NECソリューションイノベータは、NECグループの連携を大型案件の獲得につなげている。特にユーザー企業のビジネスモデルを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)案件では、上流工程のコンサルティングとシステムの構築、実装の両方が求められるケースが多くを占めることから、アビームコンサルティングとNEC本体を含めた連携を加速させることで商談を有利に進めているという。今年4月にNECソリューションイノベータの社長に就任した石井力氏は、これまで進めてきた3社連携について「ここ2年くらいで目に見える成果が出せるようになってきた」と手応えを感じている。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
顧客と伴走できる能力を強化
――NECソリューションイノベータは、前身のNECソフト時代からソフト開発の生産革新に力を入れてきました。現体制になってからもグループの中核SE会社であることに変わりはない印象ですが、今後、こうした位置づけに変化はあるのでしょうか。
当社は“ソフトウェア工場”としてソフトの生産革新を愚直に追求してきましたが、情報システムの多くがクラウド上で運用されるようになると、ソフトを「つくる」よりも、どう「使う」かにより多くの価値が見いだされるようになりました。かつての工場的な発想では、限界があるだろうとの判断で、NECクループのSE子会社の統合をきっかけに、従来にない新しいITソリューションを創出する意味を込めて社名を「NECソリューションイノベータ」にした経緯があります。
もちろん、ソフトを効率よくつくることに長けた人材を多く擁していることが当社の強みであることに変わりありません。ただ、それだけではなく、クラウドネイティブなシステム構築を通じて価値創造をするバリュークリエーター的な側面を強化しています。また、優秀な若手IT技術者を採用するには、ソフト工場的な発想よりも、今どきのクリエーター的なスタイルのほうが受けがいいのも事実で、激しい人材獲得競争を勝ち抜く観点からも新しい開発スタイルを取り込んでいくことが重要になってきます。
――ここで言うバリュークリエーターとは、具体的にどのようなものでしょうか。
NECグループの中核SE子会社として、例えばNEC本体が受注した案件の開発部分を担い、あらかじめ決められた仕様に沿って、高い品質のソフトを開発するのも価値創造の有効な手段です。ただ、今の時代、それだけでは十分とは言えません。
サプライチェーン改革など顧客のビジネスモデル全体を変えていくような、いわゆるDX型のプロジェクトでは、前例のほとんどない変革に挑戦するわけですから、実証実験を繰り返し、試行錯誤しながら設計と開発、運用をしていくことになります。開発部分を担う当社だけでは、顧客が期待するような価値を届けることは難しい。そこで、NECグループの総合力を生かし、上流部分のコンサルティングや設計、既存データの分析から開発、運用に至るまで、顧客のビジネスの変革を一気通貫で担い、伴走するケイパビリティ(組織的な能力)が求められることになります。
SIerとして独自の立ち位置
――つまり、NECソリューションイノベータの役割や立ち位置が変わりつつあるということでしょうか。
ユーザー企業からの要求は、上流のコンサルティングからデータ分析に基づく知見、システムの実装、運用まで一気通貫で担ってくれる能力であることが増えていますので、こうした要望に応える体制として、当社と上流のコンサルティングを担うアビームコンサルティング、NEC本体の3社連携を推し進めています。
アビームやNECが上流の設計部分を担い、当社が中流の開発工程以降を巻き取るイメージです。すでに成果も出始めており、昨年度は西日本の製造業ユーザーのサプライチェーン構築で、向こう5年間で100億円超のプロジェクトを受注しました。ほかにも東日本の物流会社から50億円規模の案件を獲得するなどグループ連携が急ピッチで進んでいます。
――そこまで連携に効果があるのであれば、アビームコンサルティングと合併する選択肢はありませんか。
今のところはそういった話はありません。これまでアビームがよく手がけてきたERP(統合基幹業務システム)のSAP導入プロジェクトであれば、導入コンサルティングが入って、あとは実装を担当するSE会社が入る組み合わせでもよかったですし、むしろそのほうがコンサルティングの独立性が高まって評価されるケースは多いので、NECの冠がなく、中立性が高いアビームの立ち位置は今でも重要だと認識しています。
とはいえ、先進的なデジタル技術を駆使して顧客のビジネスそのものを変革していくようなプロジェクトでは、コンサルティングから運用までカバーし、運用から再び上流のコンサルティングに戻して改良、刷新を継続させるサイクルを回してくことが大切ですので、グループ間連携も非常に有効になっています。
――アビームとNEC本体との3社連携は、いつごろから取り組み始めたのでしょうか。
5年ほど前から始めて、ここ2年くらいで目に見える成果が出せるようになってきました。私はNEC本体の常務を務めながらアビームやNECソリューションイノベータの役員を兼務するかたちで進めてきましたし、今もアビームの取締役会長を兼務して連携を推進している最中です。
3社連携を始めてみて、上流から中流の工程をカバーするのに加えて、現場にデバイスを展開する中流と下流の工程の連携も有効だと感じています。例えば、全国展開しているチェーン店のシステム刷新では、小売業として激しい競争に打ち勝つ戦略立案の根拠となるような小売や顧客のデータ分析はアビームが強みとする領域です。戦略をもとに具体的なシステムに落とし込むのは当社が担い、POSレジやキオスク端末、ハンディーターミナルといった現場での展開力はNECフィールディング、ネットワーク構築はNECネッツエスアイが担う布陣を構築できます。
上流と下流の両方で連携できる当社は、他のライバルSIerに比べても独自の立ち位置にあると捉えています。
独自ビジネスにも積極姿勢
――NECソリューションイノベータ独自のビジネスはいかがでしょうか。
SE子会社の当社としては異色の独自ビジネスとして、疾病の発症確率を予測する検査サービス「フォーネスビジュアス」を当社子会社のフォーネスライフが中心になって手がけています。血液中のタンパク質を測定して、将来の生活習慣病や心筋梗塞、脳卒中などのリスクを予測するもので、約7000種類のタンパク質を一度に測定する米ソマロジックの技術をベースに向こう4年の疾病発症確率を予測します。また、NECの健診結果予測シミュレーション技術などと組み合わせて企業や団体の健康診断に取り入れてもらい、従業員の健康や医療費の抑制に役立ててもらっています。
タンパク質のモデルと疾病の傾向は人種によって微妙に違いますので、国内の医療機関と連携しながら予測精度を高めていくとともに、国内で培ったノウハウを米ソマロジックに還元したり、アジア近隣の国や地域に横展開したりする選択肢もあり得ます。
――前出の3社連携がグループ内を中心としたものであるのに対して、米ソマロジックとの協業は海外企業との連携ですね。
グループ内外の企業との連携を通じて、より多くの価値をつくりだしていくのが狙いです。海外企業と組む場合は、国内市場向けにローカライズする必要があり、ここに当社が長年培ってきたソフト開発やシステム構築のノウハウが生かせます。フォーネスビジュアスは月額課金でも提供しており、当社グループ独自のサブスクリプションモデルとしても力を入れています。
長年培ってきたソフト開発の技術を基本としつつ、上流のコンサルティングや運用・保守を担うグループ会社と連携を一段と深めることに加え、特定分野で海外の優れた技術を持つ企業とも連携し、当社独自のビジネスの立ち上げに今後も積極的に取り組んでいきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
SE子会社としてソフトウェアの飽くなき生産革新を追求してきたNECソリューションイノベータの企業文化を大切にしつつ、「さらにもう一歩進めて自分たちで考えて行動できる組織力を一段と強化していきたい」と話す。
選手が自ら考え、行動する仕組みによって全国大学選手権で9連覇の偉業を成し遂げた帝京大学ラグビー部をロールモデルと捉える。現場の従業員を選手に見立て、中堅幹部をコーチ、経営層を監督になぞらえる。
組織が大きくなればなるほど、仕組み化されていない「俺の背中を見て学べ」方式では通用しないと、2015年にNEC本体のエンタープライズビジネスユニット長になったときに痛感した。「現場の従業員が自ら考え、行動する企業文化を支え、伸ばす役割を果たしていく」と、組織の力を最大限に引き出すことで競争に勝ち残っていく。
プロフィール
石井 力
(いしい ちから)
1962年、神奈川県生まれ。85年、法政大学経済学部卒業。同年、NEC入社。2009年、流通・サービス業サービスソリューション事業部長。13年、執行役員グローバルリテール・サービスソリューション事業部長。15年、執行役員エンタープライズビジネスユニット長。16年、NEC執行役員常務。18年、アビームコンサルティング取締役会長(兼務)。22年4月1日、NECソリューションイノベータ代表取締役執行役員社長に就任(アビームコンサルティング取締役会長を兼務)。
会社紹介
【NECソリューションイノベータ】1975年設立の日本電気ソフトウェアを源流とし、国内SE会社が統合した新体制として2014年に発足した。昨年度(2022年3月期)単体売上高は3250億円、従業員数は約1万2000人。