課題は現場に
解決するのも現場
――意識変革につながった具体的な取り組みを紹介していただけますか。
「チェンジエージェント」という制度をつくって現場目線の変革に取り組んだのは大きかったですね。自薦・他薦の両方で各組織から現場の第一線で活躍しているかなり優秀な層を選抜し、業務の2~3割の時間を社内制度や働き方改革の議論・提案に充ててもらうという取り組みです。今期は90人規模でそうした体制をつくっています。
社員の職務経歴と各組織の募集ポジションを社内公開してジョブマッチングを図る「NEC Growth Careers」の制度などはまさにここから出てきたものです。課題は現場にあって、解決するのも現場です。現場の人たちがいいと思うことを提案すれば、それが会社の制度になるという事例が増えてきて、社員の意識変革につながっています。
――外資系企業からの人材登用も昨今の国産大手ベンダーのトレンドという印象ですが、文化の衝突のような問題はなかったのでしょうか。
一番心配したのは、18年4月にグローバルビジネスユニット(BU)のトップを務める副社長として、GEジャパンの社長だった熊谷(昭彦)さんを招へいした時です。従来の流れなら、そのポジションに就けそうだった人が社内にいたわけですが、いきなり外から人が来てしまった。でも、熊谷さんは事業の方向をきちんと示して、配下の人材のポジションをきちんと設定して任せていくというスタイルでモチベートし、組織を活性化させました。まさに外資系トップのやり方ですが、これってすごく新鮮だったんですよね。一番変わったのは、海外で勤務する外国人の社員です。熊谷さんがトップになったことで、彼らのNECグループへの帰属意識も高まりました。
――先日の記者会見で、次期社長の森田さんはグローバルでの成長にフォーカスするというメッセージを強く押し出していた印象です。そのための基盤は確立できたということでしょうか。
そこはまだまだですね。5Gはもともとわれわれが全社を挙げて取り組まなければならないテーマですが、(森田次期社長が5Gと合わせて重点領域に掲げた)デジタルファイナンスにしてもデジタルガバナンスにしても、これまで4500億円ほどかけて買収した海外のグループ会社を核に、どうシナジーを出して成長させていくかは新しいチャレンジです。
森田君は、「グローバル」を海外ではなく日本を含めた世界と捉えていると言っていたけれども、それは彼の言う通りです。当社が買収したKMDは公共分野に強いデンマーク最大手ですが、デンマークはデジタルガバメントの先進度では世界有数です。KMDのソリューションを日本にそのまま持ってくるわけにはいかなくても、デジタルガバメント化の遅れの解消に生かすことはできる。デジタルファイナンスも同様です。
――森田さんからは、数値目標を設けるかはともかく、海外の売上比率は50%くらいになるのが健全な形ではないかという話もありました。
今のままでは厳しい数字で、もっともっとグローバルで戦える武器が必要です。日本市場はSIが主体で、これは海外では通用しないモデルなので、SaaSなど違うビジネスモデルをつくらないといけない。
NECも含めて日本のメーカーがダメだったのは、日本の中にある程度の大きさのマーケットがあるから、ただお客さんの要求に従って一生懸命モノをつくるというビジネスを続けてきてしまったことです。気が付いた時には海外製のデファクトスタンダードができてしまっていた。クラウドも、ERPも、データベースもみんなそうなってしまいましたよね。グローバル企業はこれからもどんどん日本でビジネスを拡大しようとするわけですから、グローバルで通用するビジネスを目指さないと競争できない。われわれも強みを発揮できる場を決めて、それなりのスケールを維持して戦っていく必要があります。
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NECグループである日本航空電子工業の米国法人が、大谷翔平選手の「ボブルヘッド・デー」をスポンサードした縁で手に入れたボブルヘッド人形。“二刀流”の革命児に、既存ビジネスの強化と新規のイノベーションを両立させようとするこれからのNECの姿を重ね合わせる。
眼光紙背 ~取材を終えて~
再成長の基盤となる新しい文化
まだ3カ月以上の任期を残すものの、約5年間の社長在任期間は荒波を突き進んできた感覚が強いのではないか。自らの経営方針を反映した中期経営計画を1年で撤回し、新たな中計をつくり直した経緯がある。以来、NECの再成長に向けた基盤をつくるために新野社長が最も力を注いだのが、文化を変えることだった。
プライドを捨て、大手外資系企業などから外部人材を積極的に登用。グローバルで競争力を発揮できる会社になるための制度改革、意識改革を地道に進めてきた。「これまでのNECは与えられたリソースでどうパフォーマンスを最大化するかを考える文化だった。外資系の人たちはそうじゃなくて、必要な機能を規定して、そこに充てる人材が足りなければ外から持ってくる」。そうやって戦うための仕組みをつくるのは、NECで純粋培養された人材にはなかなか難しかった。
ただし、NECには「伝統的に素直な人が多く、いいと思うことは理解して受け入れる力がある」のが強みだとも考えていた。改革の事例を目の当たりにして、意識が変わり始めた社員は多かった。中途採用は年間100人未満だったのが、今年は400人規模で採用している。転職市場でのNECの評価もうなぎ上りだという。「変革の時期にチャレンジしたい人っているんです。そういう人がNECを選んでくれるようになった」。文化が大きく変わりつつある証左と言えるのかもしれない。
プロフィール
新野 隆
(にいの たかし)
1954年生まれ。77年、京都大学工学部を卒業しNECに入社。金融向けの営業畑を歩み、2006年に金融ソリューション事業本部長に就任。11年6月に取締役執行役員常務、7月に同職兼CSO、12年4月に代表取締役執行役員副社長兼CSO兼CIOに就任。16年4月より現職。21年4月に代表取締役副会長に就任予定。
会社紹介
1899年創立の電機メーカー。正式社名は日本電気(にっぽんでんき)。2019年度連結決算では純利益が前年度比152%増の999億6700万円となり、23年ぶりに過去最高を更新した。「2020中期経営計画」(18年度~20年度)では、20年度に売上高3兆円、営業利益1500億円、営業利益率5%を目標に掲げる。