は山のようにあり、一つの課題を解決すると次の課題が見えてくる。課題は連鎖しているのです。どの課題に優先して取り組み、「課題の連鎖」を「価値の連鎖」へと変えていくのか、段取り、順序を示してくれということだったと思います。2000年代初頭は、デジタル化の大きなうねりの中、誰も経験したことのない変化が起きていたわけですから、顧客企業に少しヒアリングしただけで課題が次から次へと出てきます。重要なのは変化を目の前にして、企業戦略として何を優先するかを決めることなんです。
リーマン・ショックでも、コロナ・ショックでも基本的な部分は同じ。短期間のうちに変化の振れ幅が非常に大きいということです。冷静になって、何がその企業にとって最も優先すべきアジェンダ(課題項目)なのかを見極めていくことが大切です。
――アビームコンサルティングの強みは何だとお考えですか。
企業経営の戦略立案から業務改革、システム設計、開発、実装までを一気通貫で行えることが最大の強みです。戦略系のコンサルティング会社はシステムの実装がどうしても弱点になりますし、IT系のコンサルティング会社は戦略部分が弱い。当社は戦略立案からシステムの実装、定着まで総合的に支援できる日本発の総合コンサルティングファームである点が、ライバル企業との差異化になります。
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