テレワークが当たり前の働き方になり、Web会議ツールの需要が爆発的に増えた。しかし、国産Web会議ツールベンダー・ブイキューブの間下直晃社長は、Web会議はコミュニケーションのオンライン化の第一歩に過ぎず、見据えるべきはその先と話す。15年以上にわたりビジュアルコミュニケーションの世界でサービスを磨き上げてきた間下社長に、新型コロナ禍でのテレワークとWeb会議のあり方をどう見ているか、率直な思いを語ってもらった。
ツールはあった、文化が変わった
――これほどテレワークやWeb会議が注目されたことは過去になかったと思います。この分野で長年ビジネスをされてきた間下さんとしては、今どんな思いをお持ちですか。
東京オリンピック・パラリンピックが予定されていたことから、「2020年、日本ではテレワークが広がるはず」と言われていました。ただ、そうはいっても、人は変わりたくない生き物で、今までのやり方をわざわざ変えようと思うのは、基本的に“変人”なんです(笑)。特に日本はその色が濃くて、外から何かに押されないと変わらない。これだけ働き方改革と言われていても、ほかの先進国に比べて日本の変革は遅くて、世界の中では取り残されていくのだろうな……と、今年始めの時点では悲観していました。しかし、新型コロナウイルスの影響ですべてが変わりました。あと10年はかかると思っていたような社会の変化が、この数カ月の間に起こってしまった。
――創業以来最大のターニングポイント、と言えるくらいの影響でしょうか。
会社の成長段階ごとにいろいろなことがあったので単純には比べられませんが、影響の規模という意味では、今回は過去最大級の出来事だと思います。当社にとっては、08年から09年のリーマンショックの影響が最初の大きな波でした。あのときは移動ができなくなったわけではなかったのですが、経費がかけられないから「出張を減らせ」と言われ、Web会議ツールへの問い合わせが、今年と同じように前年比10倍くらいに増えました。ただ、当時は高速なインターネット回線やモバイル機器が、今ほどは普及していませんでした。だからWeb会議もそこまで根付かなかった。しかし今回は、Web会議を行うためのツールがユーザーの手元にほぼそろっていた。ここが大きな違いです。
――テレワークのための環境はいつの間にか整っていて、あとはやるかやらないかのところまで来ていたということですね。
私たちはいつも、テレワークを通じて働き方改革を実現するためには「文化」「制度」「ツール」そして「場所」の四つがそろっていることが必要と言っています。「ツール」だけがあってもテレワークは普及しないし、うまくいかない。それが今回のコロナ禍で、多くの人がリモートでコミュニケーションをとることに慣れ、「文化」の部分が強制的に社会に実装された。これは当社にとっては非常に大きいことです。政治や行政の会議なんて、今までは対面でないと絶対にダメという世界でしたが、やってみたら意外に成立する、ということを理解いただきつつあります。
――「Web会議のマナー」が議論される時代が来るとは思いませんでした。
私自身は形式的なことは気にしませんが、マナーを指摘する人が出てくるくらい、幅広い人の間でリモートコミュニケーションが一般化され、世の中の文化が変わったということだと思います。
――先ほど挙げられたテレワーク成功の四つの要素のうち、残るは「制度」と「場所」があります。
例えば評価制度ですね。今までなんとなく「彼はちゃんと会社に来ているのでよく働いている」と見ていたとしたら、テレワークではその評価のやり方は機能しなくなります。「部下の評価ができないからテレワークができない」という会社があるとしたら、それは評価がしにくいのではなく、これまできちんとした評価をしてこなかったということです。今、多くの企業が新しい社内制度の確立に動いていますよね。
もう一つの「場所」ですが、オフィスのあり方、家のあり方、サードプレイス(職場でも家庭でもない居場所)のあり方がテレワークに向けて変わってきている。私たちもテレワークに適したワークブースの「テレキューブ」を提供していますが、街中の設置台数は100台を超えました。しかも、都心より郊外のほうが利用時間が増えています。企業の本社は東京に残ると思いますが、オフィスは都心の大フロア型から郊外・地方を含む分散型になるでしょう。居住地を東京から地方へ移す人も出てきています。
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