働き方改革やコロナ禍で、人材の在り方が大きく変わり、関連の市場が盛り上がっている。クラウド型のヒューマンキャピタルマネジメント(HCM)システムなどを展開する米ワークデイの日本法人は昨年、新規ライセンスの売り上げと成約案件数で過去最高を記録した。昨年8月から日本法人のトップを務める正井拓己氏は「今年は人材管理市場が大きな転換期を迎える」と語る。さらなる成長に向けて、正井氏はどのような青写真を描いているのか。
市場のうねりが業績を後押し
一緒に成長できる基盤として選ばれる
――日本法人のトップに就任されて半年が過ぎました。これまでのビジネスの状況はいかがでしょうか。
この半年は、非常に市場の変化が激しかったと感じています。少し大きな視点で捉えると、まず働き方改革の大きな波があり、人材管理の領域が脚光を浴びました。そしてそこに新型コロナウイルスの感染拡大に伴う波が重なり、新たなうねりが生まれました。ビジネスに近いフロントの部分から、企業の根幹をなすようなプロセスや制度などの部分にDX(デジタルトランスフォーメーション)が展開されるタイミングでコロナ禍になり、日本のお客様がDXを推進した結果、昨年は新規ライセンスの売り上げと成約案件数で共に過去最高を記録しました。
――企業における人材の重要性についてはどのように認識されていますか。
私はこれまで、25年にわたってIT業界に身を置き、テクノロジーで企業の変革を支援してきました。その中で非常に痛感したのは、どんなに素晴らしいテクノロジーを適用しても、それだけでは変革を実現するのは難しいということです。たくさんの企業が試行錯誤してDXを進めていますが、企業そのものが変わっていくためには、人材や組織、企業文化を変えていく必要があり、それらが変革を実現する際のラストワンマイルを握っていると思っています。また、企業における人材戦略の考え方は大きく変化しています。これまでのように人事部だけに任せるのではなく、最優先課題として経営レベルで取り組んでいく必要性が叫ばれています。そのため、今年の人材管理市場は大きな転換期を迎えるとみています。
――製品の特徴や強みについてはどのようにお考えですか。
われわれは、単に製品やソリューションを提供しているプレーヤーではないと思っています。お客様に導入・展開しているのは、世界中でわれわれの製品を使っているお客様のベストプラクティスそのものであり、それによってお客様の変革を促すことができると考えています。これは他社とは全く異なるアプローチです。さらに、HCMシステムなどの各製品は、クラウドネイティブでデザインされており、全ての製品が同じプラットフォーム上で完結できるため、統合的なデータモデルやセキュリティ、アーキテクチャーをきちんと担保することができます。これからの時代、経営環境や社会情勢は継続的に変化していくと予想されます。変化に合わせて、より俊敏に組織の改革や人材の再配置ができることは非常に重要になると思っており、それを支えることができることもわれわれの強みだと考えています。
――顧客の規模や業種にはどのような特徴がありますか。
日本法人を立ち上げた初期の段階では、グローバルに事業展開されている大企業が多い状況でした。こういったお客様は、人材変革を進めていくのが当たり前という明確なモチベーションをお持ちで、欧米の企業と戦っていくための非常に優先順位の高い経営施策として人材変革に取り組まれていました。それぞれのお客様が目指していることを体現できる製品として、われわれを選んでいただけたと思っています。一方、最近は、お客様の層が除々に大企業以外にも広がっています。例えばスタートアップやインターネットサービス系などのお客様ですと、過去のしがらみにとらわれず、3年後、5年後の事業のビジョンに基づいて一緒に成長していけるような人材基盤を求めており、そういった観点で選ばれるようになってきています。
財務管理を上半期中に国内リリース
中規模企業への導入も拡大へ
――今年の製品展開の方向性を教えてください。
これまでは人事部門の方々に対してHCMの提案をさせていただくことが多い状況でした。しかし、人材戦略は人事部門だけの課題ではなくなってきているので、それぞれの企業の経営課題に適用できるようにソリューションを展開していきます。具体的には、財務管理ソリューション「Workday ファイナンシャル マネジメント」を今年の上半期に国内でリリースする予定です。ファイナンシャル マネジメントは、欧米ではすでにリリースされています。導入実績は1000社以上で、日本のお客様にも受け入れていただけると思っています。単体での提案に加え、HCMやプランニングの機能と連携させる形での提案も考えています。また、プランニングソリューションの拡充も計画しています。今後は財務人事プランニングを支援するエンタープライズアプリケーションプロバイダーへの転換を図っていきます。
――パートナーとの関係や今後のパートナービジネスの方針をお示しください。
パートナーシップの強化は、日本でのビジネス成長を加速する重要なカギとなると考えています。現在、導入サポートとコンサルティングを担当するサービスパートナーと、販売から導入後のサポートを担当する日本独自のリセラーパートナー、連携ソリューションを提供するペイロールパートナーの三つの枠組みがあります。この中で、サービスパートナーでは、国内で200人規模の認定コンサルタントが誕生しており、多くの案件でわれわれとサービスパートナーが連携できる体制が整ってきています。リセラーパートナーでは、日本IBMと日立ソリューションズの2社と一緒にビジネスを展開しており、協業による案件が増えてきているので、一つでも多くの案件を一緒につくっていくことを目指します。今後は中規模企業への導入も進めていくつもりですが、その場合は地域性を広げていく必要があります。パートナーと役割分担をしながら、しっかりとカバレッジを広げていきたいと思っています。
――パートナーとは具体的にどのような形でビジネスを展開していくお考えですか。
全てのお客様が、人事や人材の変革に関して進むべき方向感を明確に持っているわけではありません。例えば、お客様が試行錯誤されている中で、構想策定の段階からサービスパートナーと一緒にお客様の道しるべを作り、そこからわれわれのプラットフォームを使ってどのようにDXを進めていくかという話に移っていく流れを想定しています。パートナーとしてお付き合いをさせていただく企業の数にこだわるというよりは、われわれと同じ方向性や価値観を持って、改革の伴走者としてお客様を支援できるパートナーと一緒にビジネスを展開したいと考えています。
――最後に今後の意気込みを聞かせてください。
今年1年の目標を何にするかという観点よりは、向こう3年、5年の成長を支える礎を築くことが私の役割だと感じています。そのため、今年は組織やビジネス、パートナーエコシステムの土台をしっかりとつくることに注力していこうと思っています。
Favorite
Goods
日本IBMに在籍していた時、生まれて初めて手に入れたノートPC「ThinkPad」。「エレガントさがある反面、タフさもある。自分の理想像を体現している」ところがお気に入り。ノートPCはThinkPad一筋で、自宅には歴代の機種を大切に保管している。
眼光紙背 ~取材を終えて~
成長を一過性で終わらせない
現職に就いたのは昨年8月。コロナ禍のさなかで、周囲からは同情の声もあったというが、市場では人材管理の領域が大きく注目されていた。正井社長は「最高のタイミングだった」と当時の状況を振り返る。
社長に就任し、約1カ月半をかけて全社員とオンラインミーティングを実施した。オフィスで顔を合わせるのが普通だったこれまでのやり方とは大きく変わったが、「学んだことは非常に多くあり、コロナ禍だからこそ得られた貴重な経験だ」と語り、毎日を「楽しんでいる」と笑顔を見せる。
大切にしているのは「常に正しいことをする」の意の「Always do the right things」という言葉。「どんなにビジネスが苦しい時でも、自分が正しいと思うことを実行し、チームのメンバーと一緒に前に進めば、必ず道は開ける」と力を込める。
前職では、エンドユーザーとしてワークデイの製品を使っていた。実体験があるからこそ、製品の魅力は理解しており、企業の変革に役立つとの思いは強い。
昨年は新規ライセンスの売り上げと成約案件数で過去最高を記録した。「当然だが、今年はそれを超えないといけない」とし、「市場が拡大する中、堅実な成長は見込めるが、それに満足していたら成長が止まってしまう」と気を引き締める。成長を一過性で終わらせるつもりは毛頭ない。
プロフィール
正井拓己
(まさい たくみ)
日本IBMでキャリアをスタートし、セールスを中心に16年以上の経験を積んだ後、Pivotalジャパンのエリアバイスプレジデント兼日本法人ゼネラルマネージャーや日本マイクロソフトのセールスディレクターを歴任。2020年8月から現職。
会社紹介
米国カリフォルニア州プレザントンに本社を置く米ワークデイの日本法人として2013年8月に設立された。主力製品のヒューマンキャピタルマネジメント(HCM)システムなどを展開している。グローバルの顧客数は約7900社以上で、フォーチュン50の60%の企業が採用している。