コニカミノルタジャパンは、コニカミノルタグループの国内事業会社として、「デジタルワークプレイス」「現場のDX」「ヘルスケア」の三つの分野に焦点を当ててビジネスを伸ばしていく。コロナ禍で一般オフィスでのプリント需要が目減りする中、リモートワークの妨げになる紙やハンコをなくして業務をデジタル化する需要を取り込むとともに、製造業などの現場作業の生産性の向上、診療所の医用画像のオンライン共有といった分野に取り組むことで成長につなげる。今年4月にコニカミノルタジャパンのトップに就任した大須賀健社長が、コロナ禍による事業環境の激変にどう適応しようとしているのかを聞いた。
中小企業の業務デジタル化に商機
――コロナ禍が始まって半年あまりが過ぎ、一般オフィスでのプリント需要が大きく減少しています。業績へのインパクトはどれほどでしょうか。
国内事業会社の当社の売上構成比を見ると、複合機を中心としたビジネス機器関連は半分弱を占めており、主力事業という位置づけです。リモートワークによってオフィスでのプリント需要が伸び悩んでいることは大きな経営課題として捉えています。とはいえ、当社のユーザーは中小企業が多く、とりわけ地方の中小企業のリモートワーク比率は、東京都内の大手企業に比べて高くない。このことが幸いにも当社のビジネス機器へのインパクトを比較的少なくしています。
地方では自宅からオフィスまでマイカーで10分と職住近接であることが多く、わざわざ家で仕事をする必要がない。満員電車に詰め込まれる都市部での生活様式とは違いますので、プリント需要の減少幅も限られています。もちろん、海外売上比率が約8割を占めるコニカミノルタグループ全体で見ればインパクトは大きく、コニカミノルタ社長兼CEOの山名昌衛は、この10月に開催した経営方針説明会で「一般オフィスのプリント需要はすぐに戻らない」とコメントしています。
私はこの4月1日付でコニカミノルタジャパンの社長を拝命するのと前後してコロナ禍に見舞われ、それに伴う事業環境の変化をチャンスに変えていくことに全力を注いできました。
――具体的には、どのようなチャンスがあると見ていますか。
まずは一つに「デジタルワークプレイス」の構築です。端的に言えば、「職場から紙やハンコをなくす」ことで、職場の完全デジタル化を支援します。当社の主戦場である中小企業や自治体には、紙やハンコを伴う業務フローが大量に残っています。オフィスのキャビネットを見れば厚手のファイルに挟まれた紙が大量に保管されており、これでは災害が起きたときにリモートワークができません。地震などで職場が使えなくなると業務が止まり、事業継続の障害になってしまいます。
職場のデジタル化やリモートワークは、当社自身が意欲的に取り組んできた分野でもあります。2013年から働き方改革を本格的にスタートさせ、IT基盤の整備やオフィスに紙文書を保管しない「保管文書ゼロ化」運動を展開。紙と場所に縛られない働き方を実践していたノウハウを生かし、顧客企業のデジタルワークプレイスの実現に役立てていきます。
製造業など現場作業のDXに注力
――複合機メーカーの国内事業会社が「紙と場所に縛られない働き方」を提唱するのは、矛盾があるように感じます。
短期的に見ればそうなのかもしれませんが、中長期的にはまた違う風景が見えてきます。国内就労人口は減少の一途をたどり、向こう30年で今の3分の2に減る見通しです。就労人口の減少を少しでも補うために定年制度を廃止したり、共働きが当たり前になったりする一方、子育てや介護にも時間を割かなければなりません。働く時間がどんどん短くなる中で生産性を維持するには、大胆な働き方改革を実行せざるを得ない。当社では、「いいじかん設計」という名称で、働き方改革の設計、導入、運用に至るまで支援するビジネスに力を入れています。
コロナ禍が収束すれば、働く人はオフィスに戻り、プリント需要も元通りになる――と短絡的に考えるのは危険です。一定数はオフィスに戻り、プリント需要も回復するでしょう。しかし、ある程度のレベルまで進展した働き方改革や、紙とハンコをなくすデジタルワークプレイスが後戻りすることはありません。これを前向きに捉えて、日本が抱える少子高齢化、就労人口の減少のインパクトをできるだけ小さなものにして、生産性を維持向上させるビジネスを展開することが、当社の成長のカギを握ると捉えています。
――コニカミノルタジャパンは、ビジネス機器や働き方改革関連のほかに、どのような商材が伸びると見ていますか。
画像系IoT機器の強みを生かしたビジネスの伸びに期待しています。例えば、コロナ禍にあってオフィスビルや大規模施設に入館する人の体表温度を測定したり、マスク着用の有無をチェックする需要が高まっています。2016年にコニカミノルタグループに加わったドイツのMOBOTIXは、AI解析機能を備えたネットワークカメラやサーマルカメラの開発に優れており、この技術を活用して一度に複数の人の体表温度やマスクの有無を測定。多くの人が訪れる場所でも、人の流れを滞らせることなく感染拡大の防止が可能です。
IoT関連ではほかにも、当社グループはモノの色を測る測色計、表面の光沢値を測定する光沢計、稲や植物の葉に含まれる葉緑素を測定する葉緑素計などさまざまな分野で使える測定機器を開発しています。これに前述の「いいじかん設計」で培った働き方改革やデジタルワークプレイスのノウハウを加えることで、製造業や農業といった「現場のデジタル変革(DX)」のビジネスを伸ばす考えです。
[次のページ]診療所の医用画像分野に強み