2020年の年明け早々、SAPジャパンの社長が4月に交代するというニュースが飛び込んできた。生え抜きでトップに立った前社長の福田譲氏は富士通に移籍。後を引き継いだのは、15年に入社し、直近では常務執行役員を務めた鈴木洋史氏だ。新型コロナによる世界的な混乱とともに船出をすることになった鈴木体制でSAPジャパンは何を目指すのか。
通期での業績は
悲観していない
――社長交代の発表から就任までの間に世の中の状況が大きく変わってしまいました。
2月後半くらいに社内に緊急対策本部を立ち上げ、私がチェアマンに就きました。テレワークは月に8日までといったルールがもともとあったんですが、これを撤廃するなどいろいろな施策を打ちました。ただ、会社側が従業員に指示する一方通行の取り組みがほとんどで、そこに課題を感じていたのも事実です。
3月に入って、従業員が何に困っているのか、抱えている課題や不安をきちんと把握しようということで、SAPグループのオンラインアンケートツールベンダーであるクアルトリクスの製品を使って、1000人強の従業員にアンケートを取ったんです。いろいろな意見を吸い上げて必要な施策を検討・実行しました。4月に社長に就任して直後に緊急事態宣言が出たわけですが、その段階で99%の社員はテレワークができていましたね。
――スムーズに移行できましたか?
気を配ったのは、いかにデジタルを通じて従業員と“対話”していくかということです。オンラインで全社ミーティングを2週間に1回行っているのですが、ツールを活用してなるべく双方向のコミュニケーションを心掛けています。従業員の疑問や悩み、不安に対応できる環境をつくっていくことが大事です。
――社員の不安や悩みを解消するために、具体的にどんな取り組みを行ってきたのでしょうか。
例えば育児中の従業員は、保育園が休園になってしまって、そのケアのために休業を余儀なくされるケースがありました。こうした事態に対応しやすい休暇制度に変更したり、ストレスを抱える従業員も増えていたので、ストレスマネジメントのセッションを開催したり。人事部門を中心に“よろず相談所”のような形で社員の相談にいつでも答えられる窓口を設けたりもしましたね。あとは経費精算時に領収書の原本を出さなければいけないというルールがあったんですが、これも止めて、写真を撮って送ればいいことにしました。
――顧客側の状況はいかがですか。
3月後半からは緊急事態宣言への流れもあり、お客様側でも一気にテレワークが進みました。いまではお客様と当社のコミュニケーションも当たり前のようにオンラインになっていて、少なくとも、進行中のプロジェクトが完全に止まったということはないですね。
――コロナによる当面のビジネスへの影響はどうみておられますか。
これからスタートしようとしていた案件についてはやはり影響が大きいです。半年くらい様子を見ようという動きはありますね。ただ幸いなことに、完全にプロジェクトを止めようというお客様はそんなにいらっしゃらないです。業界によって濃淡がありますが……。
1月から3月の第1四半期は、グローバル全体で総売り上げが前期比7%伸びました。日本は11%とより大きな成長を見せています。第2四半期については新型コロナの影響を考慮していなかった当初の計画に対して厳しい結果になりそうですが、第3四半期、第4四半期で盛り返せそうな兆しはあるので、年度の着地としてはそれほど悲観していないです。
――日本市場の伸びを支えているのは旧ERP製品のS/4HANAへの乗り換え需要が特に大きいということなんでしょうか。
それも一つの要素ではあるんですが、デジタルトランスフォーメーション(DX)というキーワードが浸透し、SoRの基盤の上に攻めのITをどうつくっていくかを多くのお客様が考えるようになっていることが大きいです。IoT、AI、アナリティクスといったものを、単に技術論ではなく、ビジネスを変えていくために活用するという取り組みが加速しています。SaaSなどをERPとセットで採用していただくことが非常に増えています。
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