IPOを目指し
パートナーエコシステム重視に転換
――HRを含むERP市場の経験が豊富な安斎さんから見て、ワークスHIの強みは何ですか。
ERPに限らずですが、一般的に優良顧客、技術力、社員の質、この三つの要素が揃うと成長できます。ワークスHIには既にこれが揃っています。
COMPANYはこれまで、普通ならアドオン開発になるような機能も標準機能に組み入れ、無償バージョンアップで全てのユーザーに展開するというモデルでビジネスをやってきました。これにより、先ほど述べたような業務の最適化を経てそこにシステムを当てはめていくというやり方を、カスタマイズなしで実現してきたわけです。これは競合製品とは一線を画す技術力に支えられているものですし、強固な顧客基盤があることは、より多くのユーザーのニーズを網羅できる機能を整備するという意味でも非常に大きな強みです。
――人材についてはいかがですか。
ワークスHIの社員は自己完結能力が高く、「他責NG」が徹底されていますし、社員同士がリスペクトし合っている。これは入社してみて驚いたことです。方向づけさえ間違えなければ、十分に株主の期待に応えるレベルで成長が可能です。
――どんな戦略で成長を図っていくのでしょうか。HRをコアに、再度ほかの機能モジュールも揃えてERPベンダーとして再起を図る可能性は?
まずは人事領域でCOMPANYワールドを進化させて、日本のお客様に最も信頼されるHRテック企業になります。むこう3年のおおまかな投資計画は既に出来上がっています。従業員エンゲージメントの強化と健康経営の支援機能にどう投資していくのか、具体的な議論を進めているところです。財務基盤もかなり安定しましたし、ベインキャピタルもR&Dへの投資を強力に後押ししてくれています。
――ワークスHIは、旧COMPANYのHRとともに旧HUEのHR機能も同時に継承したわけですが、製品ラインアップはどう整理されますか。
最新のCOMPANYシリーズに旧HUEのコンセプトを移植していく計画です。
――旧COMPANYは「直販」「ノンカスタマイズ」も前面に押し出していました。
ノンカスタマイズの方針は変わりませんが、販売戦略については、パートナーエコシステム重視の方針に変えていきます。
COMPANYはお客様の人事戦略のプラットフォームになることを目指し、HRソリューションをフルスイートで囲い込むことを目的にはしません。例えば、COMPANYの人事給与や勤怠管理に、「SAP SuccessFactors」のタレントマネジメントを組み合わせて使ってもいい。従来の競合であっても、補完的につながることができるソリューションベンダーとは連携を拡大していきます。
また、販路や(導入支援など)サービスの提供体制という意味ではSIerに担いでいただくことを前提に、私自身、トップ営業でパートナー開拓を進めています。
――顧客対象についてはいかがですか。
中堅向け市場への進出も検討はしています。
――安斎社長として掲げる目標は?
まず、投資会社が株主ですし、IPOはしたいと考えています。事業の将来性や財務を含めた経営の健全性を明らかにして、世の中に当社の価値を示すことにもつながります。これはできれば3~4年で実現したいですね。その先の将来に向けての事業計画も作成しているところです。
IPO後の当社を担う人材を育てるのも私の責任だと思っています。実際、後継者育成には力を入れていて、仮にワークスHIを卒業したとしても業界でリーダーとして活躍してもらえる人材を輩出したいですね。
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Goods
15年のアルテリア・ネットワークスへの転職時に購入したモンブランの万年筆を愛用。営業畑が長いが、気を付けてきたのは顧客の言葉を自分勝手に解釈しないこと。「万年筆は丁寧に書かないと見られる字にならないので、人の話をよく聞きながら正確にメモするのに最適」だという。
眼光紙背 ~取材を終えて~
強力な「個」の掛け算を促す
SAPジャパンの社長時代は、ワークスアプリケーションズとは競合としてしのぎを削った。同社から、HR事業と「COMPANY」ブランドを引き継いだWorks Human Intelligence(ワークスHI)の社長としての職務を、自身のキャリアの集大成の場と位置付ける。
ライバルとして苦杯を嘗めさせられたこともあるからこそ、強みは実感している。「20年以上にわたって、企業経営に人事戦略をどう生かしていくかという視点でCOMPANYを提供してきた。その資産は大きな力になるし、我々にしかできない差別化のための基礎と言える」
ワークスHIには、旧ワークスアプリケーションズから人材も引き継がれた。「自責型、自己完結型の質の高い従業員がそろっていることに驚いた」が、その個の力を企業としての成長にどう生かしていくかが安斎社長の手腕の見せ所。顧客満足度を向上させるために行動するという価値観を共有し、社員同士が連携して“掛け算”の成果を出す基盤をつくろうとしている。「お客様の真意を理解した上で、課題解決に貢献するために必要なら社長だって使うという意識を持って社内のいろいろな人間を巻き込んでいけばいい」。協業型のエコシステムに転換していくCOMPANYビジネスの第2章には、そんな文化こそふさわしいと考えているのだ。
プロフィール
安斎富太郎
(あんざい とみたろう)
東京都出身。1981年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、日本IBMに入社。社長補佐、IBM米国本社勤務、公共・公益・通信メディアサービス事業部長、理事、NTT事業部長などを歴任。2006年、デルに移籍し、執行役員営業統括本部長(法人向けビジネスの日本代表)。11年、SAPジャパン社長に就任。15年、アルテリア・ネットワークス社長兼CEO。20年1月にWorks Human Intelligenceの取締役副社長に就任。同7月1日から現職。
会社紹介
「COMPANY」を擁する国産HRテック企業の大手。1996年に設立された国産ERPベンダーであるワークスアプリケーションズが前身で、同社が19年8月に米投資会社のベインキャピタルにHR関連事業を売却して発足した新会社がWorks Human Intelligence。HR関連事業をワークスアプリケーションズから顧客ごと引き継ぎ、「COMPANY」ブランドも継承。国内の大手企業を中心に1100企業グループの採用実績がある。従業員数は連結で1727人(19年末現在)。